繋がっている空、それぞれの願い。


 リゼンブール。
 エルリック兄弟が生まれ育った村。

「ウィンリィ?…ここにいたんだ。修行終わったんだね」
 その村の墓地。
 ウィンリィは両親の墓の前で花を手向けていた。
「うん。アルも帰ってたのね。お帰り!」
「近くまで来たから母さんのお墓参りしようかって。途中報告」

 彼らの幼なじみ、ウィンリィ・ロックベルは機械鎧技師としての修行を終え、ここ、リゼンブールに戻って来たばかりだった。
 そして、エドワードの弟、アルフォンス・エルリックは兄を探し、殆ど村にいることはなかったが、たまにこうして村に帰って来る事がある。

「アル、ちょっと大きくなったね」
 アルの母、トリシャの墓の前で手を合わせる姿を見て、笑って言う。
「そうかな」

「……どう?…あれから」
「どうって、……うん、まだ、兄さんは見つからないけど」
「…そっか、でもあのバカ、きっと帰ってくるよ。バカだから何処かで迷ってるのよね。しょうがないなぁ」
「うん…兄さんの帰るところはここしかないんだ。大丈夫!絶対会えるって気がするんだ」
「……でも、アル、ムリしちゃダメだよ。約束したでしょ、ちゃんと元気で帰ってくるって」
「もう。分かってるよ!」
「それに、あんたら兄弟は手紙もよこさないし!」
 はあっ、と盛大にため息。
「…便りがないのは元気な証拠とも言うけどね、たまには帰ってきなさいよ?」
「うん。…そうだ!ねえ。ウィンリィ、兄さんってどんなカッコしていたの?」
「は?」
「だから、前、旅してたときだよ。兄さんと同じようなカッコしていれば、みんなに聞けるでしょ、だから…」
「ん。……じゃあ、教えてあげる」

 言って、空を見上げる。

「大丈夫、きっと兄さんだってこの空を見てるから」



*



「空、何か見える?」
 アパートの前、木箱に腰掛けて空を眺めていた。
「あ?」
 背後から声をかけられて、首だけ後ろにそらす。
 逆さまに映るサエナの姿。
「………――――いや、ま…今日も星がきれいだなってくらいは」
「なぁに、それ。星座でも見てるのかと思った」
 エドワードがこうして話を逸らすのは慣れている。だから、特にそれに対しては突っ込まず、エドワードの隣に立って、壁に寄りかかり、同じように空を眺めた。
「星座ぁ?はは、…んなの知るかよ」
「だから、エドが星座なんておかしいな〜って」

「なあ、空って何処まで繋がってると思う?」
「へ?…………え〜………っ?」
 返事が出来ず、考え込む。
「う〜ん………ずーっと、遠くまで、じゃないの?」

「…ずっと、か」
 これがアルフォンスだったら、科学的に話すんだろうな、と苦笑しながらつぶやいた。

「ずっと。だからさ、何処にでも行けるんだよ。…アルとエドはその為の乗り物を作ってるんでしょ?」

「!」
 一瞬目を見開いて、息を飲む。

「?なんか、ヘンな事言った?」
「いや」
 目を細めて、泣きそうな目だけど、笑う。
 サエナの言っていることはきっと子供のような発想。
 でも、その子供の発想に、エドワードは可能性を信じていた。この世界に飛ばされてから、いろいろ試した。

 そして分かった。
 遥か遠くの空の果てには、…向こうには、他の世界なんてない。
 無限の空間が広がっているだけ。

 でも、無限ってなんだ?可能性はないのか?


「でも、空の向こうって、ホントは曖昧でよく分からない。…だから、考えても分からないから、実行するのっていいんじゃないかな〜って思うんだ」
「…はは……なんだよ。それ」
「だって…誰も行った事ないんでしょ。だから『ない』って決め付けるのが一番よくないよね。今から諦めたら意味ないよ。…だから――――…」


「エドワードさん、サエナ。…ここにいたんだ」
「アル」
「ああ。……と、じゃ中に入るか、寒くなってきたしな、サエナ、お前も風邪引くぞ」
 よいしょ、と立ち上がり、二人より先に中に入る。


「…エドワードさんと何、話してたの?」
「空が何処まで繋がってるか、何があるか。だって」
「何処まで…。何が?」
「アルだって、わかんないでしょ、空の向こうに何があるか、『はっきり』なんて」
「…………」
 ふっと空を見上げる。
 星が輝く世界。
「だから、私はさ。……――――アルの夢を信じてる。私が『欲しいもの』があるって信じてるんだ」
「そうだね、自分で見に行かないと、わからないからね。じゃあ、ぼくも頑張らないと」
「ん…」

 ふわ。
 肩にジャケットをかけてやる。
「……私、寒くないよ」
「強がってもかわいくないよ?」
 笑いながら。
「あ、言ったなー!」



それぞれの、空。
それぞれの、希望。夢。

そして、願い…。



「きっと、兄さんにも繋がってる。行って来るね、母さん…」

 アルのまた一歩が始まった。
 かつてのエドワードのような赤いコートで。






時間的には1923年かな。エドが諦め始めたあたり。
初めてウィンリィを出してみました。

「遥か遠く」ならエドなら錬金術世界。
遠くと聞いて空の向こうのロケットか、錬金術世界しか浮かばない私。

ところで、錬金術世界とエドの世界は時差があるようですね(笑)。
映画でも時差があった。

2005.11.04



TOP