第10話:復活の儀式(前編)―



「お願いです――」
 あれこれ考えてる暇は、余裕なんてない。
「セレニスを救ってください」

「……。本気で言っているのか、それ」
 一瞬、驚いたような顔をしてから、きっと目つきが鋭くなった。セレニスといえば帝国の魔女。何より聖都を陥落せしめた張本人ではないか。
「エスナ」
「分かってますッ」
「何が!…帝国の魔女を救え、だと?…それどころか奴は聖都をッ!!」

 また脳裏に蘇る。
 紅蓮の炎に焼かれる都、人々の叫び。
 ……目の前を舞う、純白の羽。聞きたくない悲鳴。

「じゃあ…『魔石が集まってしまいました。帝国は伝説の復活をしようとしています。それを止めてください』」
 静かな声、だが、喉の奥から絞り出したような、声。
「って、言えばいいんですかッ…!?」

「…お人好しだぞ、君は」
「そんなんじゃありません。…私はただ、フェインとアイリーンの……私の勇者たちのこれ以上悲しむ姿をみたくないだけです」
「ち、二人は?」
「フェインには…まだ。…アイリーンはこちらに向かってきてくれています。でも少し遠くて」
「間に合わないな。もう」
「だから、ロクス…少しだけお手伝いしてください」
「…時間稼ぎって言いたいんだな」
「…………」
 結果的にはそう言うことになる。
「ま、いい。ここまで来れば形振りかまっていられないんだろ……わかった。僕も相当人がいいみたいだな」
「ありがとう。ロクス」


 空は邪悪な光を抱えて唸っている。雲は厚く、その間からは一筋の光も見えない。
 石でできた階段を一歩一歩上がりながらその高さにめまいのようなものがする。
「魔石か……あの、子供の」
「はい?」
「…いや」
「彼は、セシアが救ってくれました…。……救われたと、思い…ます」
「………。戦いの前に余計なことを言うな、エスナ」
 話題を持ちかけたのはロクスなのに。
「(気を使ってるのかな…)」


「天使の勇者…」
 テーブルの上には、石が3つ。自分のせいで奪われてしまった石と、聖母が守っていた石と……。
「お前が元凶だと言うことは分かっている」
「ああ、教会の…あのときの僧侶。……まだ生きていたのね。あんな幼い天使に守られて」
 笑うたびに赤いローブが揺れる。
「ふふ、あなたは運がいいわ。世界の終わりを見られるのだから」
「ふざけるな…!!……な…!」
 身体が衝撃を受ける。操られるように、膝をついてしまう。
「結界!?…ロクスッ!!」
「あはは。そこで見ていなさい。………さあ、皇帝……」

 呼びかけに答えるように石がふわりと浮いて、エンディミオンの周囲を取り囲む。同時に魔法陣が浮き上がる。
「!? なに、この力!」
 魔石の力が解放されたのか、あたりの風が渦巻く。
「セレニス……お前は何を」
 赤い瞳が何かを探るようにきょときょと動く。恐怖に満ちた少年の目。紅月王の伝説を無理やり重ねられた幼い子供の目。
 返事もなく、にやりと微笑むとその額に指を立てる。
「あっ……?」
 焦点を無くした瞳。
 魔石は紫色の光のようなものになり、すうっと身体に入っていく。一瞬時を待って爆風がエンディミオンを包んだ。
 その後、耳につく翼の音。
「…………あ」
 いつも触れる、心地のよい翼の音ではなくて、それは。

「お待ちしておりました…サタン様ッ…!!」
「サタン…あれが」
 暗い空に浮き上がる竜。
「天竜…ッ…!? は…」
 突然の空からの重圧に膝が折れる。
 座り込んで、力なく空を見上げる。爆風に翼が乱れる。
「ちっ…。おい!魔女…これで終わりにするぞ!!」
 手の杖を掲げて。
「エスナッ!もうダメだ…僕はこいつを倒すぞ!!」
「だ、ダメですっ!」
 もう詠唱を始めているロクスに身体を引きずるように近付く。
「あら。誰を倒すって?……もう何をしても無駄よ。そうとう無駄が好きなのね…いいわ。……そうだ、アイリーンの魔法で殺してあげましょうか?」
 詠唱なくとも魔法陣が足元に浮き上がる。そう、アイリーンが得意とする攻撃魔法。
「………!」
「死になさい…!!」

 同時に二つの力がぶつかり合う。
「ロクスッ!セレニス…!!」




やけに長くなってしまったので2つに分けました。
これってアイリーン以外の勇者でやるもんじゃないですね。ストーリー的にはアイリーンのイベントでしょう?やっぱり。
でもそうするとアイリーンしか出てこないことになるので無理やりロクスに頼んでみました。
時間稼ぎ係り(爆)。
ところで必殺技…魔法じゃないと思うのだが。


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