第3話:副教皇と大司教たち―



「バレーゼのイリュウスの教会ですよね…?」
「ああ」
 ロクスは短く答えた。
 そこはリナレスからそう遠くない街の教会だ。副教皇たちはそこに居るとの情報を妖精から得て足を運んでいるのだ。
「でも、良かった…無事で」
「…………」

 通りの名前と地番を確認しながら歩く。その通りは大きな通りからは外れていた。
 少し歩くと控えめなファザードを掲げる教会が現れた。
 2人は裏口から入り、副教皇たちの目に触れない位置まで移動する。
「(…やっぱりか、誰も居ない…)」
 昼間の教会は正面の扉が開けっ放しになっている。つまり、誰か必ず居るのだ。
 居ないという事は、リナレスの混乱でみな家から出てこないか、出たとしても、大きな教会が避難場所として開放されているか、だ。

「ロクス…」
「なんだよ、静かにしていろ」
 声がギリギリ届く場所、壁にはちょうど大きな像があったので影を作ってくれた。そこに身をひそめる。
「…………はい」
 今、まさにその話題だった。奪われた魔石について。そしてロクスの責任について。

「帝国が伝説を蘇らせようとしてるのではもう明らか…」
「1000年続いた聖都が失われた…」
「責任はあのロクスにあるのではないか……」

 よく、ここまで聞こえる。
 今は副教皇に向けられている言葉が、直接自分に突き刺さってくる。握っていた手がぐっと強くなる。
「魔石が、帝国に渡ったのは実際確認していない」
「(バカな事を言ってる…。なんでも僕の所為にすれば話は終わるというのに)」
 司教たちの責めるような声。
 だが、副教皇は静かに、低い声のまま淡々と口を開いた。
「ロクスはこの件とは関係ない。…持ち出してもいない。私も彼にも会って確認した。…確かに今の行動も好ましいとはいえない。だが、まだ彼はこの教会のただ一人の次期教皇なのだ。彼は教会を裏切ることはしていない。それは後見人の私が保証する」
 その口調、声に、司教たちは何も返せなかった。そして、ロクスについても何も。
 副教皇は教会にとっても重要な人物だったからだ。

「………………」
 誰の責める言葉より辛かった。責められていたほうがまだ良かった。
 どうして今更、庇おうとするんだ…。



 そのまま教会を出て、教会の裏手で今の副教皇の声を思い出していた。
 いや、思い出すと言うより勝手にぐるぐると頭の中でまわっている。
「他人なんて関係ない…僕には」
 そう自分に言い聞かせて。
「ロクス。副教皇様は…」
「ふん、あんなのその場を取り繕うための言葉だ。ああでも言わないと司教たちがうるさいからな」
 わかっている、そんなんじゃないってことくらい。副教皇の言ってることが嘘じゃないって事くらい!!でも心の底では納得できない。普通の人間なら責めても当たり前のところを何故責めない?
「……僕のこの力の所為だ、この力はここまで神聖視されてる。バカバカしい…。大体これは本物なのか…」
「………ロクス」

 ――――君の言いたい事だって分かっている。でも、君には分からない。この苛立ちが、誰にも分かるものか。
 君も、あの司教たちのように表面だけで僕を見ているのか?今までの悲しい顔も、全部表面だけか?エスナは…僕が『ちゃんと勇者として任務を受けれていれば』いいんだろう?戦いが終わったら天界に帰るくせに。
 『他人』になるんだろう!?――――

「僕は誰も信じない…誰がどうなろうと知ったことじゃない…」
 うわごとのように繰り返される言葉。
 それは誰に向けたものではなく、恐らく自分に向いたもの。
「!? どうしていつもそうやって!そうやって自分で勝手に完結して!!…じゃあ、何で戦ってくれているの!?」
「関係ない!!別に今すぐ勇者をやめてもいい!…僕は……誰も」
「……………」
 何を言っても駄目だと言うことはわかっている。
「ロクス、私は…」
 だから、首を振って、言うのをやめた。
「私、帰りますね…。ロクスも…あまり出歩かないで、まだこの辺も安全とは言えませんし…」
「…………バカなやつ…」
 目を閉じて、額に手をつけて。




これからちょっと、前の小説を直しながら書きます…。ロクスってこう見るとイベントないなあ〜。
「意外な天使」でもやるか。


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