第17話:意外なお誘い―
久しぶりの酒場だ。…いや、来てはいたが、まさか―――。 「誘われるとは…」 そう、何を思ったのか、エスナから『お酒飲みに行きましょう!』と。 と、言っても誘った本人はやはり酒場でもの珍しそうにきょろきょろと観察しているだけなのだが。 紅茶を作ってもらって、酔わないように酔わないようにと少しずつ飲んでいる。 「…紅茶おいしいです」 「そりゃ良かったな」 「はいっ」 思い出す。任務の初めの頃、よく連れてきてもらって(否、むしろ無理やり同行したという部類だが)。その中で悲しい事もあったけれど、楽しい事だってたくさんあった。 ――少し、息抜きしてもらいたかったから。 勿論、これが最善策だとは思っていない。ロクスが酒に逃げるようになったのも、元はと言えば周りの苛立ちからなのだから。 「…うん〜」 これで良かったのか?と考え出すと止まらない性格のようで。 「……。何を唸ってるんだ?妙なものでも食べたか」 「…ロクス!!楽しみましょうねッ!」と言う割には顔が笑ってない。その形相が妙にギラギラしていたので、その気迫にロクスは押されてしまい、思わず顔をひきつらせた。 「(コイツ、変な気使ってるんじゃ…)」 ――――今更だ。 ロクスは苦笑する。 「(楽しむ、ね)」 「〜!…そだ。歌でも歌いましょうか!?ぱーっと!」 確かに酒場では、確かに歌手と呼ばれる人や踊り子が歌を歌ったりしているが、しかもこの酒場は小さな舞台もあるようだが。 「歌えるのか?」 「ええと、前の任務でですね、きれいな踊り子さんがいたんです!」 「(それはお前が歌えるって話じゃないだろう)…ああ、やりたきゃやって来い」 手をひらひらと振って。 何、こんなことで苦労してるんだか、と笑ってしまう。 「はい!わかりました!!頑張ります!」 「…はは、なんだよ、本気だったのか?」 「違うんですか?」 勢いよく立ち上がったと思うと、また座る。なんだかこういうよく分からないところも慣れてきた。 「……。前の、任務?」 踊り子がいたとか言ってたな。 「はい」 言うと、どこか遠くを見るように笑って。「懐かしいです」と。 そう言った瞳がロクスの知らない姿を浮かべたようで。 「……」 「でも、ロクスみたいに…」 「僕みたいに?なんだ」 前の任務、自分の知らない事を言われて少し気分が悪い。だから、なんだ、と聞くその声が少し下がった。 「わがまま…言って。すごく困って…」 そこで少し微笑んで。 「でも、ロクスは…そうじゃないです」 やっぱりよくわからない。 「……………」 怒る気も失せてきた。その笑顔を見ていると。 「…エスナ」 目が潤んでいる。名前を呼ばれて見上げたその目に思わずびくっとする。 「おい?」 ふとテーブルに目を落とすと。 って、おい!! 「僕の…グラス空だぞ…」 さあっと血の気が引く思いがした。酒に弱いヤツ程、飲むと後が怖い(と思う)。隣にいる天使以外の誰かが飲んだのかと妙な希望を抱いてみたが勿論そんな事はなく。 「ほ…?ロク……」 どうやら、紅茶と間違えて飲んでいたらしい。 「気が付かないか?普通さぁ…」 酔わないようにと必死だったのでもう味も何も関係なかったのだろうか。 これじゃあご丁寧に用意してあるレモンの輪切りも砂糖も関係ないだろう!などと心の中で叫んでみるが、今更騒いだところでどうにもならない事は分かっている。 「慣れない事するからこうなるんだぞ」 ふらふらと揺れている肩を支えてやって。 「ひっく……ロクスッ…!!ちゃ〜んとやってもらあないと〜…エスナ〜困りますからねえ〜…」 「はいはい」 「きいれるんれすかあ〜」 「聞いてるよ」 いきなり変わったな。絡み酒か。寝こける以外にもあったんだ…と妙なところで感心してみたり。 「………。ロクス」 「あん?」 そちらに目を向けると、先程同じ顔でにっこり笑って。 「……よかった、ですう…。もう、心配、ないですね…?」 「?」 軽い寝息が聞える。 「はは…バカなやつ」 今回は無理やり起こすのはやめておくか。 肩に寄りかからせてやる。その微かな感触が心地よくて。 「しかし…」 どうするか。この起きない奴は。 「やっぱり酔わせるべきじゃないな…」 |
前に酔ったときに手の力を使ったんですが、ちょっとやだったんですよ。 今回、使わないでいるのはロクスが手の力を少し理解してきたからとか、なんとか。 自分のどうでもいい力だと思わなくなったからです(謎)。 それに起こすのもかわいそうだとか…?? 『意外な天使』をやろうとしてたんです。でもまだ見てない…忙しくて(?)ゲームができない〜!PS2妹に取られるし! 想像で書くのも面白いかな〜って。お酒飲んでもっと荒れさせてみたかったエスナ。 ちょっと進め方がおかしいですね〜。最終決戦前にこんなのんびりでいいのか。…復活の儀式の前にすればよかった。 NEXT TOP |