『力の誤り』


「何…?」
 ロクスは呆れ声でそう言いながら、息を吐いた。それから気分が悪そうに目を細めた。
 それらしい噂は確かに聞いていた。それがたまたま立ち寄った村での出来事。
「魔女狩りなんて…今だにそんな風習があるのか。この辺は…」


 ――――辺境の地に行く程、「そういう類の話」を聞く。
 でも、それはだいたい『他愛もない出来事』から魔女だ、なんやらと迫害されることが殆どで。きっかけはなんでもいいんだ。
 自分のこの『神の力』だとかと崇められるこの力でさえ、こんな地では『魔』扱いを受けるだろう。実際、何度か、面倒な事に巻き込まれそうになった時もあった。

「魔女…?」
 エスナは怪訝そうにそれを繰り返した。
「自分に理解できない力とかあるヤツを人ははじきにしたくなるものなんだよ。ちっ、…嫌なところに来たな」
 言って、傍らの天使――――エスナをちらりと見る。
 久々に人の姿をしているが、人にはない空気は消せない。そんなのに気がつくヤツがいるとは思えないが。ただ、エスナの使う治癒の魔法を見られたら―――、とロクスは眉間にしわを寄せた。
「誤解を解くことはできないんですか…?だってっ…」
「そんなの出来てたら、とっくにしてるさ。ほら、行くぞ。…この町には用はないだろ」

――離れたかった。ここから。早く…。
離れられない理由が起きる前に。面倒に巻き込まれるのはごめんだ。……でも――…。

「だめッ!!」

 気持ちが悪い、整理のつかない思考をとりあえず止めたのはエスナの悲鳴にも似た叫びだった。
「エス――……な、お前ら!!何してるんだッ!!」

 真っ直ぐ延びている、村の道。がたがたと揺れる石畳の道に、「いかにも」という行列。
 それに加わっている者は、怒りとも、悲しみとも取れないような複雑な顔つきをしていた。
 脇の道や、家の窓からは冷たい視線が投げかけられている。

 エスナが叫んだのはその行列に祭り上げられている子供を見たから。見て直ぐ、良いものだとは思えない仕打ち。
「どうして…こんなっ…!!人同士でしょう!?」
 よそ者を見て混乱している行列から子供を奪い、抱きかかえて座り込んでしまう。
「やめてください…!」
「……お前らっ」


 ――ぞくっとした。

 いくら帝国の領土とはいえ、エクレシアから離れた地とはいえ。
 魔女狩りが『本当』に行われているとは。しかもこんな子供相手に。
 次にどうしようなんて考えなかった。ロクスの大声に一瞬気を取られた村人。ロクスはそれを睨んで子供を捕まえていた村人を締め上げた。
「何をしていた!こんな小さな子供に!!」

 エスナの腕の中でかたかたと小さく震える子供。その目は虚ろで子供の目ではなかった。エスナは『もう大丈夫』と繰り返し落ちつかせるように(自分も落ちつくように)言う。
「う、るさい!外から来た人間に何がわかる!…そいつは魔道の力を…」
「何がわかるだと!?…ああ、わからないな!!何の為にこんなことをしているんだ!!言え!」
 数人の男を跳ね除けられるロクスの力と剣幕に周りはざわめく。周囲では他の村人が距離を置いてこちらを見ている。どの人も活気がない。暗く、何かに怯えている。
「僕は生憎気が短いんだ、言うのか、言わないのか…ッ!?」
「ま、待て!…あんただって…知ってるだろう!……魔道の力を――…!」

「……おい!…こいつも!!」

 ――ざわっ。
 あたりがまた騒がしくなる。その矛先が自分でないことに気がついてロクスは舌打ちする。
 それは今、自分がかばっている背後からの光。
「エスナッ!…バカが…!」
 癒しの魔法。
 子供の傷が癒されていく。安らかな顔になって、こつんとエスナに身を任せて眠ってしまう。

 ――十分だった。
 ロクスによって混乱していた村人が、再度、『魔女』を捕らえようとするその理由は。
 それは癒しの力でさえ、言えること。
「きゃっ…あ!!」
 座り込んだエスナを軽々と乱暴に捕らえようとする手がいくつか。髪を、腕を乱暴に捕まれる姿。
「…そいつに…エスナに触るなッ!!」


 ――だから、嫌だったんだ。…こんなの。
 ……嫌な目に遭うのが予想がついていても、エスナは今しか使えない力を使うから。
 見せたくなかった。地上のこんな姿。





「気がついたか…?」
 少し力が戻ったことで気がつく。エスナは少し、目を上げた。
「…………。 あの、子は…?」
「……………」

 少し、馬の速度を落とした。あの混乱をどう収めて、どう逃げてきたのか自分でもよく記憶してなかった。多分…自分の技か何かで逃れてきたのだろう。

「魔術師のギルドに預けてきた。…もう、両親はいないという話だ…」
「あとで、会いに行っても…いいですか?」
「会わない方がいいかもしれないぞ」
「でもっ」
「……は……………」
 エスナはロクスが息をついた後、小さく頷くのを見てからその胸に身を預けた。
 震えるのを無理やり押さえているのが分かる。
「あの村が…あんな小さい子にまでも……こんなことをしようとするのは……やっぱり…魔物が―――……っ」
 エスナに触れずに、手の力の治癒を使う。
「……君が言うことはいつもきれいごとだ」
「ええ。それでも。…今できることを……多分…それ……で」

 ――こつん。

 急激に疲れた精神は最後までものを言わせないくらいだった。ロクスは馬の進路を変えて、先程寄ったギルドの方へまた向かった。




…午年だから(謎)←前回参照。
随分話の感じが違うんだけど。
やはり向こう見ずなエスナ。…でも、「ここで治癒を使えば――」なんとやらなんていうことは考えてほしくないのです。
魔道の力はアルカヤではよいものではないらしいで…。

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