第7話:責任と…



 暗い、寒いところで自分は一人ぼっちで。嫌な風景ばかり見させられていた。それでも、あの声があったから、私は――――。

*


 いつもなら。

「……………」
 いくら元気がなくてもこの時間には…『おはよう』って。窓から出入りするかわりに、その扉を開けて入ってくる筈なのに。
「窓…」
 そういえば窓があいつの扉代わりみたいなものだったな、と思いながら扉を眺めた。
「…………勇者…?」
 なんで『勇者』のあとに疑問符がついたのかわからなかった。
「まだ、天使の勇者…なのか」

 机に積み重なる書類に目を渡し『やってられるか』というようにため息をついて椅子の背もたれにどかっとよりかかる。
「(さっきから考えてることが意味分からないな)」
 最近、いろんなことがありすぎて。
 額に手を当て、天井を仰ぐ。



「副教皇…。なんでしょう?」
 扉を開けた音に続いて聞こえてきたいつもの声にやる気なさげに返事をする。『僕は資料相手に忙しいんです』…とまでは言わなかったけれど。
「ここにもいないのか」
 『昼間からだらけた格好を…』と、いつものお小言が飛んでくると思っていたロクスは、副教皇のその言葉に思わず背もたれに預けていた身体を起こしてしまう。

「? …朝から誰も…。 ……!」
 そこまで言ってはっと気がつく。
「あのバカ…」
「…エスナだ。探しているのだが姿が見えん」
「………多分、街のにでも…行っているのかと」
 声だけ、うわずっていて。それは副教皇も分かったが、あえて口出しはしなかった。

 だから、部屋なんて与えなきゃ良かったんだ。
「…ふん…何処に行ったんだか」
 行くところは決まってる。元勇者のところ――だ。それしか知人関係はないのだし。
「ちっ…」
 子供じゃないんだから妙な無茶はしないと思うが、
「…っ(やりかねないな…)」
 全部背負い込む意味があるのかって思ってしまうが、意味がないわけでもないのだろう。
「…………僕が」


 ――――まあ、旅には慣れた。誰かさんのせいで。
 あのバカな元天使を連れ帰ってくるだけだし、少しくらい都を…教会を離れても大丈夫だろうと。
「ふぅ…」
 そんなことを考えながらロクスは法衣とちょっとした旅の道具を用意していた。
 今まで(酒場に通って荒れていたとき?)真面目に教会にいたこともあまりなかったのだし。
「平気だろ」
 と、思っていたのに。


「使いの者を出させる」


 …………。
 ロクスの機嫌がまた悪くなった。
「枢機卿…」
「お前が一人の娘の為にここを離れてどうする?じゃあ何か、都から誰か一人減る度に教会はそれを探すのか!?」
「……………」
 ―――よく、そう文句の言葉が減らないな。
 人を非難する言葉。…そういうのを言ったかと思うと、今度はいかにも聖職者らしい言葉を吐く。
「(聞き飽きたよ…)」
「民の為だ。ロクス…。お前が一人の人間だということは分かっている。でもその行動まで自分だけで決めていいことではない」
 ―――ほらな、目に見えてるんだよ。
「…連れ戻してくるだけですが。別に酒場に行くっていうわけじゃないんですよ」
「ロクス!!だいたいあの娘――!」
「……エスナは」

 天使だ。

 言って今までのことを伝えれば、エスナを非難する言葉は枢機卿たちからは消えるかもしれない(そう簡単には認めないだろうけど)。
 でも、きっとそれだとエスナは『だめです』と言うだろう。『人を分かってもらえるのは時間がかかるんです。私たちもそうだったでしょう?』と。
 だから、たくさん時間がかかっても、伝えましょう?と。

「…………」
「お前も自分の行動に少し責任を持て!次期教皇としての責任を!」
「責任?……ふん、…――こんな、……こんな責任もとれないようじゃ、僕はまだ教皇になるつもりなどない!」
 今まで真面目に話を聞いていなかったようなロクスだったが、そう言われ思わず声が高くなる。



「私の責任は…」
 大地につけた足が震えだしてきた。こんなに長時間歩いたことなどなかったから。
「……きっと、この世界に残ったこと…守護を続けることが責任」

 ――同時にそれは罪でもある。
 神様の炎から創られた精神体だったのに、身体を頂いて地上に降りてしまったこと。苦しむことを分かって、側にいたいと願ったこと。




ふふ。責任と罪(謎)。
何か理由があって離れたエスナ。
書いててわけ分からなくなってきたここ最近。
でも自分で取り留めのないこと考えてるってとき、ありませんか?そんなかんじです。

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