第2話:毒蛇―



「できましたあ〜」

 フロリンダは報告書を両手で持ちながらローザの目の前でばさばさ落とした。
「もう、…フロリンダ!書類は丁寧に置きなさい!順番狂ったら大変でしょう!?」
「はいですう〜」
「……。天使様は?…」
 出かけて行く時には、とても意気込んでいた。いつものことだろうが。

「…ロクス様を更生させる〜って?」
「……。こ…?」
「どういうことでしょ〜。なーんかお酒ばっかり飲んでて〜って」
 むーん、と首を傾げるフロリンダにローザはふふっと笑って。
「更生じゃないわよ。フロリンダ…、天使様はいきなりそんなわけもわからない行動に出る方じゃないし、そんなことをしようとも思ってない。…まあたまに…確かに妙な所はあるけれど」

 この二人はインフォスの任務時もエスナを助けてくれていた協力者である。
 天界での数少ない良い友人と言えるだろう。今回の任務でも二人は自分から名乗りを上げたのだから。
 その二人(のうち一人)が「妙な所がある」と述べたのは理由があった。とにかく向こう見ず、なのである。

「(…アレさえなければすぐに上級天使様になれそうなものだけど…。でも、アレがエスナ様の良い所って言えばそうなのよね…)」
「そいえば、たまに見せる顔が〜…て言ってましたよ〜」
「ふふ、…それが気になるんでしょうね」



 昼間、勇者たちのところを行ったり来たりで飛びっぱなしだった。

 ――――あれから、
 勇者候補も何人か見つけ、お願いする事に成功し、少しずつだが、事件も解決出来てきている。

「今日もみなさんお疲れ様ですねー…」
 ある町の外れに翼を下ろすと、大きく伸びをして、翼を隠した。
 人のような格好をして。
「ん。大丈夫…かな」
 店のウィンドーに映った姿を確認して、それから町行く娘たちの姿を見比べて、「うん」と頷く。
 エスナは町の中心に向かって歩き出した。といっても小さい町なので彼女の目的地は直ぐだったのだけれど。



「毒蛇か…勇ましいあだ名だな」
 ロクスはグラスの中の赤い液体をくっと飲み干して興味なさげに言い放つ。
 ふわり、と遅れて液体―――ワインの香りが漂った。
「ああ、お前に会いたいんだと」と、友人は言った。
 この界隈ではロクスは有名人らしく、こんな風に言われることも珍しくない。聖職者が酒場で有名など聞いた事がないが。
「ふうん…」
「行くのか?カードらしいけど」
 正直言うと興味はそれ程ない。何故ってこのテの話は今までも両の手では足りない程あったからだ。
 ロクスは賭け事に特別強いわけでも弱いわけでもない。それなのに有名人、というのはやはり彼の肩書からだった。

 ―――エクレシア教国 次期教皇

 これだけで十分なのだ。
 加えてロクスは容姿も優れている方だ。放っておいても酒場の娘たちが寄ってくる。その娘たちを横取りしようと男たちも寄ってくる――――という妙なサイクルが出来ていた。

 とん、とテーブルに指をついた。
「カードか…おもしろい。行って来よう」
 突然興味が湧いたのか、ロクスはグラスを持ち、立ち上がった。
「ロクス?」
「!!」

 背後から突然呼ばれ、ロクスはグラスを落としそうになった。…まだ、この「突然現れる」事は慣れていないし、こんな人ごみに彼女が来るとは思わなかったから。
「天……。エスナ…」
 自分の格好も酒場には似合わないが、こいつも似合わない――と思った。たとえ、人の姿をしていても。いつものじゃらじゃらとした装飾品は影をひそめ、シンプルな作りのワンピース姿。
 『何も知りません』を貼り付けたような顔の娘。
「で?なんの用ですか、天使様」
 折角、楽しそうなことが始まりそうだったのに。と皮肉めいて。
「ロクスに会いに来たんですよ?」
「それだけか……わかった、じゃあおとなしくしててもらおうか」
「はいっ」



「よう、ロクス」
 酒場の奥を陣取っていた数人の男たち。その中の一人がロクスに声をかけた、どうやら彼が「毒蛇」…らしい。
「僕に何の用だ?毒蛇君」
「会いたかったぜ、ロクス…」
 毒蛇――ヴァイパーは笑って、話を切り出した――。


