おかあさん…


「どうしたもんかな…」
 腰に手を置いて、息をつく。

「二人も運べないよ」

「…や、一人でもムリだけど」
 今度は腕組み。
「ほら、寝てる子供って重いっていうじゃない?」

「こんなでかいの、…子供じゃないし。いくら私が年上でもムリだわ」
 一人、自分の言葉にツッコんで乾いた笑い。


「しょうがないなあ」


 ――――視線の先には…、
 エドワードとアルフォンス。二人はテーブルに突っ伏して寝ているようだった。規則正しい息使いが二人分、聞こえてくる。それにあわせて、肩が、背が少し動いている。
「なんでリビングで寝てるんだろ、この二人」


 サエナがちょっと外に出ている間だった。
 確か、外に出る前は……二人はリビングで図面を広げていた筈だ。案の定、テーブルにはまだ図面がある。
「…昨日、遅かったんだねぇ。まったく」
 エドワードの椅子の背もたれに茶色のコートが掛かっている。それをエドワードの肩に、アルフォンスには自分のストールをかけてやる。
「おーい、そこのお二人さーん、風邪引くよ〜…」

 ゆさゆさ。
 ゆすっても、手を払われるだけで起きる気配がない。
 くしゃくしゃと頭を掻いて、また息をついてストーブを入れる。
「あとはお湯でも沸かして…乾かないようにすればいいかな」
 サエナは二人を起こすことはやめることにしたようだった。



 ――――それから1時間も経っただろうか。

 じいっ…。
「見つめてれば起きるかも」
 流石に暇になってきたサエナ。ストーブを使っているので部屋に戻るわけにもいかず、結局、二人が寝こけているテーブルについていることになってしまった。
「ムリ、かあ…。……あーあ、子供みたいな顔してさ。……――――ま、ちゃんと休みなさいな」
 二人の頭をなで、椅子から立ち上がる。
「お茶でも用意しておきますかぁ!アルとエドはコーヒーで〜…」



「か、あ……さん?」



「!」
 微かに聞こえてきた声で振り向く。
 エドワードは確かに寝ていて。でも、眉を思い切りひそめている。
「……誰か……助けて…。母さ…ん……アル…」

「エド?」

「ごめん……母さん………ごめ…ん……あんな…」

「………」

「アル……ごめん……お前を…」
 閉じた目から涙が伝っていく。

「…昔の、夢?」
 サエナは自分の手を見て、エドワードに視線をまた戻した。
「私は同じじゃないよ…?」




「エドワード」
 静かに近寄って、頭に手を置く。

 ぴく、エドワードが微かに反応する。

「母さんね、エドワードとアルフォンスの『母さん』でよかったわ」
 少しだけ声を落ち着かせて。こんな感じかな、と想像しながら。
「………」
「だから、もう謝らないの…。いいの、これから二人で頑張ってくれれば…」
 頭をなで、エドワードの表情を伺う。
「…………母さ…ん…」
 落ち着いたような表情に戻り、またすうっと寝入る。




「………これで、エドが…いいなら、いいよね」
 穏やかに眠るのを確認してから、お茶を入れるために移動。


「サエナ」
 しかし、また呼び止められる。今度は本当の名前で。
「今度はアル?」
「いや、ぼくは起きてるけど」
「いつから…?」
「エドワードさんが『母さん』って言い始めたあたりから」
「…そっか」

「――――サエナは、いいの?」
 構わずお茶の用意をするサエナの隣まで来て、怪訝そうな顔で聞く。
「何が?」
「…今の、『サエナ』を呼んでいたんじゃないんだよ。『お母さん』だ。間違えられて…代わりに――――…」
「ストップ」
 手を出す。
「いいの。……それでエド、もう泣いてないでしょ?……いいやり方だとは言えないかも知れない…けどさ、……その人の為になるウソもあるかも、でしょ」
「………」
「トリシャさん、もういないから、本当のトリシャさんからは声、かけてもらえないんだよ。夢の中でも、会えたって…思えるでしょう?」
「………」
 アルフォンスの表情は硬い。
「もう、ワガママだねえ。アルもエドも」
 頭を撫でようとして、その手を振り払われる。
「!」

「代わりじゃないって…。分かってもらいたいんだ。……ぼくやサエナを友達として見て欲しいんだよ…!」
「いいコだね、アルは」
「…ぼくは…サエナの…『いいコ』だけじゃイヤだけど」

「?」

「……――――分かったよ。今のは秘密、エドワードさんにも『今のお母さんの正体』は言わない」
「ありがと」
「…………」

「それにさ!……私、こんなでかい子いないもん」
「!……」


 言って、思わず二人で笑い始める。


「エドワードさん、起こそうか」
「コーヒーも淹れたしねえ。起こそっか」
「これ、ありがと。一枚あるだけで違うね、あったかかった」
 まだ肩にかかっていたストールを、サエナの肩に返す。


「ま、今度寝るときは部屋に帰ってよ?こんなの二人も運べません」
「…はい」






サエナを活躍させてください。と言われましたので殆ど彼女です。

「意外」だったのは、
サエナがちょっと大人っぽい。
そしてちょっと機嫌が悪いアル。

んで、…寝てるエド?(何)

2005.11.12



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