第7話:荒れるロクス―



 がしゃんっ!!
 派手な音が聞こえる。酒場の盛り上がりとはまた性質の音。

「…………」
 迷っていた。この扉を開けてもいいものか。
「黙っていられない…」
 流れからして分かっている。相当荒れているのだろう。


「ロクス?」
 遠慮がちにそう、名を呼んでみる。
 酒場に入っても、なかなか声がかけられずにいた。声をかけることができたのは、かなり時間が経ってからだったと思う。
「…お前か」
 もう、だいぶ飲んでいるようだ。酒が回っているのに、やけに目つきだけ鋭くて。
「…あの!」
 『大丈夫ですか』などという言葉は言いたくなかった。大丈夫ではないからこうなってしまっているのだ。だからと言って、いい言葉が浮かぶ筈もない。
 わかっている、いい言葉を言っても聞いてもらえない事くらい。…それが逆効果になるだろうと言うことも。

「帰りましょう?…私、送っていきますから」
 だから、まず酒場から出すことが先決だと。
「……。ふん、慰めの目か?冗談じゃない。そういう心無い態度、いつも感謝してるよ」
 今は何を言われても仕方ないと思っている。だが、思わず手が、く、と強くなった。
「お願いですから、今は帰りましょう?…少し、外の空気を吸って…ね?」
「バカバカしい…」
「え?」
「勇者の天使だからか、その言葉!態度はっ!!」

「!…違い…ッ」
 天使だからじゃない。勇者だから心配なんじゃない!声を上げたかったが、ひゅうっと喉から空気が漏れただけだった。
「違うものか…。口先だけでそう言う奴は掃いて捨てる程知ってる」
 目を伏せて、床の一点を見つめる。
「(でも、今は…)…私はどう思われてもいいです…。今はこうやってしてる場合じゃないです」
「ふざけるな…エスナ」
「……ロクス?」
「どいつもこいつも同じだ…。俺がっ…どう思っていようがお前らには関係ねえんだろ!!」
「そうじゃないっ!!私は…」
「何が…」
 床から目を上げて。その目は鋭く、拒絶の目。
「っ!」

「何がそうじゃないって!?お前もそうだろ!…あれをしろ、…これをしろ…これはするな、あれはするな……命令ばかり…!!もうたくさんだよ!!」
 早口で叫ぶその言葉は最後の方は自分でも何を言っているかわからない程だった。
 その大声に周囲がざわついても、嘲笑、恐怖の視線にさらされても、全く関係なく何か喚く。
「ロクス!それはちが…!」
「他人なんて俺には関係ない……もう、姿を見せるな…ッ!」

「……っ)」
 両手を握って、考えを頭にめぐらす。
「(考えたんじゃだめなのに!)」
 まずは真っ直ぐと目をあわせて。
「…お願い。もう少し私に話してください」
 こんな時に話しをさせても駄目な事は分かっている。なのに、――――私は何を言っているの?
「うるさい!お前に話すことなんてない!」
 そうだ。話したところで何になる?さもわかったような顔をして安い言葉を言うことくらい目に見えている。偽善な『信頼』なんて聞きたくない。
「―――いいかげんにしろ!エスナ…。そうやっていい人ぶってるがいいさ。ああ、流石天使様だな!」

「いっ、…いいかげんにするのはロクスですっ!!バカ!!」
「何?」
「いつもそうに言って全部から目を逸らして!関係ないって…!ホントに大事なものにまで目を向けてない!大事なものまで見過ごしている!!副教皇様の言葉も!」
「副教皇だと?…お前まで俺に説教するのか!」
「そうじゃない!…もう少し…私に…」
「帰れっ!!エスナっ!」
「………」
 何か言おうと、唇が小さく動いたが言葉にはならなかった。



 空の闇に…翼と、小さい光が浮かんでいる。
「…………」

 『どう思っていようが関係ねえんだろ!!』

 頭に響く声。…もう、どうしていいかわからなくて。
「ねえ、こういうとき…どうすればいい…?」
 両手に降り積もる光に聞いて。
「私は…ロクスにとって…邪魔なだけ?…心無い存在…?声をかけるのが怖かったのも…全部悪いの?」
 胸が痛いのに、涙さえ出てこない。
「泣き方…忘れちゃった…のかな…」

 もう少し、私を頼ってくれませんか…?

 白い、光…雪が涙のかわりに降り注いでいた。




元から短いんですよね〜このイベント。ロクスのグチで終わるイベントじゃなかったですか?確か。
それにこのテの話はもう結構前からしてるのでどうもくどくなりますね〜。
でも好きです。「俺」が。
自分のやってることが本当にあってるのか、なんて誰にも分からないですから、エスナも相当悩ませてます(爆)。

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