第11話:命の重さ―



「まさか…こんな風になって…」

 思わなかった。まさか自分が本当の元凶だったって。それは少しは関与しているだろうとは思っていた。この痛みも『それを知らせるため』だと思っていたから。


「…………」
 ない翼がいつものように、それ以上にぎしぎしと痛む。それを慰めるように撫でるふりをした。
「ロクスの幸せ、私が壊してた…気がつかなかったよ」

 凶暴化した魔物も、天気の悪さも。
 今考えると、魔物たちが近くにいるのに襲ってこないのも血に反応しているからかもしれない。

「こんな、寂しい思いしてたの…」
 ヴァスティールは。天竜の血を浴びてしまって闇の王に堕ちてしまった、1000年前の天使の勇者。
「―――〜ッ…」
 初めて分かった。同じようになって、その気持ちが。いつ自分を失うかもしれないという怖さ、それとたった一人で戦うこと。
 クライヴに辛さを分かってあげたいと苦しさを聞き出そうとした。でも、本当の気持ちなんてわかってなかったんだ。それを見ていたセシア――――ディアナの気持ちも。
「いっ…たッ………」
 天界は彼らに恨まれても仕方なかった。
「……ん うぅん…ッ あぁ…」
 膝を抱えてうずくまる。
 涙があふれてくるのは翼の痛みの所為じゃないと思う。
「…っと……わかった…の。………ごめんなさいっ……辛かったね…」
 心臓の音がやけに高く聞こえる。
「………大…天使様……」

 救ってほしいなんていわないから。
 私がロクスの知っている私であるうちに、『好きだ』と言ってくれているうちに…。
「セシアに会えなくて…正解でしたね…。ありがとう…考えるところを与えてくれて……」




 ――――天気が悪くなるのを待ち望んでいた。
 雨乞いをしているわけじゃないけれど。


 礼拝堂の暗闇に浮かぶそれは『それだけ』だとまるで平和の象徴のようだった。ふわりと光る白い翼。
 壁の十字架の反射されている光を受けながら。
「やっぱり、ここが好きです」

 こちらを振り向いた蒼い瞳。
「!」
 それは深く澄んだ色ではなかった。微笑んではいるのに、その目はどこか濁っているような色。
「エスナ…っ」
「私、全部――」
 続きを言わせたくなくて、ロクスはエスナの腕を引いて抱きしめた。
 身体が冷たい。そして、余計な力が入っていることに気が付く。
「!っ…」
「っ…。ロクス…」
 困ったように見上げるその顔も違っていて。
「…………」
 背に回した腕がきつくなる。翼に触れた手が白い羽を掴む。
「全部、わかっ」
「言うなッ!…言うなよ…」

 どうして翼がある?なんて疑問はなかった。
 エスナのこれから言おうとしてる事も自分には『想像がつく』くらいで確信なんてもってない。だけど、いいことではないくらいは、分かる。
 それに自分は知っている、この顔を…、遠く昔に『魔石』を自分に託してきた、……戦友。

「君は…温かいよ」
「…ホントに…?」
「そうだ。だから、ここにいろ。何も変わりはしない。魔物がいたら僕が倒してやる」
 早口でまくしたてる。
「ロクスは聖都を守ってください」
「ああ、そのつもりだ。君とこの都を守るのは僕にしか出来ない。…君がまた守護天使になることなんてないんだよッ…」
「ロクス…」
「どんなのだって、構わない。もう、僕を置いて行くな…」

「……うれしいです」
 エスナは二人の間に手を差し入れて離れた。
 その動作だけで、エスナの身体がゆらりと揺れる。く、と歯を食いしばっている。
 ああ、そうか。身体に余計な力が入っている理由は、倒れないように、また、身の内の何かと戦っているから、だ。
「でも、私はロクスに恨まれる前に…」
「バカ言うな。誰が何を恨むって!?」


――だって、あなたがこの聖都をどれだけ好きか知っているから――


「――恨むから、私は、それは嫌です」
「いいかげんにしろ!エスナ!!…お前、俺を何だと思って…!!」


「ありがとう…」


 ――――今まで生きてきて、お礼の言葉を言われたことは…まあ何度かあった。その殆どが意味のないようなものだったけど。
 でも。

「それが、…言いたくって」

 何か握らされて、それに身体を預けられる。重みと手に触れた柔らかいもの。それとともに嫌な感触が手を伝わってきて。

「な…に…?」
 お礼の言葉って、こんなに苦しいのか、こういうときに使うものだったのかって…。




これ読んだ友達からすごいメールがきました。

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