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少し嫌な情報を目にしたみたいなやつ。
思いつくままに話を書いてみた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あのね、長義」
とある晩夏の夕刻。
見た目が暑いからと部屋の照明は落とされ、外から差し込む光のみの部屋。
障子の隙間から斜めに降りてくる淡い橙色の光に半分照らされながら審神者は口を開いた。
「――――は? ……あぁ…なるほど」
その続きを聞いたこの本丸の近侍、山姥切長義は顎に手を当てながら。
* * * * * * * * *
このひと月ほど前だった。
「君も大概だな。他本丸の事等、放っておけばいい。……君の知り合いでも友人の事でもないだろうに」
先日、政府施設に赴いた際、他の審神者たちのとある会話を耳に挟んだ、という。
普段、施設内に赴く時は近侍である長義も同行しているが、その時は「さっきの会議室に忘れ物かも!?取って来るね」と十分ほど施設内で別行動をしていたのだった。
数分の出来事、それなのにあまりにも眉をひそめて戻ってきたものだから、この審神者に関わる事や戦の内容かと思い、詳細を聞いたが何のことはない、「他の山姥切長義」の噂話だった。
これ以上はこの審神者の性格上、心身ともに良くないと判断した長義は考えさせないよう、話をそこでやめさせたのだったが…。
「長義の事を言われてたみたいだし」
「だから、それは「俺」ではないよ。ただの同じ名前の者、同位体と言うだけだ。「この俺」が噂をされていたわけではない」
「んー…そうなんだけどさぁ。なんか…かわいそうかな、って」
「かわいそう? は、…人の子とは面倒なものだね。君がそうなのか人が全般そうなのか……」
「……」
「全く…」
少し顔を下げた審神者の頬を指で触れ。
「妙な話を聞いて気分を害しているのだろう?悪い言葉を目にすると君は落ち込むからな。 ……
まぁ、その噂に君が首を突っ込んで騒いで来なかった事は褒めてやろう」
「まぁ…ね、あまり強い言葉好きじゃないし」
「…――――なら」
長義は呆れながらも一呼吸ついて。
「例えば、「政府施設の山姥切長義」が君に護りを与える、と言ったとする」
「え、別に要らないけど…」
「……ああ。 だが君はこの俺からの護りなら喜んで受け取るだろう?……それと同じだよ。いくら俺と同じ名、姿だとしても、別モノだ。……それらがどうなろうが君が心を痛める事はない」
* * * * * * * * *
「(あの話は終わったのではなかったのだな。 まぁ…。そんな簡単な話でもないのか…?)」
「…長義はあの時、もし、政府施設の長義が〜って例を出したじゃん?…他の長義は知らないけど、私の長義なら知ってる」
「………」
「強くて、違う事はそうじゃないってはっきり言ってくれて。…何より、私を一番に考えてくれる、でしょ?……そんな山姥切長義の、護りが欲しいな、って」
「……へぇ」
いつも枕元にあり、眠る時は手にしている角を持つ長細い青い石に金色の縁を持つ装飾品。長義の服の装飾のようだとたいそう気に入っていたようだった。
異形なモノと戦う審神者は夢見が悪くなりがちだと、眠る時は長義の神域の手前に居られるようにした物。
それを膝の上に乗せて。
「…いや……結構、もらってる、けどね」
「そうだな。飾り立てる程には」
だが、審神者から欲しい、と言われた事はそうなかった。
「(なるほど…)」
「…でもこれ、長義との結婚式のやつだし……これに似て、毎日つけられるの欲しいなー、って」
こつん、と目の前の肩に額を乗せて。
「…私も、長義みたいに強くなりたい」
「………。は。 なれもしない事を」
「! えー!そう言う事なんで…」
顔を上げ、目を見ると。
馬鹿にしたような口調とは裏腹に、いつもは挑発的な青い瞳は、今は優しい光を湛え。
「…君が俺のようになる事はないかな。…俺が居るのだからね。 まぁ、人は成長する生き物だ。強くなりたいと思う気持ちは良いとは思うよ。…ただ、無理に自分を消す事はない。君は君なのだから」
「……ん」
「ああは言ったが…、まぁ伝えておいてあげようか。…俺は俺にない考えを持つ貴女を、好ましく思っているんだ。…全く関係のない者の噂話で心配し、心を痛める事ができるのがね」
「へっ…?」
目の前の肩を己に引き寄せて。
「とても愚かで、…実に好ましいよ、全く……」
そしてそれから数日の後。
誓いの石を使った装飾品が胸元に輝くことになるわけだが、
「あぁ、そういえば」
長義はわざとらしく声を上げ。
「付喪神からの護りなど本来、軽々しく受けるものではないよ」
「えー、それ、今更言う…?」
「…何を言っている。俺の話ではない」
「あ〜」
「間抜けな声を出すな。…隠されても文句は言えない、という事だ。…まぁ君は俺からの護りはそういうものだと理解しているだろうが、…他の奴らからは軽々しく受け取るなよ。特に君の所有外の刀剣男士の、だ」
「でも、別に他の男士からはもらう予定ないけど」
「…しっかりして欲しいね。……刀剣男士は人の形さえ取っているが、当然だが中身は人ではない。まぁ流石に俺たちのように契りを交わした相手から引き抜くのは骨が折れるだろうが―――可能性は零ではないんだ」
