衣替え?


 最近、とても寒くなった。
 息が白くなるのを感じるともう冬も目の前だな、と思う。

「…このブーツ、使う?あんたも足元寒いんじゃない?」
 グレイシアは棚の上のほうから大きな箱を取り出して中身を見せた。
「昔買ったんだけど、履く機会がなかったのね。あげるわ」
「ホント!?ありがとシア姉っ!」




「……高ッ…」




「あはははっ!…くっ、ははは」
「アル、笑いすぎっ!」
「あーごめんごめん」
 咳き込みそうになるのを胸をさすりながら、でも未だに顔が笑っている。

「いや、ヒールが高すぎて履けないなんてさ」
 言葉に出したらまたおかしくなったのか、またくくく、と笑う。
 グレイシアがサエナがもらったブーツはヒールが高くて、とてもじゃないが履けなかった。
「でも、ちょっと履いてごらんよ、傍目だとおかしくないかも」
「アル、まだ笑ってるし」
 ぐちぐち文句を言いながら箱からブーツを取り出す。
 きれいな細工がされている。見た感じはとてもかわいい。
「よいっ…しょ」

「………」
「うわああ!」
「サエ…!…〜っと、…なるほど」
 転びそうになるサエナを支え、肩をすくめて今度は苦笑。
 安定が悪くて歩けないらしい。
「…でしょ〜…?それに、アルと身長変わらなくなるじゃない。これじゃ」



 だだだだだだだだだ――――――ッ!!


「だあああああれが、年齢の割にはちっさいってェェェ!!!!???」


「エド!?」
「エドワードさんっ?」
「何ィィィィィ!??オレのことか!??」
「は。……あ、違うよ。何、どうしたの?」

「っておわっ!!サエナ、いつのまにこん、な。……で、………かく」
 靴を履いたままのサエナ。確かに身長はエドワードより高かったが、こんなに高くなかった。

 エドワードを見下ろすような、身長。



「あっははははは!なんだそういうことかよ」
 本日2回目。靴のネタで笑われるサエナ。
 しかしこの笑いは「よかった〜」という安堵が含まれていたあたり、アルフォンスと違う。
「ヒール切っちゃうわけにもいかないもんね」
「まあな。錬金術ならどうにかなりそうだけどな」
「やって〜」
「ムリだっての」

 現実世界の二人は知る由もないが、エドワードの装飾の趣味は一般人とかけ離れている。
 もし錬金術世界の住人がここにいたら「エドワードにはやらせるな」と言っただろう。

「ほらほら。冗談はさておき、どうするの?」
 特に深い意味なく、二人の視線はサエナに集中。
「どうもしないっ。こういうのが似合うようになるまで封印する」
「封印?」
 また妙な語句が出てきたと苦笑。
「きっともうちょっと大人っぽくなったら似合うし、フラフラしなくなるんじゃないかな?ね?そう思わない?エド」
 確かに大人っぽいつくりの靴ではあるが。


「………オレの前では―――――…」
 ごにょごにょと語尾をにごらせる。
「エドワードさん?」

「…だから、オレの前では……!」


「あ〜、でも面白いから背比べしておこうかな」


 そして柱には…。
 「使用前」
 
 「使用後」
 
 以上、二つの傷が出来ていた。その差10センチほど。
 
 
「ホンキでオレの前では履くなっての!!」
 エドワードがその柱を見てそう言ったとか言わなかったとか。



 さて、後日談。

「結構かわいかったと思うんだけどな」
 仕舞われた箱をみて、ちょっと首を傾げるアルフォンス。
「靴が?」
「…うん、かわいい感じだったよね」
「靴が?……(ぶちっ)」
「!?……―――――あ!!そうじゃないよ!サエナっ」





しかし、ブーツってヒール高いのは高いですよねえ…。何故。


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