『今度、賭けがしたい…』
 賭けに勝ったら、借金が帳消しになるほどの金がもらえる。負けても、ロクスからは何も取らない…。
 金と名誉を天秤に。
「ふん、そんなにうまい話があるか」…とかなんとか思いつつ、受けてしまったのだが。

 自暴自棄になっているのか、そうじゃないのか自分でもわからない。
 やつは「大船に乗った気でいろ」と言った。まるで、初めから負けるように。自分を誘い込むように。
 だけど、もう、借金が増えても増えなくても…。と言う気分になっている。

 どうにでもなれ。

「ま、まずやってみないことにはな…」

「お話、なんだったんですか?」
「(こいつ、僕の後ろにぴったりくっついて聞いてなかったか?)」
 まあ、いい。
「よくある話ですよ。…今日はタダ酒だ、飲みましょうか」
「…あの…ヴァイパーって人は?」
「さあ。僕も有名人なんでね。よくああやってふっかけてくるのはよくいる」
「…酒場で有名人」
 うるさい。お前の言いたいことは分かってる。と、思わず横目で睨んでしまう。―――が。

「すごいですね〜」
「!?」
 がく、と肩が滑った。
 顔を見ると、ほー、と感心している顔だ。嫌味じゃないのかと思い、ロクスはため息をついた。
「……」
「そういえばロクス、…こないだも有名でしたね?でもテーブルに乗っかっているのはよくないですよ?あれはお食事を載せる所であって、座る場所ではないので」
 首を傾げると、肩までの髪がさわりと流れた。
「流石の私もそれくらいは分かります」
「は?…テーブル…?」

 聞き直して、はた、と思いだす。ああ、酒場の女たちの囲まれてた時の事か。まあ確かにテーブルに乗っかっていたかも知れない。
 たくさんの薄着の女たちを囲う。
 優しい言葉を囁けば寄ってくる。酒瓶を開ければ「次も!」と甘えた声でどんどん開けてくる。
 彼女らの名前は知っているようで、実はあまり覚えていない。きっと彼女らもそんなものだろう。教皇候補のロクス・ラス・フロレス。
 ただそれだけだ。
 彼女たちはああ見えて頭はいい。だから、その目には僕はバカに映っているだろう。というのも知っている。それでいいのだ。誰とも深く付き合うつもりなどないのだから。

「たくさんの人に囲まれて、お友達ですか?」
「おともだちぃ…?(…感覚、ズレてるな…)」
 ずれているのは感覚だけではない。服装こそは町の娘のようだが、纏う雰囲気、顔つき、仕草。やはり何処かしら人と違う。

「さっきの…ヴァイパーっていう人は…(ホントにただの…賭け?…ってところで賭けってなに?)」
「…?」
 やけに首を傾げている。そんなに珍しいのだろうか。
 とん、
 エスナの前に赤い液体――ワインの入ったグラスが置かれた。
「?」
「さ、どうぞ、天使様」
「……? 私は」
 飲まないといけないのだろう。この場合。仮とはいえ、身体を持っている今なら飲食ができるのだから。…えいっとグラスを手にとって。

「う!? ん」
 両手で口を押える。
「おい…」
「ッ!…あ〜…」
「(!? …なめただけじゃないか)」
 殆ど減っていないグラスと、その顔を交互に見て、「はぁ?」と情けない声が出てしまう。そしてそのままカウンターに突っ伏してしまったエスナを半分呆れたような顔で眺める。
「まあ、そのうち起きるだろう…」
 しかし、何しに来たんだ、この天使は…。

「…いや、今ので酔ったのか?」
 思い返してみる。
「首…傾げてたんじゃなくて…ふらふらしてたのか…?酒場の匂いに…」


 どうせ天使には分からないことなんだから、無理やりについて来なくともいいのに。
 ロクスは何度目かのため息をついた。




…私が一番わけ分からんわですね(爆)。もう、ゲームに引っ張られてます。そして重要なとこを削ってる…。
まあそう全部に入れてしまうとホントにゲームの通りになってしまうから…。うまくたくさんセリフをいれずにできればな〜。
だから難しい!ストーリー追うのは!!しかもエスナがもうお馬鹿だ!

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