逢わなければ…


 空気が、こんなに重いなんて知らなかった。
 空が、こんなに暗いなんて知らなかった。

 君といた時間は、今まで自分が生きてきた時間と比べればかなり短い時間だった……筈だ。


「アルフォンス、そっちの取ってくれ」
「ああ、これですよね」


 『日常』は、君がいなくなっても、普通に流れていく。
 何事もなかったかのように。
 エドワードさんに言わせれば「一は全・全は一」だという。自分たちの命の流れは世界の一部であって、…その流れは止められなくて。それに逆らってもいけなくて。
 でも、ぼくは、まだそこまで割り切れない。
 わかってる、エドワードさんがお母さんを錬成して失敗したことも、サエナが死んだ時だって錬金術をやろうとしたことも。



 夜空を見上げれば星が見える。
 星の名前なんてさっぱり知らないけど、それでも意味なく眺めた日もあった。

 人工的な夜空を見せた時だって、子供みたいにはしゃいでた。


「………――――はあっ」
 知らず、ため息をついて、あわてて自分の中で撤回する。
「…疲れて、るのかな。…疲れてなんていられないのに。…そろそろ、カーニバルの準備だ」
 胸をさすりながら、片方の手で机のファイルを引き寄せる。
「……大丈夫」

 大丈夫、言葉にしたとたん、視界が歪んだ。
「…おかしいな」
 ため息をつきながら苦笑し、前髪をつかんで。

「全然進まない、施工計画書の通りに進まない…んだ。まさか自分がこんな風になるなんて…想像もしなかった…」
 自分に割り当てられた分の仕事、それが思うように進まない。



『だから、大丈夫だって!アルもエドも。心配ないよ』


「…………サエナ」





「君に…」



『アル…ずっと、ずっと一緒にいようね。約束』



「君に…逢わなきゃよかった…!!」

 押し殺したような声。
 言うと涙がぼろぼろ零れてくる。


 会った日のことが、思い出されて。
 日常が思い出されて。


「だって、そうだろ……。…逢わなければ…こんな思いしなかった…!今だって、ロケットのことだけ考えられていた筈…なんだっ………!」



「…でも」


「逢わなかった方のが…怖かった…。思い出がない方が、きっと、怖かった」

 苦しくなって胸をまたさする。
 指に触れた硬い物はシャツの下にある十字架。
「わがままだよね…ぼく」

 こんなこと、想像してなかった。
 きっと自分は『置いていく』側だと思っていたから。
 だから、何処かで……安心していたんだ。最期まで自分を見てくれる人がいるってことを。
「……ごめん…」



『アル、泣きたい時って泣いた方がいいんだよ、泣きたいって思ってるんだから』



「……ごめんね、…サエナ。…やっぱり、逢いたい…」


 アルフォンスは自分の部屋の窓から見えるその星空を眺め、

「約束の場所には、絶対……連れて行ってあげるから。待っていて…。大丈夫…弱気になったりは…多分、しないから、…だから、見ていて?ぼくの、これからを」


 カーニバルまで、あと少し。


「情けない話だよね…君に約束したつもりが……」


 『それ』が今の自分を支えている、と。






暗ッ!!
夜になると、一人になるとこういうことを考えたり。
人間的くさいアルフォンス。

暗くてごめんなさい。
「置いてけぼり」食らったのはアルだったようです。


2005.11.11



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