『距離』


「ひゃあっ…!?」
 エスナはあきらかに驚いた声を上げて。…その反動でぐらりとバランスを崩しその人にしがみついた。
「…おい、首がしまるっ!」
 言われて慌てて腕を解き、肩に両手を置いた。
「ロクス…下ろしてください…私、歩けますから〜」
「いやだ」
 抱きかかえた腕は解かれそうもない。
 聖都から少し離れた街道。…ここあたりはのんびりしていて牧場みたいなものが広がっている。
「……重くなったな」
「む…じゃあ下ろしてくださいっ!」

 ――空気のように軽かった身体は、今は人としてあるべきの重さがあった。…触れる度に距離を感じていたあの頼りないような感触も今は、ない。

「これじゃあ私、子供みたいですよお…」
「子供みたいにこけてケガしてるからだろ」
 散歩などにはうってつけのような街道なのだが、その石畳の道はガタガタしていて、歩くのに慣れていない者には少し大変かもしれない。

 エスナの足には包帯。
 こんなの、治癒をかければ簡単に治るけれど、エスナは自分の力でも治そうともせず、下手に包帯を巻いて手当てをしていた。

「でも、ロクスが大変です…」
「ああ、大変だな。………よっと」
 ロクスはエスナの言葉を話半分に適当にあしらいながら、まずエスナをあるものに乗せる。
「っ。……わあ、かわいい!……こんにちは?」
 乗せられたそれをなでながら。それは長い首をちょっと動かしてエスナの方を向いた。
「エスナ、馬は乗れるか?」
「む…りだと思います…」
「はは、そうだろうな。天使が馬に乗っていたなんて言う話は聞いたことがない」
「………う」
 馬と、ロクスを交互に見て。…恥ずかしそうにうつむいた。少し揺れたのでロクスが乗ってきたことが分かる。
「…落ちても助けてやらないからな」

 ――というときにはもう走り出していて。
「ちょっ…きゃあっ!?」
 わたわたと騒ぐ姿がおかしくて。でもやっぱり危なっかしいので背を支えてやる。
 でもまあ、周りの景色を見る余裕ができると、それを見て喜ぶのでうるさいのには変わりはなかったのだが。

 こつん。
「なんだ、騒ぎ疲れか?」
 肩あたりに頭を乗せられる。金髪が揺れて頬に触れた。
「……私は、人の女の子の様に…なれましたか……?もう、距離はないですよね…」
「知らないな、そんなこと」
 本当の言葉を答える代わりに揺れる髪を梳く。
「……ふふ」

 ――それから、もう一度口を開いたのはエスナだった。
「ところで〜…ロクスの馬なんですか?…この子」
「さあな」
「!???…さあって…!?」




友達からこんな感じの絵の年賀状をもらいました。
午年だから。
午年で作った話があともう1つ(ってただ馬が出るだけじゃないさ)

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