「うーん……。 ね、長義、私を信用してない?」
「…おや、そう聞こえたか」
「ちょっとねー。私だって審神者7年目?だし、…た、多少は?そういうの理解してきたつもりだけど」
拗ねたように言う審神者に苦笑し、だがはっきりと。
「……では、すれ違いざまに髪や鞄に仕込まれたら?君の意思など関係ないだろう」
「!? は?そんなんありなの!?」
「―――……その者の身に触れ、行動を共にすれば受け取った、となる。 ………まぁ、そう言う可能性もある、という話だ」
「いや、でも、そこまで私を取り込みたいーみたいな男士、そんないるわけない…よね」
「……さぁ?どうかな。零ではないと思うが? 忘れたのか、過去に政府所属刀にちょっかい出されたのは誰だったか」
「! う、 ちょ、ぉぎ。………政府施設行く時…ちゃんとついてきて…。そんなん怖すぎなんだけど」
「あぁ…。やっと理解できたか。流石7年も審神者をしていればその意味が分かるかな」
「……うわ、すっごいそれ嫌味?」
「はは、そう取ってくれて構わないよ。……分かっただろう?所有外の男士も出入りが可能な場所でそうふらふらするものではない、と」
こうすれば、これから妙な噂を耳にする機会も格段に減るだろう。
―――実際は審神者が一人で出歩いても問題はないとされる政府施設だが(だから施設内で別行動することは珍しくないが)、他の噂や刀剣男士に当てられる可能性を考えれば、ずっと共に在った方が良い。
「(まぁ…)」
ちら、と審神者の胸に輝いている青い石と、外套の色を模した銀色の石を見やって。
(…アレに俺の神気は注いであるけどね。 ただ…俺も無意味で無駄な争い事はごめんだからな)」
長義は膝を突き合わせて座る審神者の髪を掬い、肩に、背に手を滑らせてゆっくりと引き寄せた。
特に抵抗もなく自分の身体にいつもの重さが乗ってくる。
それから背からまたゆっくりと髪を辿り、上へと手を撫で上げ。
ブラウスの襟の下。銀色の長めのチェーンを指先で見つけ、指に絡める。
引っ張られて、審神者の胸元でちゃり、と金属と石が擦れる微かな音がした。
長義の背に審神者の手が回り、きゅ、と服を掴んでいる。
「なんだ、怖がらせたか」
「…そりゃ、…ね。 ちょっと」
「…だから、俺の側に居ろと言っている。…君が普段近くに置いている者らは君と全く別のモノなのだからね。 人の姿をとっているから警戒心も薄れるだろうが」
長義は出来るだけ声を落として名を呼んだ。
「…長義に、隠されるならいいんだよ」
「あぁ…」
「でも、他の、……例え長義と同じ名前の男士でも、嫌…」
「…だろうね。…だがまぁ安心すると良い。……ただ最悪の話をしたまで。 …この様な事はただの付喪神刀剣男士と審神者の間柄ならば口にしないが―――」
「……?」
「この先、君は付喪神である俺の妻であり、共に在るのだから、こういった事は知っておいたほうが良いと思ってね」
「だね、そういう事は、…教えておいてくれたほうが良いな、って私も思う。長義ばっかり私を守ってくれるのは、って思うし」
「まぁ、……そもそもこの俺がそんなヘマをすると思うか。ただ、知識としては持っておいても損はないよ」
「ん…」
「(俺の――… 俺の妻へ、その切欠さえも与えてなるものか)」
――――あぁ、君はすぐに心乱すからねぇ。無駄なものをは遮断してやらなければ。
俺の神気の護りが負けて引き抜かれるとは微塵も考えていない。……そうではない、切欠さえも許したくないかな。
俺はこういう刀、らしい。
一人の人の子に執着など、らしくない…と自分を評したが。 ――――いや、その評価は間違っていたのかもしれない。元々、自分のやろうとしている事柄に対して手を出されるのは嫌うタチだったなと。
「…長義」
服に顔を埋めているからか、少し籠った声。
温かい息が、服を通して身体に当たってくる。
「うん?」
「………好き」
小さく言った言葉に当然だと言わんばかりに微笑み。
「あぁ、知っている」
同じ名を持っていても、ただの同位体と言うだけ。この俺とは別物だ。
長義は自分で言った言葉をふと思い出す。
ならこの「好き」だなんだと好意を伝える言葉はどうだ。
「(…俺の妻以外からの好意を伝える言葉など、想像もしたくないな…)」
意識せず、長義の手がほんの少し力を増した。
「ン…? 長義…?」
「! ああ…いや…。……言葉にも当てはまると思っただけだ」
「?…」
「……何度言ってくれても構わないよ、貴女の言葉ならば…」
長義はもう一度その名を呼ぶ。声は息交じりで、甘く。自分に好意を向ける言葉を引き出させるように。
刀の頃には、いや、顕現されてから政府施設にいる頃さえも微塵も感じるはずもなかった、このじわりと身体の内から湧き上がってくる温かさ。
「あぁ、これも良いな」と呟いた。
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過去に政府所属刀に〜はこちら 笑
長義の神域の一歩手前、の話はこちら
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