第4話:君がいる意味―
よく分からないうちに魔石を奪われ、聖都を追い出され、ヴァイパーに会ったものの、取り返しに失敗し…。 「…………ちっ」 面白くない事ばかりなのに、天界から戻ってきたエスナの顔も暗い気がする。 「泣きたいなら思い切り泣けばいいのに」 おはようございます・こんにちは・こんばんは。 普通の挨拶は全部制覇した。…と言うことは昼夜問わず、来ていると言うことだ。…自分の元に。 「………」 他の勇者のところにも、行ってるのだろうか(当たり前だけど)。昼夜問わずに。 「ロクス様あ〜」 がくっ、と肩が下がる。 「お前か。ったくその声はどうにかならんのか」 「すみませ〜ん、天使様から『同行してきてくださいねっ』って頼まれたのですう。フロリン頑張りますねえ」 「頑張るも何も僕はエスナから任務も何も受けてないぞ」 「え〜そうなんですかあ?…でも、いいんですう。フロリン、ロクス様と一緒にいますね」 「ふん、勝手にしろ」 「天使様、今日は他の勇者様んとこ行っちゃって〜」 「(あたり…まえだな)」 「…ロクス様、フロリンはやることがありますので」 フロリンダは空中でもそこに椅子があるかのように座ると、裁縫道具を出し何やら準備を始めた。 「…なんだ。それ、自分で作ってるのか」 ロクスから見れば小さな物だが、その小さな布の塊はよく見ると着ぐるみの形。 「そうですう。たくさんあるですよう。天使様はちゃ〜んと覚えててくれるです。これはよそ行き用。任務用って。こないだも天使様に見せてあげたんですう!」 「…………」 『ああ、そうかい』みたいな顔で。 「!…お前、前の任務から一緒だったのか?少し前に僕のところに来た妖精はエスナの事は今まで知らなかったとか言ってたが」 「はいです!フロリンは天使様と一緒でしたっ」 手を休めて天井を見上げる。 ふよふよと降りてきて、テーブルにぺたんと座った。 「天使様、ず〜っと優しくって。ず〜っと笑ってました。…でも。ずっと悲しそうだったんですう。フロリン、それが寂しかったですう」 「悲しそう…?」 「気持ちがぎしぎし言ってて、余裕なさそうでってローザが」 「(なんだ、変わってないじゃないか。他の勇者の所でもそんな顔見せてるのか)」 ロクスは半ば呆れたような顔をして、は、と息をついた。 「でも!天使様はぜった〜い勇者様の前では笑ってるんですよ。泣きません!…だからあ、勇者様たちは〜『エスナは強いね』って言ってましたのです」 「(…それは嘘だな。強くなんかないじゃないか。いつも笑ってはいるが、あれは嘘だ。本当の笑顔なんて…)」 その笑顔が見たくて。 最近は。 「……『地上に残ってくれ』」 「…?」 「って〜言われても残らなかったです。天使様は……『みんなが好きだから、地上を守る役目になる』って。天使様、ずっと一人ぼっちだったから地上が守れて嬉しいって。今度は地上のみんなが家族だからって」 「!」 何故か、胸が痛い。自分には関係のない話なのに。人間に対する無条件の愛。…それが天使か?昔、教会で読まされた教典やら、子供向けの絵本やらが今更になってぐさりと突き刺さる。 そうだ、あの天使の像も、全てを見て微笑んでいるんだ。 「エスナを呼んできてくれ」 「ええっ!でもお…天使様は他の勇者様とお…」 「いいから。早く」 フロリンダはしぶしぶ姿を消した。 それから暫くして、いつもの気配。 「はー…こんばんは」 「……………」 急いで来たのか、息が荒い。 「あの、妖精から…言われて。…困りますよ、いきなり呼ばれても。どうかしたんですか?」 「………君は」 「はい?」 いつもの表情。はにかんだ笑顔。 「なんで、笑ってるんだ?] 「?」 「…いつも。無理やり」 「……。それは……」 「…………帰れ」 「えっ…?ロクス?」 「帰れ!」 びくっと肩をすくませる。 ロクスはエスナを視界からはずした。 「…………はい」 翼が元気なさげに揺れて。 「私…暗い顔はしたくないんです…」 「…………」 横目で、翼だけ、視界に入れて。 「……帰れと言った筈だ」 「いやですよ!意味もなく…帰れなんて。…どういうことですか……」 「(『どういうこと』?…それはこっちの科白だ)」 「あまり…ムリしないで…」 「…うるさい。君には関係ない」 分かってる。エスナが言いたいのは教会のこと。でも、どうにもならない。今までだって反抗してもどうにもならなかったんだ。 どうしてエスナはそんなに過去のことを気にしてくるんだ。 「わかりました。帰ります…」 魔法陣を敷いて、消えた。いつもなら、翼で空を駆けていくのに。 人の心配ばかりするエスナにイライラして。 何故、僕のところにいるんだ…。 「どうして、あの時、僕を呼び止めたんだ…」 彼女の行動にも、自分の思いにもわからないことばかりで。 |
いきなり暗いです。 ロクスサイド(爆笑)。 魔石のことはいいのかよ〜。って感じですが、いいのです。人はそこまで心が広くありません(謎)。 NEXT TOP |