第23話:未来への旅立ち―



 ねえ。まだ、持っていてくれるのね?私の…。
 胸の十字架に手が行く。あの夜に首にかけてくれたもの。
「ありがとう、待っていてくれて…」
 それだけで十分です。私が、他人に少しでも想われることができて、とても嬉しかった。



 ――何かはわからない。でも、多分一番大事な…。
「…ス……ナ」
 自分の声が聞こえない。
 それを掴もうとして手を伸ばしても空を切るだけで。光に包まれたそれは暗闇にぽつりと寂しそうに立っている。

 後ろの光が強すぎて輪郭しか見えない。
「…………。ごめんなさい」

 誰だ?何故謝る?

 気持ちが悪い。自分の身体が言うことを利かなくて。
「う…」
 その手が額に当てられて、
「どうか……幸せに」
 蒼く、うっすらと紫を持つ瞳。
 頬を伝う涙。
「(どうして、泣いているんだ?君は)」
「できなかった。……約束守れなかった…でも、今まで待っててくれて嬉しかったの……ロクス。十字架、返せなくてごめんね…」
 名前を呼ばれて、気がつく。
「でも、でもね。私は、ずっと見守ってますから。あなたの守護をずっと…してますから。きっとあなたはこれから幸せになれます。…天使である私が保証します」

 光は翼。色素の薄い金髪。服や腕の蒼や金色の装飾がきらめく。
 見慣れた、姿。

「!いやだ、……エスナっ!!やめ…!!」
「ありがとう…」





 自分の叫んだ声に驚いて目を覚ます。
「はあ…はあ………ッ」
 汗が伝う。
「……? 今…何を叫んだんだ…?僕は」
 今、怖い夢を見たような気がして。前髪をかき上げて額を押さえた。
「…………」
 暗闇の中の光しか思い出せない。
「…ただの…夢なのか?」
 カーテンから漏れる朝日。
「………にしちゃあ…悪い冗談みたいな…」
 夢見が悪い…のだろうか。今日は聖都を旅立つ日なのに。

 この手の力の意味。自分が出来ることを見つけたような気がしたから。だから、教皇はまだなれない。
 それは昔みたいに『なりたくない』んじゃない。
 自分の出来る事はとても小さくても、きっと何か出来るだろうと。副教皇に申し出たのだ。

 カーテンを開けて、空を見上げる。
 晴れ渡った空。
「…………………」
 何か降りてくる気がして。窓を開ける。
「…何が、降りて来るのか…って感じだな」
 朝から自分のわけのわからない行動に笑ってしまう。

 部屋を見回す。昨日準備した旅の支度、法衣。……気がつくと手に何か握っていた。
「……?」
 小さな銀のリングをチェーンにかけてペンダントにしたもの。
「これ…誰のだ…?」
 よくリングを見てみると内側に何か彫ってある。
「?……磨り減って…読めない…か。 ま、いいか」
 少し考えてから、法衣の下の首にかけた。


 心地よい風。
 ふと、荷物の中からある紙を取り出した。旅立ちの前に見回した部屋の机の上においてあった封書。邪魔になるだけだとも思ったが何故か持ってきてしまって。
「……………」
 どこか見覚えある、字体。
 その字を指でなぞる。
「…古代語…でもないみたいだな。さて、なんて書いてあるのか。時間はあるんだ、のんびり解読といこうか」
 そう、なんて書いてあるか分からない文字。


 礼拝堂の十字架を見上げ、副教皇は微笑んだ。
「………………」
 『ええ。戻って来るなと言われてもいいんですけどね。…また戻ってくるかもしれません』いつもの口調で、肩をすくませながら、そう言ったロクス。
 何も言えなかった。何を言っても、涙は溢れそうで。
 その背は優しい光に守られるように、大聖堂を去って行った。

「あの子に、天使様の祝福があらんことを…………」




EDその1(爆笑)。
なにがなにやら、まだ続くらしい…。通常EDのロクス調ですね。

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