第16話:聖都侵攻―



 ことあるごとに人知れずため息をついている。

 確かに空から見ればこの大地は美しい。でも、地に降り立って、戦いにに身を投じると、突然、この間まで美しかった大地は段々、争いの血で汚れていくのがわかる。……それは確かに激しくなってきている。

 天の下は血塗られた大地――。

 天使がこんなことではいけないのに、フェインにも言ったのに。「戦ってくれている勇者に弱音は吐けない」と。
 だからいつも笑顔でいたかった。
 でも。


「ロクスッ!!」
「そんなに叫ばなくても聞こえる」
 よほど、悲鳴に近かった声だったのか、ロクスは迷惑そうに眉を顰めて言った。
「あ、すみません。お願いがあって…」
「任務だろ?はあっ」
「リナレスが!聖都が帝国に侵攻されていますっ!!私、フェインとアイリーンに伝えなければならないのでっ…!」
「!? 聖都が!?…僕が行く。僕だけで十分だ!」
「でも!約束したんです…。セレニスが……ええと、ロクスは先に行ってて下さい!直ぐに追いつきますから!」
 飛び立とうとする腕をつかんで。
「離してください!…ロク――…あ」
「…いやだ、君も僕と来い…」



 ―――紅蓮の炎。
 何もかも飲み込む紅蓮の波。
 逃げまどう人の声。建物が崩れる音―――。
 誰かの笑い声…。
 そんなものが一気に視界に飛び込んでくる。

「………あ」
「…燃えている…。聖なる都…教国の象徴が…1000年続いた…聖都が…」
 『1000』年という言葉を口にしたとき、何故か胸が痛んだ。
「エスナ」
「……私は」
 ぼーっと炎を見つめている。飲み込まれそうなくらい。
「あの…おじいさんも…?……や…」
「しっかりしろ!!お前がそれでどうするんだ!?まだ…戦える…!!」
 肩を取り、視線を合わせる。
 さまよっていた視線はロクスをとらえて、
「は……はいっ!」


「帝国軍め…」
 思ったより、まだ帝国兵は残っていた。いや、まだどころじゃない…。――かなり。
「威勢のいい僧侶様だ」
 どこからか、あざ笑う声。
「ガタガタ抜かすな!!とっとと来い!!」
 何人もの兵士にたちどころに囲まれるロクス。
 初めは優勢だった。
 しかし、冷静さを欠き、その上多勢に無勢。いくら魔法でサポートしているとはいえ、その体力も魔法力も無限ではない。
「治癒魔法が…ロクス!!もうだめですッ…ここは退きましょう…!」
「……ちっ」
 エスナの声も聞こえていない。
「ロクス!!」
 その時、
 しゅすっ、衣擦れの音とともに兵士が引いた。
 赤い、長いローブに金髪。
「あら、まだ逃げていない僧侶がいたの?ふふ、逃げないだけの根性があるわけね」
 ぼろぼろになった体を引きずって、セレニスを睨む。
 兵士もまた、剣を構えなおす。
「(魔法の波動…?……だめ…殺されちゃう…!!)」
 考えてなんかない。

 次の瞬間、ロクスの視界に映ったのは、飛び散る羽根。
「ッ…あっ!!」
 ロクスの目の前に、純白の羽が無数にひらひら落ちてくる。
「エスナっ!姿を……バカ!どけ!」
「バカでもいい…!…私は…あなたが傷つく方が嫌だからッ」
 こうなっては翼もジャマだ。翼を消して、セレニスの前に立った。
「……セレ…ニス……やめて…くださいっ!こんなッ」
「あはは!天使…?姿を現すなんて…バカね」
「エスナっ…」
「(ロクスは動けない……だから、転移魔法と…小さい攻撃魔法で敵を足止めさせれば)」

 右手と左手で属性の違う魔法は普通、唱えられない。それにエスナは輪にかけて攻撃魔法が苦手――いや、出来ない部類に入る。
「(――二つの点は…一つの点に。天界の守護者よ…彼の場所へ導き給え…――)……お願いっ…!!」
 光が飲み込んだ。セレニスは今ここで本気で戦う気はなかったらしく、深追いはしては来なかった。





