第6話:それを取り返しに―



「魔石を返してください」
 真っ直ぐな目でその背を見つめる。

「はは」
 冷たい視線がゆっくりとこちらを向いた。一瞬、身体がすくんだ。
「(そうだ…)」
 これしかない。魔石を集める事を先ずはやめさせるしか平和の方法がないと思って、一人でここに来ている。

「なんだ?…マヌケとは思ってたけど、ホントにマヌケなんだな。天使様。こんな路地裏まで追っかけてきて…」
「…返してください」
 ヴァイパーのバカにするような口調が突き刺さる、だから、その言葉を遮って、手を差し出して。
「ロクスは…。あんたの勇者様はどうした?」
 からかわれている目。
「私一人です。あなたを探すのに随分苦労しました…」
「へえ!天使ってのは自分のことは傷つけないとか思っていたけどな」
「なんとでも言えばいい」
 本当の事だ。今まで「人間は傷つけたくない」と言いながらも、勇者に頼っていたのは自分だ。
「ふうん、天使様? 石を掴めないのに来たのか?」
「そんなのいくらでも方法はある。…あなたが素直に渡せばいいの。あれは集めてはいけないものなんです!」
 怖くて…なのだろうか足が、翼が小刻みに震えている。悪魔のカードの影が見え隠れして。だから、せめて声を上げて自分を奮い立たせるのだ。
「はは……俺にはな、世界なんてもう関係ねえんだよ…。お綺麗な天使様?」

 エスナの真後ろの壁にとん、と手をつけて。
「!」
「震えてる?」
「!…うるさいッ!!」
 もう片方の手で羽を数枚つかんで。
「触らないでッ!」
 その手を払おうとして、逆に掴まれる。顔が近付いてきて。
「!? やっ…!」
「俺はロクスみたいなお人良しが好きでな。………あんたが俺が取った魔石の所為でこうなってたらあいつはどうする?」
「ふざけるなっ!ロクスは関係ないですッ!」
「そう思ってるだろ、それで一人で来たんだろうが。……それが全部裏目に出てるぜ。あんたはまだガキだ。はは、勇者様に同情するよ、俺は」
「っ…」
 言われている事に間違いはない。
「…………」
 まだ、手を掴まれている。
「放して…」
 くやしくて。ペースに巻き込まれたままで。


「エスナっ!?」
 聞き覚えのある、高い声。
「ちょっと、あんた何やってるのよ!」
 金髪の少女――アイリーンは咄嗟に手の平で魔法陣を生じさせた。
「ちっ。じゃあな天使様。…おっと言っておいてやるよ。魔石はもう俺のとこにはないぜ。よかったな」
「…あっ」
 力が抜けたようにぺたんと座り込んでしまって、やすやすと逃がしてしまう。
「エスナ!!エスナ、大丈夫?」
「あ、ええ。ごめんなさい…アイリーン」
 翼をつかんだ。
「触られたくなかった…」
 こういう風に思ったのは初めてだ。羽に触れられるのは嫌いじゃなかった。
 前でも今の任務でも、面白がって触れてくる勇者ばかりだったけどれも、嫌なんて思ったことは一度だってなかった。
 それに、この前、触れられて、嬉しかったのだから。
「(ロクス……)」

「えっ?怪我したの?」
「……ううん、大丈夫です…ありがとう」
 まだふらふらする足で立ち上がって、スカートのすそを払う。
「(まったくしょうがないなあ…)エスナ、暇ならついてきてよ。…なんか甘いもの食べに行こ?」
「でも…」
「いいから、おごったげる!!…私も甘いの食べたいの!」
「………はい、ありがとう、アイリーン。ほんとに…」




友人からのリクエスト『ヴァイパー×天使』………ってなんだか違う気が…(汗)。
これじゃあ『ロクスを困らせるための手段』みたいだ。…それに、ヴァイパーの口調が分からん。
アイリーンがおねーさんみたいですね。何故アイリーンなんだかは不明。好きだからです。
しかしエスナ、向こう見ずすぎです。サトシ君(ポケモン)みたいです。


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