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Twitterお題 「媚薬を飲まされた」
そんなことするの鶴丸位だろう(笑)。
と言う訳で書きながら考える小説。
なんかちょっと長めになったかもしれない。
――――――――――――――――――――――
「お、―――――これは面白いな!うんうん、味もいいんじゃないか?」
「だろう?異国の茶だ。味も一級品と来たもんだ」
「いや…付喪神に効くのか?」
「人間より耐性はあるだろうから、まぁ、軽いだろうね。多分だけどな」
「多分か!!そいつぁ驚きだな!」
万屋街の裏通り。
そこにゴザを敷いている―――――いかにも怪しげな店。
* * * * *
「茶か……。いや、遠慮しておくよ」
「なんだ、付き合い悪いな」
事務作業終わりの長義はやはり内番終わりの鶴丸に庭先で声を掛けられた。
手には審神者が現世から持ってきたという小さなポット。数時間経っても温度が変わらないし大きさも手ごろだと一部の男士の中で話題になっていた。
「…作り置きより今から淹れた方がいいんでね」
「おお?さっき主が淹れてくれたんだけどなぁ?」
じゃあ俺が飲んじまうか、と鶴丸はきゅぽ、と音をさせながらふたを開けた。
「……。どうぞご勝手に。何故そんなに俺に飲ませたがる? それに、その言い方もそう言えば俺が飲む、と踏んでいるからだろう?」
長い前髪をかき上げ、はぁ、と息をつきながら。
「大体、貴方は妙な事件を持って来たがるんだ。関わりたくないのは当然だろう。―――主にはまた淹れてもらうことにするかな。では、俺はこれで失礼するよ」
ひらひらと手を振り、その場を後にしようとしたところで鶴丸はそのポットの中身をぐび、と一口飲んだ。
「お! …おーい!主」
「? あれ鶴丸。―――と、長義も一緒?」
そこで濡れ縁を歩いてきた審神者。どうもタイミングが悪いというか何と言うか。
「(全く、間が悪いね…)」
これではどう足掻いても飲まなければならなくなる。
正直言って鶴丸が用意した(審神者が淹れたらしいが)茶など身体に入れたくない。
主とこの仲になってからこちら、どうも鶴丸に遊ばれている気がするのだ。
「(まだ被害が俺だけで済めばいいけどね…。先日の結界部屋のようになっても面倒だ…)」
眉間にしわが寄っていく長義を鶴丸はどんな顔で見ていたか。
「(よしよし)」
などと笑っていたかもしれない。
「いやぁ、今日は暑いな! 鶴さん、この通り真っ白だから日差しに焼けそうでな。きみも傘さして外出るような時期だろ」
「だねー、まだ春先なのにねー。やんなっちゃうよ。長義はどう?」
「いや…、この程度でまだ暑いとは――――」
「(ニヤリ)」
「あ、お茶飲んだ? 暑いかなーって思って冷えたの用意してあったんだけど」
「……ッ」
「なんか自慢の茶葉らしいよ。燭台切に淹れ方教えてもらったから美味しいんじゃないかな。私も後でもらおうかなって」
「君も? ああ…わかった。なら、頂くよ」
―――そうだ。主が手に出来る様にしてあるのならば、妙な物ではないだろう。少なくとも、人には影響がない茶だ。
では男士に影響がある代物なのだろうか。まぁ、だとしても流石に死にはしないだろう。
鶴丸も飲んでいるようだし、厨にあるのならば恐らく他の男士も口にする機会がある。
……何かあっても、体調が多少おかしくなる程度だろう。
「(…覚えていろよ。鶴丸国永)」
もう「何かある」事が長義の中で確定らしい。
ポットのふた――ひっくり返せばコップになるそれになみなみ注がれたお茶。
それを一気に。
微かに甘ささえ感じる。追ってくる微かな渋み。確かにうまい茶だと思ったのが第一印象。香りも悪くない。
「……(ん、考え過ぎ、か?)」
―――――どくん。
「…ッ!?」
胸が跳ねた。
