繋がっている空、それぞれの願い。
リゼンブール。 エルリック兄弟が生まれ育った村。 「ウィンリィ?…ここにいたんだ。修行終わったんだね」 その村の墓地。 ウィンリィは両親の墓の前で花を手向けていた。 「うん。アルも帰ってたのね。お帰り!」 「近くまで来たから母さんのお墓参りしようかって。途中報告」 彼らの幼なじみ、ウィンリィ・ロックベルは機械鎧技師としての修行を終え、ここ、リゼンブールに戻って来たばかりだった。 そして、エドワードの弟、アルフォンス・エルリックは兄を探し、殆ど村にいることはなかったが、たまにこうして村に帰って来る事がある。 「アル、ちょっと大きくなったね」 アルの母、トリシャの墓の前で手を合わせる姿を見て、笑って言う。 「そうかな」 「……どう?…あれから」 「どうって、……うん、まだ、兄さんは見つからないけど」 「…そっか、でもあのバカ、きっと帰ってくるよ。バカだから何処かで迷ってるのよね。しょうがないなぁ」 「うん…兄さんの帰るところはここしかないんだ。大丈夫!絶対会えるって気がするんだ」 「……でも、アル、ムリしちゃダメだよ。約束したでしょ、ちゃんと元気で帰ってくるって」 「もう。分かってるよ!」 「それに、あんたら兄弟は手紙もよこさないし!」 はあっ、と盛大にため息。 「…便りがないのは元気な証拠とも言うけどね、たまには帰ってきなさいよ?」 「うん。…そうだ!ねえ。ウィンリィ、兄さんってどんなカッコしていたの?」 「は?」 「だから、前、旅してたときだよ。兄さんと同じようなカッコしていれば、みんなに聞けるでしょ、だから…」 「ん。……じゃあ、教えてあげる」 言って、空を見上げる。 「大丈夫、きっと兄さんだってこの空を見てるから」
「空、何か見える?」 アパートの前、木箱に腰掛けて空を眺めていた。 「あ?」 背後から声をかけられて、首だけ後ろにそらす。 逆さまに映るサエナの姿。 「………――――いや、ま…今日も星がきれいだなってくらいは」 「なぁに、それ。星座でも見てるのかと思った」 エドワードがこうして話を逸らすのは慣れている。だから、特にそれに対しては突っ込まず、エドワードの隣に立って、壁に寄りかかり、同じように空を眺めた。 「星座ぁ?はは、…んなの知るかよ」 「だから、エドが星座なんておかしいな〜って」 「なあ、空って何処まで繋がってると思う?」 「へ?…………え〜………っ?」 返事が出来ず、考え込む。 「う〜ん………ずーっと、遠くまで、じゃないの?」 「…ずっと、か」 これがアルフォンスだったら、科学的に話すんだろうな、と苦笑しながらつぶやいた。 「ずっと。だからさ、何処にでも行けるんだよ。…アルとエドはその為の乗り物を作ってるんでしょ?」 「!」 一瞬目を見開いて、息を飲む。 「?なんか、ヘンな事言った?」 「いや」 目を細めて、泣きそうな目だけど、笑う。 サエナの言っていることはきっと子供のような発想。 でも、その子供の発想に、エドワードは可能性を信じていた。この世界に飛ばされてから、いろいろ試した。 そして分かった。 遥か遠くの空の果てには、…向こうには、他の世界なんてない。 無限の空間が広がっているだけ。 でも、無限ってなんだ?可能性はないのか? 「でも、空の向こうって、ホントは曖昧でよく分からない。…だから、考えても分からないから、実行するのっていいんじゃないかな〜って思うんだ」 「…はは……なんだよ。それ」 「だって…誰も行った事ないんでしょ。だから『ない』って決め付けるのが一番よくないよね。今から諦めたら意味ないよ。…だから――――…」 「エドワードさん、サエナ。…ここにいたんだ」 「アル」 「ああ。……と、じゃ中に入るか、寒くなってきたしな、サエナ、お前も風邪引くぞ」 よいしょ、と立ち上がり、二人より先に中に入る。 「…エドワードさんと何、話してたの?」 「空が何処まで繋がってるか、何があるか。だって」 「何処まで…。何が?」 「アルだって、わかんないでしょ、空の向こうに何があるか、『はっきり』なんて」 「…………」 ふっと空を見上げる。 星が輝く世界。 「だから、私はさ。……――――アルの夢を信じてる。私が『欲しいもの』があるって信じてるんだ」 「そうだね、自分で見に行かないと、わからないからね。じゃあ、ぼくも頑張らないと」 「ん…」 ふわ。 肩にジャケットをかけてやる。 「……私、寒くないよ」 「強がってもかわいくないよ?」 笑いながら。 「あ、言ったなー!」
「きっと、兄さんにも繋がってる。行って来るね、母さん…」 アルのまた一歩が始まった。 かつてのエドワードのような赤いコートで。 |
時間的には1923年かな。エドが諦め始めたあたり。 初めてウィンリィを出してみました。 「遥か遠く」ならエドなら錬金術世界。 遠くと聞いて空の向こうのロケットか、錬金術世界しか浮かばない私。 ところで、錬金術世界とエドの世界は時差があるようですね(笑)。 映画でも時差があった。 2005.11.04 TOP |