第19話:ラストバトル1―取引きと迷い―



 ―――何が怖いって?世界が崩壊することか?自分の身がボロボロになることか…?
 そうじゃない。笑顔を失うこと。折角、見せ始めてくれたあの顔を思い出せなくなる事だ。
 バカだな、君は。どうして泣いているんだ…?
 エスナ―――。


 自分の声も聞こえない。


 かつんっ…。
 銀色の環が壊れて岩場に落ちた音がした。自由の利かない目で追ってみたが、もう見えない。
「……ナ…」

 どうしようもなく震えて動かない手で身体を抱き起こして。治癒魔法が追いつかないくらい傷ついて。
「ロクスッ…!ロクス!!」
 ベルゼバブはその天使の顔を見て、見下し、笑う。
「その顔だ。愚かな天使よ…」
「――――…」
「たかが人間のためによく泣ける…」
「うるさいっ!!」
 手に力が入る。
「ほぉ、意外だなぁ。お前たちの上級天使たちは自分の勇者を見捨てたぞ。…レイブンルフトは誰だ?知ってるのだろう…」
「…………」

 視線を落として。
 1000年前のアルカヤを守護していたのは尊敬していたラファエルだった。
 彼は、ディアナがセシアに記憶を譲ったことも、レイブンルフトの事も知らなかった。
 確かに、大天使はたくさんの地上を見ていなければならないからアルカヤだけと言うのは現実問題不可能だ。
 けれども、それで戦ってくれた勇者を直ぐに視界から外すなど。
 それができた大天使に、少なからず怒りもあった。
「私は、そんなことしないっ…!」

 例え、地上に残れなくても。
 勇者の元にいられなくても。

「ふふ、では話は簡単だ。……命乞いはしないのか?」
「誰が!…悪魔なんかに!!」
 その言葉を待っていたように、にやりと笑う。エスナの腕の中のロクスを指差して。
「その、勇者でもか?」
「ッ!?」
 エスナの表情が変わったのを確認して。
「王となるものの慈悲だ…」
「じ…ひ……?」
「天使よ、お前が堕天してこちら側に来ればその勇者を助けてやろう。…指一本触れられなかったお前たちが…私に適うと思うか…?」
「……………」 






 怖い…。
 何かの叫ぶ声――――。咆哮。
 ドライハウブ湖に出現した城。1000前と同じ場所。
「…………」
 血のような赤い目と暗い闇の翼を持つ魔竜。
 時空が歪んでいる、暗闇の空間。
 足場は岩のようにがたがたしていて堅い。
 ――――見た事はないが、きっと魔界ってこういうものなのだろう。

 その中で長い銀髪、真っ直ぐな髪が風に揺れていて。エンディミオンを乗っ取った悪魔の姿。

「命乞いでもしに来たのか?」
 嘲笑。

「…………とっとと戦おう」
 それ以上聞きたくないという様に、ロクスは杖を持ち替え、掲げる。
「……!?」
 翼に感じた手。今までの震えが止まる。
 今までの怖さが、なくなった気がして。ここに来るまで、一言も喋ってくれなかったのに。でもその手の光で私は。

 けれども、適わなくて。天竜も、ベルゼバブも何かに守られているように傷一つ与えられなかった――――。






 動かないロクス。軽い呼吸だけ繰り返して。けれども、まだ鼓動は止まっていない。
「(良かった、まだ間に合う)」
 大丈夫―――。平気だから、心配しないで。
「………ロクス」
 翼に置いてくれた手が嬉しかった。
「選択の余地があるのか?下級天使」
「……」
 私は出来た心は持っていない。
 『天使だから』とかみんな言うけれど…私はそんなにすごくない。だから大切な人を守るのが先って思ってしまう。でも、それは目先のこと。
 笑顔で暮らしていくためには、本当に大切なら、答えは決まってる。
 ここでもし、だめでも。

「…大丈夫………」
 ロクスの髪を撫でて、視線を上にあげた。
 その目には迷いなどなかった。

「私も、彼の命も渡さないっ!必ずアルカヤを平和にするって約束したんだから。……誰の命も心も渡しませんッ!!この人は、この人だけなんです!!」
 ここで、取引に応じたら勇者を裏切ることになる。

「ぬかしたな…!下級天使!!」
 きゅっと手が強くなる。視線はベルゼバブをとらえたまま、強く抱きしめて、魔法の詠唱をした。
 転移の魔法。
 この空間での魔力の低下。恐らく自分までは転移できない。だから。
「(…ロクス。……私の代わりが来ても、また戦ってくれますよね?ちゃんと守って下さいね…。私はずっと)」
 どうしてだろう、胸が締め付けられるように痛い。

 ――――神様、大天使様、お願いです。私の最期の…。


 …岩場に落ちた銀の環が魔法に反応する。





いよいよやってまいりました〜ラストバトル!!全部終わったらまたつけたそ〜(爆)。
戦いってやっぱ難しいね!ラストバトルでよく喋る人たちだ。まんまゲームのままやん。はあ。


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