第14話:盗まれた宝玉―



「……思ったより少ないよね」
 妖精からの申し出を受け、報告書もそのままにエスナはラキア宮を飛び出した。
 眼下に広がる地上界・アルカヤ。
 美しい自然。風。こう見てると、まだ、信じられない。運命の歯車が壊れかけているなんて。
「この世界が壊れるかもしれないなんて」
 いつも思うことだけど。

 何が『少ない』かと言うと、勇者からの面会の要請。まあ、結構こちらから訪問してるからだろうが…。
 それに少し心配ではあった。「あんなこと」があったばかりだ。

「ロクス、呼びましたか?」
 翼を畳んで、髪を直すように羽を払いながら言う。
 『あんなこと』とはヴァイパーとの賭け。賭けの内容ではない。
 最後にロクスが喋っていた「魔石の在処」あれは魔法で喋らされたのだ。


「ちょっと用が出来てな。教会に戻ってもいいか?」
 丁度、ここは教会からそんなに遠くない。都の中なのだから。
「聖堂…に、ですか?」
「ああ、さっき使者に見つかってさ。ちっ、こんなところでうろうろしてるんじゃなかった」
「いいですよ。でも、何か?」
「ふん、どうせ説教だよ。わざわざ呼びつけやがって」
「(副教皇様?)…私も行ってもいいですか?」
「は?…説教されるところがみたいのか?…天使ってのは物好きだな。好きにしろ」
 ロクスはそれからあまり話さなかった。何か思うところがあるのか、そうではないのか。いつもなら文句の一つでも言ってくるのに。


 今は戻って来たくもなかった大聖堂。
 見上げて、その建物の立派さにため息をつく。
 近づいていくと、大きな像が見下ろしてくる。預言者たちの像。
「君はここで待っていろ。副教皇は妙に敏感だからな。君に気が付くかもしれない」
「はいっ」
 『仕方ない』というように扉を開けて、副教皇の待つ筈の教皇庁内の礼拝堂に向かう。
「ただいま戻りました」

「ロクスか…。真面目に答えて欲しい」
 いきなりか。
「先日、教会の宝玉が何者かによって盗まれた…。心当たりはないか?」
「……僕が盗んだと…でも?」
「そうは思ってない。そうならここには戻って来まい。…だが在処を知ってるのは私とお前だけだからな、何か知ってるかと思って呼んだのだ」
「心当たりはあります。……ある男に在処を教えました。……賭けで」
「!?」
「負けたときに…」
「ロクス!!」
「…名前はクラレンス…確か、ランゲラック。…仲間内ではヴァイパーと呼ばれていました」
「………。その男を一刻も早く捜さねばな…。しかしロクス、お前には失望した。お前に物事の分別を期待していた私が愚かだったというとか…」
「…僕は」

 今まで諦めたような表情。それは人らしくない目つきだったのに、その目に光が戻る。『反論したい』『僕はあんたらの人形じゃない』というように。
「言い訳は聞き飽きた」
 目を伏せて、首を横に振る。
「何故お前に…」

 『癒しの手の力が』
 言われなくとも分かる。きっと教皇庁に在る全ての者たちがそう思ってるから。

「僕は!好きでここに居たんじゃない!!…あんたらが勝手に僕を教皇に祭り上げようとしたんじゃないか!!誰が…誰がこんな力望むものか…!」
「…出て行け、もう、戻ってくるな」
「言われなくてもそうする!二度と戻るつもりなどない!!」
 振り向かず、目もあわせずに礼拝堂から出ていく。
 副教皇はロクスの方向も見ず、ただ、架けられている十字架を見上げていた。


「………ロクス」
 礼拝堂の外で待っていたエスナは自分を無視していこうとするロクスに声をかけた。
「…お前か」
「あの…」
「『大丈夫ですか』『落ち着いてください』…か?ふん。どうせここには戻ってくるつもりはなかった。行くぞ」
 嘘。本当に戻ってくる気なんてなかったわけじゃない。本当にこの聖都が嫌いなわけじゃない。
「ロクス…。ヴァイパーを探しましょう。まだ、間に合うはずです…魔石がなにかわかりませんが。すぐ…見つければ…」
 無理やり慰めようとしなくてもいいのに。
「……コケにされたまま終わりにはしたくない。必ず探し出してやる」
「はいっ!!」




またもや抽象的。
いよいよこの辺からロクスのイベントが多くなってきますね〜。叫ぶシーンが多くなりそうです(笑)。
後半戦が多いロクスくん。
副教皇が好きです。いや、決してオヤジ好きじゃあありません(おい)。


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