第13話:聖母の森―



「(………暑い)」
 ロクスは法衣を脱いでそれを肩から担ぐようにかけた。ついでに腕まくりもしてみたりして。

「ちっ…」
 自分の少し前を歩くエスナ。
「(こいつ、こんなに涼しいカッコしやがって)」
 寒い地方では『見てるほうが寒い』といらいらし、暑い地方でもやはりいらいらする。
 我ながらそれはどうだろうと思うのだが、怒りたくなるのも仕方ないと思う、と結論付ける。

「ロクス?」
「ああ、なんでもない!…しかしこんなところに人はいないだろ?こないだも森で迷ったじゃないか」
 いい加減、迷うのだけは止めてほしい。
 仮にも天使なのだし、何か方法はないのだろうか。そう聞いたら、妖精たちにまた無理はさせられないんですよー…と返ってきたのだが。
「ええ。…でもこの前の森とはまた違いますよ?」
「違うから迷ってないとも言えないだろ」
 ごもっとも。違ってるからこそ、迷ってるのでは。しかし、エスナの言葉には続きがあった。

「このあたりはセシアに聞いたんですが『聖母の森』って言われているみたいです。でもセシアは見たことがないって言ってましたけど」
「ふうん。……ん?」
 何かに気がつき、その方向を見据える。
「ロクス…?何か…」
「…………エスナ。来い」
 少し考えてそれだけ言うと、何かを感じた方向に向かった。



 魔法のような波動。それに囲まれた場所についた。
「…魔法陣…描いてありますね。結界の一種…とか?」
「悪いもんじゃないだろ、そんな気はしない……」
 森の中に静かに佇む、小さな祠、のような建物。
 そこにその人物はいた。老婆だが、どこか威厳に満ちた姿。

「よく来ましたね。 …エリアス…」

 老婆はもうロクスが来ることが分かっていたように出迎えた。最後に言った名前は小声で言ったので聞こえなかったのだが。
「…あなたは?」
 ロクスはそう聞いたが、もう自分ではこの人物が誰か分かってるような気にもなる。
「私はディアナという者。…そう、ここへは選ばれたもの…聖なる祝福を受けたものしか辿り着けません…」
「それは…たいそうな話ですね」
 少し、眉がつりあがる。
「名前はなんと言うのですか?」
「ロクス。……ロクス・ラス・フロレス…です」
「…ロクス・ラス・フロレス?……ああ、今の聖王国の教皇ですね…あなたのことは分かります…。その勇者ならば癒しの手をもっていますね」
 ディアナは懐かしそうに、笑う。
「聖王国…?」
 エスナは首を傾げた。
「ああ、エクレシアのかなり古い言い回しだ。もうその名前で呼ぶ奴はいないがな。………そうです。癒しの手は持っていますが……まだ教皇に即位はしてません」

 少し、ロクスの表情が厳しくなる。痛みのような顔。
 『教皇になる』なんて言葉、聞きたくなかった。どこに言ってもついてくるのか。その言葉は。

「こちらに来なさい…。ロクス」
 言われるままに、近づく。
 ディアナはまじまじとその顔見て、また微笑む。
「あなたはよく似ています…初代教皇に」
「初代…エリアスですか?…1000年も前の……」

 聖堂の壁にかけられたタペストリー。天使に導かれて戦っている一人がエリアスだ。
 でも、自分は知らない。関係ない。だから、教皇庁の連中がその伝説を教えてこようと覚えようともしなかった。まあ、耳にたこが出来るくらい聞かされたので覚えてしまったが。

あなたは何を言って…」
 ロクスの言葉を遮るように、静かに言葉を続ける。
「感じたままを言っているだけです」
「…………」
「…あなたには力も、そして迷いもあります。敵はそれを突いてくるでしょう…でも、信念を持ち、自分を信じて誘惑に負けないでください…。―――あなたは私と戦った勇者です。大丈夫」
「ええ……なんとなく、分かる気がします」
 彼女が言うことを頭から否定できない。
 ロクス自身、このような曖昧な物言いは好きではない。だが、かと言って『わからない』と言う事も出来なかったのだ。
 ディアナ微笑んだ。
「よかった」
「……………」

「あ……聖母ディアナ様っ!」
 ぱあっと光ったと思うと声とともに、姿を現す。翼はそのままで。
「天使様」
 ディアナは驚きもせずに今度はエスナに視線を移して。
「あのっ…。ディアナ様と一緒に戦った…その時の天使は誰なのですか?……私は伝承しか…いえ、伝承も知らないんです!まったくこの世界のこと…知らないんです…この混乱の本当の意味も…!」
「天使様。私は確かに天使様の勇者になって戦いました。その天使様のことは…多分、私からお話することではありません。…いずれ分かる時が来ます。あなたは、あなたの勇者を正しく導いてください。この混乱の意味は私にもわかりませんが、おのずと分かってきます。…そのとき、ロクスと…勇者とどう歩んでいけばいいか、あなたは分かる筈です」
「……はい」
 曖昧な答えを望んでいたわけじゃなかった。
 ちゃんと答えが知りたかった。
 この戦いの本当の意味――。私が彼らを導いていけるのか。
「………エスナ?」

「!」
 しまった、と言う顔をして。
「(…ロクスの前で言うことじゃなかった〜…)ん。……はい…そうですね。ありがとうございます!」

 その表情も。まくしたてるように喋りだすところも。
 1000年前に降りてきた大天使と比べるとあまりに幼い。

「(でも…この子には)」
「…エスナ」
「………ロクス、行きましょうか」
「ああ」

 ディアナは二人の姿が結界に消えて見えなくなるまで見つめていた。
 天使がまた地上に降りたこと。…1000年前もか関わった石の事を思いながら。
「天使様…あなたはどうして…」


「(エスナは…)」
 ようやく結界の外に出ると、そこは森の外だった。遠くに灯り―――町が見える。つまり、迷っていたのではなかったのだ。それは、本当に聖なる祝福を受けた勇者かと試されていたように。

「(伝承しか…知らない?普通は天界の分かること全て教えてやるんじゃないのか…?)」
 天界のことはロクスが…地上の人間が考えて分かる事などではないが。




セリフが多いとことって。困るよね…長くなるし、セリフだらけになるし。
私、ストーリーの順番、間違ってるかも。…まだラファエル様だって知らないんですよね〜??あれ?


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