頭が誰かの手によって強制的に動かされているような気持ち悪さ。
身体の下から、かあっと何かが駆け上がって行くような…。
「は…?」
「え、長義?」
体勢を崩さない事には成功したが、少し、本当に少しばかり俯き、足を引きずったのを審神者は目敏く見つけてしまったようだ。
「どうしたの?」
靴を履くのも忘れて庭に降り、長義に駆け寄る。
その足元だけ、スカートだけ見えた。
視線を上げて、一瞬顔が見えたところで。
「!? ―――〜ッ! だめだ、主」
それしか言えなかった。
「え? でも、あ…ちょっと!顔真っ赤じゃない!? 鶴丸!冷やすものをもらってきて!あと長義の部屋の布団…!」
「お、わかったぜ」
「もしかして熱中症、とか…?どうしよう、札…?手入れで何とかなる…?薬研呼んできた方がいいよね。とりあえず部屋に行こ?」
手を貸そうと手を伸ばす―――のを掌を向けて阻止した「近寄るな」と。
「長義…?」
「鶴丸!少し待て…。 主、君は厨に行って氷を取ってきてくれるかな。何、鶴丸が行ったのでは燭台切がすぐに氷を出すとは思えないんでね…」
目を合わせないように、それだけ言って。
「……ッ は…」
だが、それから目を上げて。
「は……。 主。政府刀には、時折あるんだよ。俺は主に顕現された刀ではないからね。――――まぁ…」
「え、長義…」
「心配はいらない。…大丈夫だよ。主。すぐに戻る。 ああ、政府への連絡はいらないよ」
顔にかかる髪が、こんなにも邪魔に感じた事などなかった。それくらい、身体の反応がおかしくなっている。くしゃり、と前髪をかき上げた。
「っ…」
「主、暫く俺の部屋には来るな…。何、大丈夫…」
「……鶴丸…貴方は俺に何を飲ませた…ッ」
襟元を緩め、問う。
審神者が厨に走って行った頃には、長義は一人で歩くのもやっとな程不調を感じていた。
身体の中は熱を帯び、湯気が出ているのではないかと思う位、顔が熱い。
「いやぁ…そこまでだとは思わんでなぁ。ははは」
「…笑い事か。おい…主には、…人の子には感染しないだろうな?」
「しないしない、その辺りは大丈夫だ」
ひらひらと手を振りながら鶴丸は長義に肩を貸し、部屋に向っていた。
「くそ……体調が戻ったら…覚悟しておけよ…」
「お、怖いねえ」
自分の物を触られたくない長義だ。
部屋に戻るとのろのろと布団を敷き、崩れるように横になる。
鶴丸は部屋に入らず、障子を開けたまま廊下に胡坐をかいた。
「…ち…。早く居なくなってくれないかな…っ」
「………。あちゃー…そんなに辛いのか。そりゃ悪い事をしたな…」
青い瞳がいつもより光を帯びている。それにいつも身体の不調など出さないのに肩を素直に借りたり、横になっているあたり、相当辛いのだろうとここにきてようやく事態を把握した鶴丸国永。
「いやぁ……そこまで、とは聞とらんでな。せいぜい顔が真っ赤になる程度だ〜…とか何とか」
がしがし、と頭を掻き。
「は?…貴方が原因だろうが…主が淹れた茶に妙なものを盛ったんだろう…?」
「いやいや、…あの茶な。媚薬だ。結構軽いらしいんだけどなぁ。 ―――主を見てられないんだろ?」
はははーと笑いながら言った鶴丸。
「ッ!?? なん だと…っ」
* * * * *
「え、長義に会えない…?!そんなに悪いなら手入れ必要なんじゃないの!?」
「いやー、大丈夫だ大将。俺がしっかり面倒見てやるし、刀剣男士同士じゃないとできん事もある」
「ああ…長義の事は任せておけ。あんたは審神者部屋で待っていてくれ。本科もそれを望んでいるんだ」
長義の部屋の前、何故か薬研藤四郎と山姥切国広。
桶いっぱいの氷を薬研は受け取ると絶対入るな、と念を押された審神者。
「…え……でも…」
最後に見た瞳。
揺れていた。いつも体調不良など表に出さない長義が、だ。
「……。あぁ…すぐに呼んでね…何かあったら…」