「強制送還…か」
 素晴らしい絵が見える。それから繊細な彫刻。
 天井。
 エスナは自室で横になっていた。
「アイリーンの本のお陰ですね…魔法、使えたのは……。そだ……地上は…」
 起き上がるとまだ、翼の傷の奥がうずく。
 身体にかかる感覚の理解に乏しい天使だが、全く感覚がないわけではない。ましてや「魔」相手の場合は、人のそれより痛みを感じる。
「う…痛ー…ッ………はあっ…。私は…間違ってた…?」

 ロクスは無事らしい。
 しかし、地上で力を振るったこと、むやみに翼を見られたことで、『暫くの間ラキア宮で謹慎処分』と上級天使から言い渡された。
「でも、ああしないとロクスは死んでしまったかもしれない…。敵だってたくさん死んでしまうことになった…」
 敵、つまり帝国、だ。
 帝国イコール悪、と決めつけるのは良くない。それは帝国の騎士・レイラを見ていればよくわかる。まだ帝国の中にもレイラのような騎士がいる。それに、魔法で操られている兵士も多く在る筈だ。出来ればその様な者たちには…。
 エスナの部屋の前、数人の話し声が聞こえる。その声で思考がいったん中断された。
 聞き耳を立てなくても、会話の内容がわかるあたり、聞こえるように喋っているのか。


『あんな下級天使に地上の守護はムリだったんですよ……』
『人間に…それも敵に翼を見せるなんて…。はあ、守護無き者は所詮………』


「…聞こえてるよ…」
 自分の事はどうでもよかった。こう文句も言われるもの日常茶飯事。


『だいたい地上界はいくつあると思っているの、人間なんていくらでも代わりは…この天界の門が破られたら全部おしまいなのに』


「!!…フザケ…」
 ベッドから飛び起きて、エスナはばんっと扉を開け…ようとして、
「天使様〜〜!!だめですう!」
「天使様、落ち着いてください!」
「こら!ちょっと離しなさい!フロリンダ!!ローザ!」
 二人の妖精に無理やり椅子につかされる。

「天使様あ、傷は大丈夫ですかあ?」
「たいしたことないから…!大丈夫…。私、早く戻りたいの」
 いらいらした口調。自分でも嫌になってくる、フロリンダとローザに当たってる自分が。
「わかりますけど、ダメです。ここで騒ぎを起こしたら、守護どころではなくなってしまいます」
「わかってる…。でも……許せない。人の命を何だと思ってるの…。早く地上の混乱を止めないといけないのに、どうして地上にかえしてくれないの…!始末書で…反省文ですむほど簡単じゃないことは誰でもわかるのに!!」
「天使様…」
「もう天界に戻れなくてもいい…お願いだから…私の勇者のとこに……ロクスのとこに…戻して…」

「………。ロクス様が」
 一度息をつき。
「ローザ?」
「ロクス…?」
「『面会を申し出ています』……早く行ってください天使様。私たちもお手伝いして天界の門を開きます」
「ローザ……はい!ありがとう!始末書ならあとでたくさん書きますから」


「一部の上級天使だけよ。天使様のこと謹慎って処分にしたの…大天使様たちは『エスナの処分は報告書の提出とする』って。今はそんな悠長な時期じゃないのよ」
 ローザは唇をかんでいった。
「天使でも…いろいろいるってこと…ね」
「フロリンなんだかわかりませんが…すっごくおこってますっ!!」
「じゃあフロリンダ、私たちも地上に戻りましょうか」

 ――まだ、戦いは激しくなっていく。




まだまだ書き足したい+消したいところも。攻略本だけでは会話はわからん!!
ストーリー展開も忘れた(汗)。もっと勇者出したいようう〜!考えるか。
1年前にシーヴァスの長編やったときに「天使が姿を現す」ってやったのでここでも。…というかこないだもやったな、姿現すの。
まあ謹慎やりたかったんです。冷たい天界を…再現(爆)。

挿絵

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