第2話:光の翼―
――――もう1年以上前になる。 天使の勇者として天竜と戦った。 戦いの最中―――。エスナはロクスを庇い、翼に天竜の血を受けた。 「……ち」 あれから何事もなかったから、大丈夫だと思っていた。…思いたかった。 もし、その所為でエスナの身に何か起きたら、自分の手でエスナを殺してしまったも同義―――― だが、数日前のあの雷の日から、何かが変わって来ている。 物見や各地を渡るキャラバンの情報では魔物が暴れ出したとか、小さい町に住んでいた者が安全な場所まで避難をしている、とか。 「…考え過ぎるのも良くないか。もう少し情報が集まらなければ対策の立てようもない。今の曖昧な状態で何かしても空回りだろうしな。……天候の事なんて風水師に任せておけば良いんだ」 元々、こういうのは好きじゃないし、と無理矢理その話題に終止符を打つ。 カーテンに手をかけて思い切り開けて、エスナが不安がっていた空を見上げる。…確かに嫌な天気だ。 「じゃあ、今度は何しようか〜?」 数人の子供を相手にしながらエスナは本を広げた。 教会の中で一人の時間があるときはこう子供と遊んでいるか、礼拝堂でオルガンを眺めているかのどちらかだ。 「あのねえ〜…」 本人が子供みたいなところがあるから、子供たちにも友達のように接されている。次の遊びを一生懸命考える子供たちと一緒になって笑っている。 「…………」 「エスナ」 「あ」 扉を開ける音と同時に名前を呼ばれて振り向いた。 「副教皇様っ。…あ、ロクスならお部屋ですよ?」 「いや、お前に用がある。来なさい。…子供たちには…申し訳ないが今日は帰ってもらいなさい」 「あ、はい」 『え〜』という子供たちの抗議の声。エスナは笑って『ごめん、また明日ね』と言って送ると副教皇について行った。 「どうされました?」 何かをしている時に、こうして副教皇がエスナを呼ぶのは少ない。大体、『終わってからでいい』と言うのだが。 だから余計に不安になる。 「最近、あおるように魔物が増えている…。…あの雷が鳴った日あたりからだ」 エスナはびくっと肩をすくませた。いつもなら怖くない雷が、数日前のあの日だけ怖く感じた。 「……エスナ。お前を怖がらせているわけではないよ」 『他に言い方があったな』と少し反省しながら。 「あ、すみません。大丈夫です」 「ああ…そこでだ。この聖堂に避難してくる国民もいるだろう。それの…」 「避難のお手伝いですね。はい、わかりました!」 「すまないな」 「いいえっ、とんでもないです」 笑って。…笑っていないと。 ――そうだ。 魔物が出てきたって、なにしたって…今度は天界からの助けなんてないんだから。元々ここアルカヤは天界から遠いのだ。 私がしっかりしなきゃ。と、こぶしを作って。 「バカか、何を張り切っているんだ?」 あれから部屋に戻って来てもそんな様子のエスナにロクスはあっさりとそう言い放った。 「っ……バカとは何ですか!…だいたい、ロクスは人のことばかばか言いすぎです!」 「君にしか言ってないぞ。それに君がバカみたいになんでも首を突っ込むから、僕は感じたままを言っているんだ」 「む、……それにっ私、何も言ってないです」 「任務中」 と、言って指をエスナに向ける。 「2年以上も付き合ってたんだぞ。こんな時に君の考えそうなことくらい分かるさ。どうせ他の勇者も分かるんじゃないか?」 「でも、ロクスっ、私は守護天使ですから」 「へえ、まだ天使なのか?」 しまった。とエスナは思った。先日も天界の事、翼の事を口にしてロクスの機嫌を損ねている。 しかも、はっきり『まだ』を強調されて。 「…違いますけど」 「じゃあ守護も何もないだろ。聖都に暮らしている普通の女性はそんなこと思ってないぞ」 「でも!…ええと……何かあったら戦ってくれます…か?」 それでも遠慮がちに聞いてくる。 「…エスナ、君は相当、僕を怒らせたいみたいだな?」 もう、聞いてくるなよ。分かってるから。 「あ!ごめんなさいっ」 「……………」 「私…他の勇者に…」 視線を逸らして。エスナは何か勘違いしているようだ。『戦わない』と思い込んで。 「っ!……ちっ…勝手にしろ」 視界からエスナを追い出し、どっと、椅子の背もたれに身を任せた。 ただ、エスナから『戦い』を消したいだけなのに。 「……ロク――…っ!?」 名前を最後まで呼ぶのを待たずに表情がいきなり険しくなって胸を押さえる。 片方の手でテーブルクロスのレースを握って。 その上の羽ペンとインクの瓶が倒れたことでロクスも気がつき、エスナの方向を向いた。表情を見られないように俯いているが、息遣いで普通ではないことは分かる。 「エスナ!?おい!!」 「へ……平気です…ッ」 椅子の背もたれを支えにして椅子から立ち上がる。 「わっ…私、…へ、部屋に戻りますね……」 「いい、ここで休め」 足元が覚束ないエスナを支え、ベッドの方へ誘導する。 「…気が張っているんだ。ほら、僕につかまるんだ」 「……っ」 振り返ったテーブルの先。 テーブルからはインクがぽたぽたと零れていた。 「――――!? …いッ……いや…!」 視界に映る黒い雫。 「ロクス……いッ…」 「おいっ!エスナ!!」 がくんと膝が力を無くして。 「血が……」
「今…何て…」 「っあ ……ラ…ファ……様……ぁ」 瞳にうっすらと涙を浮かべて、届かない天界に手を伸ばして。 「エスナ!」 肩に触れるとあっけなく力を無くして倒れかかってくる。そのまま動かなくなった。 「………翼、だと…?」 |
書いてるほうが恥ずかしい(爆笑)。 うう〜…私はラブラブ苦手なんだああっ(って何回も言ってるけどホントに…)。 惚れさせるのはホントに…(汗)。でも!そんなこと言ってると話が進まないので頑張ります(爆)。 読むのは好きなんだけどねえ。 だいたいテーブルにペンとインク置いておくなっつの。 NEXT TOP |