「ああ」
「…説明書きから察するに薬の効果は…多分今晩くらいまでだな。全く、妙なものを仕入れてきたな鶴丸は。 はは、媚薬、と来たか…。万屋街にもけったいなもん売ってんなぁ」
薬研はどっかりと腰を下ろし、氷枕を長義に差し出した。
「…主は、部屋の外 か」
「どうする?遠ざけるか?」
「……いや…説明も面倒だろうから…いい」
「少し眠ったらどうだ…」
「はぁ……」
眠ろうと努力はしている。が、どうにも身体の熱が引かないのだ。意識しないようにすればするほど…。
あと数時間、これと戦うのかと思うと、とため息をつく。
「…主には適当に胡麻化してしまったが……まぁ、後で説明はするよ…詳しい事は伏せるけどね…」
「今、言ってやったらどうだ」
「馬鹿を言うな、言えるものか。…あの茶は主が淹れたものだ。責任を感じるのは当然。…それに…俺がこうなった事で鶴丸と喧嘩でもしかねない」
額に手を当て、天井を眺める。
「(…全く…やられたな…)」
最後に見た瞳。栗色の瞳が揺れていた。
「………はぁ…っ」
「………もう、いい。あとは…出て行ってくれないかな…一人にしてくれ……」
それから目を閉じて。
眠れなくとも眠る努力を始めたのだろうと、二振りは静かに部屋を後にした。
部屋の前で待っている審神者を半ば引きずるようにして。
* * * * *
――――名を呼ぶ声が聞こえる。
ああ、近付くなと言ってあるだろう。
なんという失態だ。
こんな事などあってはならなかった。
「……主」
ゆっくり瞼を開くとそう変わらない光景。ただ、陽は完全に落ちたようで微かな明かりに照らされる藍色に染まった天井が見えた。
熱は嘘のように消え、その代わりに氷枕はぬるくなっていた。
「はぁっ。戻った、か……。やれやれ…。 ――――来るなと言ってあっただろう…。君は言う事を聞かないね…全く」
布団の隅。「触れないように」と言われていたのだろうか。長義の身体には触れない位置で審神者が転がっていた。冷えを感じたのか、長義の内番着の上着を羽織っている。
恐らく薬研がもう大丈夫、だと判断して部屋に入れたのだろう。
審神者を視界に入れてもあの異様な熱は感じない事を確認してから、起こすようにその肩に軽く触れた。
「主…」
「ん…ぅ……。 あ 起きた…長義…」
「それはこちらの台詞かな」
いつもの声だ、と泣き笑いの様な顔で審神者は腕を伸ばして、それからはた、と止まる。「触れるな」と言われていた、と。
妙な位置で彷徨う腕に長義は苦笑しながら、少し手を広げた。それが合図になって彷徨っていた腕は長義の身体へと回される。
「…よかった、もう大丈夫?政府刀がそんなだって知らなくて…」
「! ………。ああ…。…いや。すまないね。あれは出まかせだ。…君との霊力合わせは済んでいるし、俺の所有権も問題ないだろう?少なくとも審神者と刀剣男士、としての間では問題はないよ」
「じゃあ、なんで?」
「まぁ、少し、熱にやられてしまったみたいでね」
「え…。もう。それならそうだって言ってくれれば…」
「…君にうつしては困るだろう? ……だがまぁ、もうこんな事はないから安心してくれていい」
「………」
真相を聞きたい顔、だ。
だけども
「長義が…大丈夫なら、いいや…。確かに、熱ももうないみたいだし…」
はっきりと「もうない」と断言しても真相を話さないのは多分、聞くべき事ではないのだろう、と。
「もし、話せる時が来たら話してくれたら嬉しいかな…。でも長義が嫌なら聞かないよ。 …薬研ももう大丈夫、って言ってたし…」
「ああ、助かるよ」
「主」
「…なに?」
「………。何より、君を傷つけなくて良かった……そんな…扱いはしたくないからね…」
聞こえるか聞こえないかの小さな声で、髪に顔を埋めながら。
薬の力で―――、などと、考えただけで気分が悪い。
「長義…?」
