第10話:毒蛇との賭け―



 最近、酒場についてこようが何しようがどうでもよくなった。
 日常茶飯事だと思えばこそかも知れないが。
 確かに女性は寄ってこない。だが、上辺だけの愛の言葉やなにやら、それを知らない女たちに囁くのも疲れてきたし、また聞きたくもない。だから、丁度いいのかもしれない。

 酒類が全く受け付けないらしいエスナは今日も自分の横にちょこんと座っているだけ。小さい菓子みたいなものを頼んでやると、いつまでも食べている。しかも追加注文しているのだから笑ってしまう。
 酒場の造りなんて何処も同じっぽい気がするが、エスナはその町々の酒場に寄る度にカウンターの椅子の数や、テーブルに置いてある置物の彫刻、その他どうでもよさそうなものをいつまでたっても眺めている。

「ロクス、お酒…ほんとにおいしいんですか?」
 観察するものがなくなったのか。
「うまいよ。君には分からないみたいだがな」
「ん〜……」
 菓子を一つ口の中に放って、酒瓶を眺める。
「飲んでみるか?ほら」
 と、自分の飲んでいたグラスを渡すが、首を横にぶんぶん振って断った。
「だめです。それは私には合わないみたいですから、仲良くなれ…そうもないです」
「はは、そうか。…ヘンなやつだな」


 急に、酒場の奥が騒がしくなり、その中に聞き覚えのある声がした。
「よう、ロクス」
「お前か……」
 よく逃げなかったな、なんて思いながら。
 大体が妙だろう。勝ってもヴァイパーは得しないのに、よく勝負を仕掛けてくる。
「また勝負しねえか」
「…ま、いいだろう。僕も暇だしな」
「ロクス…」
「君は僕の後ろで見てろ。ちょろちょろされても困る」
「はい!」

「ちっ、またお前の勝ちか」
 1ゲームが勝負がつくと、手中の残りのカードを放り出した。確かにそのメンツではこれからどう頑張っても上がれない。
「悪いな、毒蛇君。今日は僕の方が調子がいい」
「…?勝ったんですか?」
 後ろからひょこっと顔を出す。ロクスはエスナにカードを見せて笑った。
「(勝ってるの…?これ)」
「なに、まだ終わった訳じゃねえ」
「ふん。また負け惜しみか?」

「……違うな。ロクス…勝負のとき、お前は何を信じる?」
 手はすでに次のゲームが始まっている。
 ゲームを進めながら、自分のカードを見ながら言った。
「さあな。…強いて言えば自分の腕か…いや運か」
「そうさ、いいセンいってるぜ、全部運だ。勝負も生まれも。才能も…全部な…。物事に意思なんて努力なんてそんなの関係ないんだ」
「はは。そういうのもあるだろうな」
「いや、全てさ。みんな気がついていないだけだ。真理だよ」
「……(まあ、そうかもな。生まれも才能も…選べやしない)」

 ゲームは続いている。いつものように、やっている。
 手持ちのいらないカードを捨て、コインを動かして。だが何故だ?さっきから気持ちが悪い、胸騒ぎがする。
 例え負けても損はしないのに。(いや、負けたくはないが。)…負けたとしてもいつもと同じなのに。違う気がする。

「俺は運だけを信じる…。カードを引くとき…息を止めて思うのさ。『俺は運がいい』…ってな」
「迷信じみた話だな」
「………」
 エスナはくっと手を握った。カードの意味は分からないけど。
 どくん、どくん、と何かが警告する。

「見てみろ。次のカード」
 ヴァイパーは少し俯いた状態で上目遣いし、不敵の笑みを浮かべた。
 ここまでのゲームでヴァイパーが勝てる見込みはなかった。なのに。
「アメジストの7が来れば…俺の逆転勝ちだ。読んでみろ…」
「…………!」

 カードを落としそうになる。視線が泳ぐ。
「(こんなことは…ない筈だ!?)……アメジストの…7だ」
 がたん、と椅子がずれる音がする。椅子をずらしてテーブルに肘をつき、ロクスの顔を見据える。

「悪いな…ロクス。まあこんなこともあるさ」
「………ちっ」
 体制はそのままに、ヴァイパーは指をつい、と動かした。
「ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「……」
「大聖堂に隠されてる魔石がどこにあるか教えてくれないか…?なぁに。友達が見つけられなくて困っているんだ」
 まだ、二人の周りにはゲームを見ていた大勢のギャラリーがいる。

 キン―――――

 小さな音が耳についた。
 だが、ギャラリーは何も感じなかったようで、面白そうにロクスたちのやりとりを見ているのは変わらない。
「(でも、これは…ロクス…!?)」
 ざわりと肌が泡立つ。
 意味もなく、どくんどくんと脈打つ。
 何か、真っ黒いものがそこで静かに、だが確実に渦巻いていて。エスナは声を発した。

「――――!!」

 目を見開く、声が出ない。


「………東の塔の…」

 抑揚のない声。視線は何を見ているかわからない。

「(声が…出ない?ロクス!!操られてる…!)」
 手を伸ばそうにも、手どころか身体全体が自分のものではないように動かない。

「司教が立つ位置の下…そこに隠し階段があって……封印の部屋からは…そこから行ける………」
 操られたように、全てを話すと、まだ手にあったカードがするりと滑り落ちた。
「ありがとうよ。流石…教皇様だな。また会おうぜ…お前とは気が合う…」

 それが目的だったようにヴァイパーはさっと立ち上がった。
 途端、耳につく音も、黒い影も何事もなかったかのように消え去った。
「! ロク…!」

「それと、後ろの天使さんにもよろしくな…」
 と、初めて目が合う。
「!あ……」
「マヌケ面がかわいい…ってよ」
 数人の男たちとヴァイパーは直ぐに酒場を出て行ってしまった。それを合図のようにまわりのギャラリーは自分の酒に戻っていった。誰も、ロクスの異変もわからずに。
「…ロクス…一体」
「…気にするな!なんでもない………!」

 気持ち悪かった。嫌な空気が漂っていた。
 目線を落とすと法衣を握られている。震える手は、きっとこの天使も『同じ空間』に居たのだろう、と舌打ちをした。




は〜い!二人がやってるゲームはなんでしょう〜??…ババヌキ(爆)。
私、カードゲームってわかんないんですよ…ババヌキは分かるぞ。あと花札。
終始セリフだらけ。これが全部終わったら他のサイトさんの創作見に行こう…(感化されるので知り合い以外は自粛してるのです)。
みんななんで書けるんだろう…。

ED前とか最終の方から思いついてきて困ります…って全部思いつきかい!(笑)

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