第17話:悪夢の果て―
―――悪夢…を見てたのかもしれない。 燃える聖都、逃げ惑う人々、…飛び散る羽。身を貫かれるような…悲鳴…。 あの時、あの言葉の通りに退いていれば良かったんだ。 そうすれば、こんな…事には―――。 「ロクス…?」 天界から地上に戻ってきたエスナはまず、ロクスを探した。夢中で行った転移魔法でどこに転移させたのか自分でもわからなかったからだ。 フロリンダやローザたちエスナに協力している妖精らは天界の上級天使を欺くために待機させたままなので、自分で探さなければならない。 だが、何かに導かれ、漸くその姿を見つける事が出来た。
「ロクス!!」 苔生した石畳の配置は魔法陣。その溝が微かな光を放っている。恐らく結界のようなものだろう。小さな虫さえ、その結界に入ってこられないのか、ロクスを囲うように石畳からドームを描いている光を避けるように通っていく。 外側に降り立ち、それに手を付け、ゆっくり歩みを進めると、ふわん、と薄い膜がふれるように結界が揺れ、エスナを招き入れた。 「ロク…?」 すぐ傍に膝をつき、触れるか触れないかの所まで手を伸ばし治癒の魔法を唱えた。 治癒の光は結界のドームにゆったりと反射し、中を満たす。 「…目を、覚ましてください…。お願いです……」 唱えながらその身体を目で確認する。外傷はないようだ。ゆっくりと上下する胸にほっと息をつく。何故目を覚まさないのかが不思議なくらいだ。 「…………」 治癒を続けたまま、その顔を見つめる。表情は穏やかだ。だが、もしかしたら怖い夢を見ているかもしれない。 柔らかい銀髪が微かな風に揺れる。 「……何の為に…戦ってるんだろう…」 ――――上級天使たちの言葉が蘇る。 上級天使たちは『天界の門さえ守れればいい』と言った。 確かに、天界さえ守れれば地上が一つ二つ消滅したとしてもその大地は再生は出来る(長い時間を要するだろうが)。 アルカヤやインフォス以外にもたくさんの地上界がある。エスナとて、地上界の全てを知っているわけではない。数えるのも馬鹿らしくなるほど、たくさんあるのだ。 「でも、そこにいた人は元に戻らない…地上がたくさんあってもその人は一人しかいない…!」 天使ってなんだろう。いつか人に聞いた話は『人にとって幸せを運んでくれるもの』だった。 「私は、勇者にとってそういう存在でいられる?……戦っても…苦しいだけじゃない…?」 「ロクス、…辛いなら…辞めてしまってもいいんですよ…?地上の前にあなたが壊れてしまう事はないんです…」 では、他の勇者は? 自分の中で問いが生まれて、顔を歪める。 なら、みんな辞めてしまってもいい。 「………っ、なんで、天使は…地上では力を使えないんでしょうか…っ」 途端。翼に、光を感じた。 天界でいい加減に治して来ていた翼の傷が癒える。 「?」 ふと後ろを振り向くと、いつのまにか背に手が回されていて、その手から光が発していた。 ――――癒しの手。 「!? ロクス…?気がついて…!?」 「………。君にこの力を使うには2回目だ。…布施を請求するぞ」 「ふ…せ?」 「…布施を僕によこすのか?…それともまだ戦うのか?」 羽を掴んで、エスナと視線を合わせてから、――目を逸らす。 「…?どういう……」 ロクスはゆっくりと身を起こす。一瞬顔が歪む。その緩やかな動作は恐らく全身が痛むのだろう。それでなくとも堅い石の上に横になっていたのだ。 だが、身体を一度起こすとだいぶ楽になったようで、改めて周りの景色を見た。 「何処だか分かるんだろ?ここが」 「はい、聖母の森です。きっと…セシアの中の聖ディアナ様が…力を貸して下さったのかと…」 木漏れ日がきらきら輝く。白い翼が眩しい程の光を反射している。 気が付けば結界のドームは消え去り、幾分遮られていた陽光や風がそのままの姿で落ちてきていた。木漏れ日。その日差しや風は暖かく、緩やかに髪や翼を揺らす。 「この戦いが、…無駄じゃないってことですよね…?だから聖母様は…」 「さあね。僕は知らない。そんな今やっていることが世界にとって良い事か悪い事なんかを考える程暇じゃない。…僕は君が言うから戦ってるんだ」 「……」 「…じゃなきゃこんな事には手を出さない…知らないフリをしてるさ。僕は、そういう人間だ」 まだ、羽を掴まれていた。それに視線を落として、少し微笑んだ。 「………。ロクス…布施、出しません。だから…もう少し勇者でいてくださいますか?お願いです。辞めないでください。私も、私も…頑張りますからッ…!」 「僕としては」立ち上がってエスナの頭に手を乗せる。 「布施をもらって勇者を辞める方が楽でいいのだがな」 「…嫌。お金を渡してロクスと他人になるなんて」 「ふん……」 『他人』と言う言葉、ロクスはそれに微かだが反応した。 |
一人で暴走…フェバ天使がこんなんでいいのか。 ここで前半戦終了〜〜。よくやってるな、私。 NEXT TOP |