第16話:ありがと―



 吹き抜けの天井に描かれている数多の天使。人が神話や伝説から作り出した、見たこともない天界を描いたもの。
「やっぱりいつ見てもきれい」
 小さくちりばめられている天窓も全て計算されたように配置されていて、光の差す方向によって(つまり朝と昼など時間)聖堂の中は様々な姿を見せる。
「人ってすごいな…」
 天界の宮殿の方が、多分技術的には上と思う。
「でも、私はこっちの方が好き…」

 聖都陥落以来、ミサなどは随分減ったようだが、聖堂の地下に身を寄せている者、個人で祈りに来る者…など決して建物の中ががらんとしているわけではない。
「あの…おじいさんいない…かな」

 ざあああ――…。
 屋根と窓を打つ音に気がついて耳をすませてみる。どうやら雨が降っているようだ。
「さっきまであんなにいい天気だったのに」
 光を失ったステンドグラスは今度は黒光りして、ほぼ外の明かりを通さなくなった。
「今は…降ってほしくなかった」
 雨は嫌いじゃないけれど。なんでも『天竜が復活したから?』と悪い方向に考えてしまう。

「――ダメダメ!ん〜。も少し明るく考えないとダメです」
 両手でこぶしを作って「よし」と声に出してみる。同時に翼を消して歩くことにした。
「ところで、私なんでここにいるのかな」
 天使が神に世界平和を祈る――のもいいかもしれないが、そんな事はあまり聞いたことはない。
「ま、いいか…」
 礼拝堂の長椅子のひとつに腰をおろして、目を閉じて今までの事を考えてみた。


 地上の守護が決まったこと。勇者たちを探していたこと。
「みんな初めは変な顔して…ふふっ」
 帝国と魔石、聖都陥落――。段々広がる混乱。姉妹で戦うこと。
「………………」
 きゅ、と手が結ばれる。

 伝えたかった想い。聞きたかった声。
「あれ」
 目を細く開けて、過去から現在に戻る。頬を押さえて。
「…最後の方……随分…」
 複雑そうな顔をして、ダメダメというように頭を横にぶんぶん振った。きっと傍から見れば妙な娘に映っただろう。
「ああ…でも」

 手を祈るように組んで。また目を閉じる。


 何を祈ってた?
 「…祈っていたんじゃなくって「ありがとう」を言ってたの」とエスナは自問自答をする。

 気ばかり先に走って『辛いことを聞き出す』しかできなかった自分。無理に答えを出そうとしていて。大事なことは聞き出すんじゃなかったこと。聞かせてもらって…感じること。

「………だから、ありがと。聞かせてくれて」
 声を。

 それから一度だけお願い。
「…私の勇者をお守りください…」




なんかムリに引っ張ってるみたいです(爆笑)。
謎。実はただ大聖堂を書きたかっただけです(爆)。あのおじいさんとか出したかった…。
ただですね、エスナがロクスに「話してくれ」って突っ込み過ぎてたので、反省モードな今回(謎)。

NEXT  TOP