「……何でもないよ…。…ただ、俺も大概だな、と思っただけ…かな」
居るだろう、
薬の力をそのまま自分の行動にして、溺れてしまう者が。
薬の所為にして、行動に及ぶ者が。
もしかしたら誘惑に負ける者の方が多いかもしれない。
「……」
「長義」
「うん?」
「もう、触っていい んだよね?」
「ああ…」
苦笑気味に答えると、頬と頬と付け、再度、肩にぎゅ、と腕を回してきた。
「…ありがと……よく、分かんないけど…。なんかね、守ってくれたのかな、って思った」
「! ……はは……どうかな…」
――――刀剣男士は――
昼間の鶴丸の言葉だ。
「いや、茶の効果は軽いって話だったんだ。これはホントだぜ?淹れた者へ対する想いの深さに依るそうだ。
…それに、刀剣男士は人の腹から生まれたんじゃあない。想いやらから生まれた付喪神、……その想いに振り回されるって事もないだろうってな」
「…へぇ…? では何か?俺は振り回されている、とでも…?」
布団に横になったままギロリ、と目線だけ渡す。
「現に俺は飲んでもなんともなかったろ?俺にとって主は主だからな。大切には思ってはいるが」
「……ち」
「まぁ、……いいさ。さぁて、良いもんが見れたな」
「ぶった斬る…」
「まあまあ怖い顔しなさんなって。――――お前さん、俺らの主とどうこうなりたい、したいわけだよな? で、想いが強すぎてこうなっちまった。…ま、ちょいと行き過ぎにも感じるけどなぁ」
「…どうこうなどと、そんな言い方はやめてくれ。 何が言いたい……?」
言う事を聞かない身体を引きずりながらも今にも刀を手にしそうな長義にひらひら手を振り。
「あの冷ややかな監査官殿がなぁ、いやはや面白いものを見せてもらった!なかなかの驚きだったぜ」
「………おい…! こちらはそれどころではないのだけど…」
「山姥切長義」
懐から扇子を取り出して、ぱし、と向ける。
黄金色の瞳は太陽のようにぎらり、と光を宿した。
「人の子は命が短い。生きてて百年。…主に至ってはもう残された時間は数十年だ。―――だが俺らはどうだ?」
「………」
「俺らは何度も主が変わった。それが何故!今更!この主なんだ?この刀剣男士の状態でも次の主があるかもしれない。俺は折角自由に動ける身体を持って顕現したんだからもっと驚きを求めたいしな?
今の主の生が尽きても顕現を解かれる気はさらさらないんでね。ああ、これは主にも言ってあるぜ。主は「好きにしていいよー」だそうだ」
「…この俺の主は…彼女で最後だ…」
「へえ!そいつぁまた、主と共に折れるのか?」
「……ッ。待て、…何故貴方に話してやらなければならないのかな…?」
折れるつもりなどない。
主―――彼女とは「神域に連れていくと約束」をしている。
神隠しだなんだと言われても、彼女から廻り続く筈だろう輪廻の先を無くしても、その手を放すつもりはない。俺にとって、「俺と出会わない主」などどうでもいいのだから。
これは山姥切長義という刀の、俺の正史だ。
……だがそれは彼女以外の誰にも言うつもりはないし、言う必要もないと思っている。
――――ああ、邪魔をされたくないんでね。
「シラフでは話してくれんだろ? それに今の長義は主の事で頭がいっぱいだろうからな、本音が聞ける」
「………全く…ッ。ああ…残念だけど何も話す気はないよ。 さぁ、…出て行ってくれ」
「…ちぇ、結局大したことは聞き出せなかったか。だけど、まぁ…。大事にしてるんだろうなぁ。あれは主と刀、じゃないって事か。確かになぁ」
ははは、と軽く笑い。頭の上で腕を組みながら、鶴丸はくるりと回った。
「いやぁ…、結構面白かったな」
―――…ああ、貴方こそ、そこまで想いを注げる相手に出会えてないとは。…不憫だね。
顔を辛そうにゆがめながらも、青い瞳にははっきりと強い光を宿し。
口元に笑みを浮かべながらそう言った顔。
「…お、言うねえ」