第11話:癒しの手―



 ――――さて、勇者は何人いるんだ?
 やたらと任務をこなしてる気がする。はっきり言って、以前(?)の自分にはないくらい朝夕動いている気がする。
 教皇庁の奴らからは不良だと言われたが…これはもう不良などと言う言葉は当てはまらないだろうよ。と毒づくほどだ。

 それに、こうして天使の勇者として戦っていると、実は世の中には知りたくない事だらけだと思えてきた。あのヴァイパーの賭けの意味も、この戦いの真意も。

 …そして、人の心。



「…お疲れ様でした」
「………」
「ロクス…?」
 見えなかったかのように歩いていってしまう。エスナは翼を消し、地上に降りてロクスを追いかけた。
 実は、見えないように振る舞われるのは、苦手だ。一瞬「本当に見えないのか」と思ってしまうから。
「あの…」
 振り向いて、目を細める。
「…ったく、よくもまあこんなに人使い荒くできるな!君は…。才能じゃないか?」
「!……す、すみません」
「謝るしか出来ないのか?」
「……でも、もう少し…頑張ってください」
「『もう少し』…ね……」

 がたんっ。
 ロクスの耳に何か届いた。
「…?…なんだ?」
「!ちょっ、ロクス!!待ってください〜!!」



「う………うあっ!」

 路地裏から見える街の明かり。少年はそれに手を伸ばした。あそこに行けば、助かる。
 薄暗く、湿っぽい路地裏。冷たい地面に俯せている。
「これで金が入るぜ」
 うずくまった少年の手を踏みつけて笑う。
「ああ、ガキもこれだしな」
「ん………」

「おい!お前らっ!!」
「!! やべえ!逃げろ!」
 ロクスの声が聞こえると男たちは子供を置いて逃げ出した。深追いはしようとは思ってない。直ぐに子供を介抱する。
「大丈夫か…?しっかりしろ。今助けてやるから…」
「ロクス…。……あ!」

 子供を抱き起こし、手を翳す。
 治癒魔法と呼ばれているものとは違う、光。
「(これが、ロクスの力…?教皇の証といわれる…治癒の力)」
「あ…だぁれ…?」
 子供の意識がはっきりと戻ると、ロクスは笑って、頭をなでた。
「よかった。気がついたか。もう、路地裏になんて入るなよ?………おい、エスナ」
「は、はい!」
「この子を家に送って来い。僕はここで待ってる」
 と、腕を組んで『もう一歩も動きません』を決め込む。
「え…ええ」
 エスナは子供の視線にあわせてかがみ、
「さ、帰ろう?送っていってあげるから」
「うん…。ありがとう!お兄ちゃん」
 子供はエスナの手をつかみ、もう片方の手でロクスに手を振った。



「………」
 気分が悪い。
「ふざけるな…」
「ロクス…?」
 腕を組んだまま、うつむいている。
「…お前か。…子供は」
「ええ、ちゃんと送ってきました。感謝していましたよ。……あ、?ロクス!怪我…」
 隠していた怪我に気がつき、魔法をかけようとしているエスナの手を払った。
「……。? あ、さっきの人と…戦ったんですか…?」
「ああ。あいつら、あの子をさらって身代金を要求した挙句に…殺そうとしていたんだ…。ふざけるな。そんなので手に入れた金に…!」
 どん、
 手近な壁を殴る。
 ギリ、と音がしそうなほど、こぶしを握って。
「………」
「そんな金が何をしてくれるって言うんだ!?」

「(そうか…。この人は……その手をもつ人の意味は…)」

「気分が悪い!こんなところでふらふらしてるくらいなら寝る」
 エスナから視線をそらし、路地裏から街道に出た。何も言わずに、いつもより早足で歩く。
「…ロクス…!」
 エスナが自分の後を走って追いかけてきてるのが分かると、ようやく立ち止まった。
「……早く帰れ」
「…はい。でも……戦ってくれたから」
 ロクスの腕をとって、怪我に治癒魔法をかける。
「余計なことを…」
「……私、そういうのが…勇者だと思うから…」
「は?」
「………ロクス、この手のこと、嫌ってる」

 何故いきなり手のことを。
「そりゃあな。こんな手の力、いらない。…教皇に祭り上げられる力なんて」
 金持ちだけを相手にする治癒の手。布施を貰うための手…。そんなのいらない。誰が望むものか。
「笑わせる…僕みたいな男が教皇なんて」
 エスナは微笑むと、ロクスを見上げた。
「ほら。だから…。……あなたはこの手の力に操られない人だと思います。だから、自分の意思であの子を助けた……」
「…言っている意味がわからない」
 微笑んで、
「わかんなくてもいいです」


 人の心なんてわかりたくなかった。わかったところで自分が傷つくことの方が多かったから。いままでも教会でそうやって見てみぬフリをしてやってきた。
 でも、エスナの言っていたことに本当に意味があるなら…ちゃんと知りたいと。この耳で聞きたいと。




毎度ながら抽象的ですみません(ホントにな)。このイベント好きです。
癒しの手って…もう何回も出しているんですが。すみません。

エスナの言ったこと、分かっちゃうかもです。お約束ですので(爆)。
通常ED(かなあ)で『ロクスに何故、癒しの手があったのかわかりません』っていうのありませんでした?(なかったかな)それがね、「おう、わかんないんなら作るぜ」と思いまして。

毎回ロクスのグチで始まるこの小説。すごいね、そろそろ普通にはじめられんか。

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