第3話:酒場にて―
「く〜…」 あれから数時間。 夜も更けるごとに酒場の活気は大きくなっていくのだが、カウンターに座っている、ある人物は…。 「すう…」 「………。このバカ天使。邪魔ったらないな」 誰にも聞こえないような声で言いながら、グラスを空ける。 いつもなら、空瓶がいくつか転がっててもおかしくない時間、酒場にいる。 隣にいる人物なんて放っておけばいいと自分でも思うのだが。やはりそうもいかないと思うのは、自分は実はとてつもなくお人良しなのだろうか、と思ってしまう。 と言うのも、何度か妙な男たちに絡まれそうになっているところを、助けているのだ。 「酒場で寝こけられる奴を僕ははじめて見るぞ…」 『もうだめですー…』とテーブルに突っ伏したエスナはそのまま寝てしまったようだ。まだ、頬が赤い。 「はあっ…」 なんだか今日は妙な事が多い。毒蛇なんていうあだ名の奴には妙な賭けを誘われるし。 また大きく息をつく。 「賭けか」 ギャンブルも、酒も。みんなあれが原因ではじめたものだ。その所為で聖都を追い出され、旅になんかに出されている。 「ついてないんだろうな…。僕は」 今、この天使が自分の元にいる理由。 妖精が探したという『勇者の素質』とは自分ではなく『癒しの手を持つ者、次期教皇の資格を持つ者だから』だ。多分。 1000年前、この世界を救ったと言われている一人、初代教皇・エリアス。それを重ねられているのだ。 彼女の他の勇者は「その人物であること」自体がその素質なんだろうが、きっと自分は違う。 「(僕は…なんの為に)」 「ん〜……」 「…ちっ、お気楽な奴…」 酔いが回ったんだ。だからこんなつまらない事を考えてる。 ロクスはふと、隣の天使に目を落とした。 「…こいつ、このまま酔ってたら帰れないんじゃないか…?はあっ。…仕方ないか」 ロクスは手をエスナの頭に置くと、意識を集中させた。どう使うのか自分でもわからない。恐らく魔法の類とは違う――のだと思う。 癒しの手。 考えてみたら、久々かもしれない。自分から手の力を使うのは。 「! ん……ここは」 「起きたか?今まで酔って寝てたんだぞ」 「あ、…おはよぉ…ございます」 「まだ夜だ。…まあ、酔ったって言ってもふらふらとかはしない筈だ。早く帰れよ」 確かに、身体に異変はない。治癒が効いているのか。 「あ、はい。ええと、…ロクスも…早く休んでくださいね」 「ああ、君がいなくなったら心置きなく飲めるからな」 「…だめですっ!もう何時だと思ってるんですか!?」 エスナは懐中時計を出してロクスの目の前に吊るした。 「………2時。まだ早いじゃないか。というか君、時計なんて持っているんだな」 「そりゃもちろんですよ、この世界の時間軸を覚える為ですから。 ……。じゃなくて!!全然ですよ!早く宿に行って下さい!」 「うるさい。君に僕の生活をぐちぐち言われる筋合いはない。それに君は今までここで寝てたんだぞ、帰るにも帰れないじゃないか」 帰る気なんてないけれど。 「!! で、でも!身体、壊しちゃいます! …それは、私…酔って寝てしまって…迷惑かけましたけど」 「勇者が減ったら大変とか思って……ん?」 「…勇者だからとかじゃないです。……お願いですから。人は休まなければならないって、私知っているんですから」 折れそうにもない。 「わかった。……だけど君はもう酒場についてくるな」 「駄目ですか?」 「…って言ってもついてくるんだろ?好きにしろ」 …退屈はしない。と、今はその程度。 |
酒場の続き〜〜。ただそれだけ。ロクスが敬語をやめました(笑)。 新事実!癒しの手は酔いにも効くようです。きっと二日酔いとかにも…(こら)。 しかしロクスって酒場ネタしかないのか?? NEXT TOP |