第6話:毒蛇2―



「え?もう…ヴァイパーと会ったんですか?」
 いつものようにロクスの斜め上をふわふわ浮きながら、聞いてきた。
「ああ、こないだな」
「私も見たかったです…賭けって…」
 と、言葉を止めた。
「(「わからない」って言ったら、また笑われるからやめとこ)」
 そういえば前の任務でも、今の勇者たちでも、人の世界の事は何でも聞いて呆れられた経験がある。

「賭けがわからないってか?…ふん、君には関係ないよ」
「………(なんで分かったの)」
「それに君は『今日は約束あるんですー!』とか言って帰ったぞ、その日」
「あ、…その日ですか。………で、どうだったんです?負けたんですか?」
 あっさり『負けたんですか』と言える奴も少ない。嫌味を通り越してむしろ清々しい部類だ。
「…普通は『勝ったんですか』って聞かないか?」
「あら」
 と、地上に足をつけて、歩き出す。
「勝ってたら『勝った』って言いません?」
「…そんなもんか?…」

 そう、つまらない賭けだった。



 数日前。
「よお、ロクス」
 薄暗い酒場の奥――。前と同じような場所から自分を呼ぶ声が聞こえた。
「お前か」
 今日はエスナはついて来なかった。だから今日こそは好き放題酒が飲めると思っていたのに。
「今日はヒマか?」
「なんだ?」
 ヴァイパーは椅子に座り直すと、にやりと笑ってカードを取り出した。
「言っただろ?カードさ」
「! 本気だったのか?」
「ああ、お前を待ってたんだ。当然さ」
「……わかった、やろう」

 勧められた椅子についた。テーブルの上にはあっという間にゲームの準備がされる。
 あの有名なロクスと、やけに自信がある謎のギャンブラー。
 この戦いを暇な野次馬が放っておくわけがない。案の定、二人の周りにはあっという間に集まってくる。

 ゲームが始まって少し時間が経つと、ロクスが口を開いた。
「はは、たいした腕じゃないな」
「なあに、こんな楽しいゲームを簡単に終わりにしたくないだけだ」
「…ふん、負け惜しみか?……僕とイーブンだぞ?名高い勝負師じゃなかったのか?」
 勝っても負けてもいない。
「はあ…もうやめにしないか。正直僕は飽きた」
 ばさ、カードを投げ出してしまう。どうせこれ以上やっても勝負は平行線だろう。

「ああ、そうだな……!ごほっ…」
「?…どうした?」
「ああ、たいしたことねえよ」
「じゃあ、またな。逃げるなよ」
 自信をつけたのか、そうではないのか、ロクスは挑発するような目でヴァイパーに言う。
「そんな真似しねえよ」
 しかし、ヴァイパーには表情がない。…ただ少し、顔色は悪いが。
「ふん、顔色が悪いぞ。逃げたかったら逃げてもいいんだぞ」
「…うるせえな、早く帰って寝ろ!」
「ハハハ。じゃあな蛇君」


「…?ロクス」
「ん。ああ…ま、君が気にするような内容じゃないよ。プライベートまで首を突っ込むなよ」
「私…そういうわけじゃ…」
「…それで…『約束』ってなんだったんだ?他の勇者か?」
 それはそうだ、この土地に他に知り合いはない。
「ええ。街見学です」
「………(女勇者か…)」
 今、何故「女」と付けたのだろう。男勇者でもいいじゃないか、ロクスは眉を吊り上げた。
「…関係ない」

 しかし、この毒蛇との出会いが後の戦いに悪い方向に結びつくとは知る由もなかった。




…まんまストーリーの通り。なんだか苦労しました。ボケ役がいないので。
しかもこの次はエスナが言ってた『約束』です。


NEXT
  TOP