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刀剣乱舞 山姥切長義

バレンタインなので。

うちの長義は甘いの好きでも…まぁ嫌いでもない感じ。


――――――――――――――――――――――

 主が生まれた時代はとにかく自分たちの都合のいいように歴史の一部を拝借して解釈して、さまざまな催し物にしている――――と感じた。
 まぁ、どの時代もそうなのだけども。ただ、その幅が広い、と。
「…長義」
「何かな、偽物くん」

「…お前も、主に菓子を渡すのか?」
「はぁ?」


 わかっている。
 厨は騒々しいし、燭台切と長谷部がやたらと張り切っているのはもう見飽きたほどだ。
「大体、そういった日ではなかっただろう。俺は違うと見たけどね」
 組んだ腕。指をとんとん、と動かす。
「……。分っているだろうに。主の――」
「ああ、随分自由な時代だからね。国や文化が違えど関係ない。菓子がなんとか、なんて菓子会社の策だろう。…全くうまくやるね」
 腕を解き、背を預けていた柱から離れた。

「どこか行くのか」
「近侍の仕事だよ。偽物くんも遊んでいないで手伝ってやってくれ」
「ああ。…資料は部屋に置いてあるから、俺の分は部屋でやる」
「頼んだよ」




「ねー、長義はチョコいらない?」
 障子を開けるとすぐさまそんな言葉が飛んでくる。
「………。ああ」
 甘いものがそこまで好きではない。男の身体という事もあるだろうがこの山姥切長義、という刀剣男士の好みはこうだった。
「なんだ、君もか。毎年毎年飽きないね」
「うんんーいらないと思って普通のチョコは用意してないし」
「……まぁ、いいんじゃないかな。受け取る側が楽しめなければ。ね」
 だが、そのあとこう続いた。
「おせんべいとか、そういうお菓子ならあるよ。みんなが食べられるやつたくさん買ってあるから、まぁ、バレンタインっていえばそれが私からかなー」
「………」
 ふ、と、思わず口角が上がった。
 こういうところ、だ。それが好ましいと。
「広間に置いとくから、長義もあとでもらって」
「…ああ」
「ね、でもなんでチョコなんだと思う?おにぎりとかでもよくない?」
「菓子会社の誘導だろう。チョコレート菓子は保存がきくし、甘い物、という事で……―――まぁ、そんな所かな」
 長義は何かを言い掛けてやめる。審神者に聞かせたくないように。
「だよねー陰謀だよね」
 だがそれに審神者は気が付かなかったようで。
「ああ、いい。仕事を始めるぞ」






「よし、あとは偽物くん待ちだな」
「終わった頃、国広んとこに取り行きながら国広連れて広間でお菓子食べよー」
「ああ」
 この時間のいつもの事。
 んー、と、伸びをしながら審神者は長義の背に寄りかかった。
 長義はそれを受け入れてやりながら書類を揃え、端末を机に置く。

「ねー、長義…あのさぁ…」
 背中がふわりと温かい。こう密着しているからか、喋りながらほんの少し身体が動いているのがわかる。
 これは少し言葉を選んでいる時の喋り方だと長義は感じる。
「何かな」
 だがそれは指摘せずに。
「…去年かな、前も言ったよね、元々こういうイベントじゃないんだよねーって」
「ああ。聖人の日、なのだろう?」
「そ。……まぁ、私、見てきたわけじゃないけど」
「……。そうだな」
「戦争に出なきゃいけない男の人と、それを待ってる女の人と、って話」
「………へえ。似ている、とでも言いたいのか?」
 そこで背の温もりと重さが消えたから、長義は少し首を回した。


「――っ、と」
 今度は胸が温かい。
 肩に腕が回され、目の前には黒色の髪が広がっていた。
「どうした」
「似てない、よね」
「………そうだな、似ても似つかないよ。俺たちは―――俺は必ずここに帰って来るし、君を置いてどこかに消えたりもしない」
「うん」
「なんだ、そんな事を心配していたのか?」
 頭を、背を撫で、軽く腕を回す。
「んー……」
「俺たちは人と違う。身体の傷は人の子のそれとは違うのは君もわかっているだろうに。―――まぁ、それも君なのだろう」
「長義」
「うん?」
「私の刀。ずっと傍にいて」
「ああ、分かっている。当然かな」



「そろそろ…終わったかな、国広」
「……うん? ああ―――だろうね。では行くとするか」
 長義は壁の時計を確認して無意識に廊下の方へ視線を渡した。
「あ、ちょっと……待って…くれる?」
 腕を緩めた長義に、そのシャツの袖をつかんだ。


 暖かく編まれたカーディガンのポケットから小さな箱を取り出す。
「ええとねえ……、いらないかなーって思ったんだけど」
「……」
「ちょっと苦いやつだから、大丈夫かなって」
「なるほど?」
「あの…。これしかないからさ、今ここで食べちゃって欲しいんだけど」
 シャツの袖から長義の手に指を置いて。その箱を置く。
 開けると真っ黒な小さなチョコレートが2つ、入っていた。
「まぁ、確かに得手ではないけども、そういう事なら頂こうか。口にしたくない訳ではないからね」
「よかった」
「…しかし随分と黒いね」
「うん、砂糖少なめのやつー」
「へぇ…。そういったものもあるのか」
 長義はその箱から取り出そうとして……、箱を審神者の手に戻した。
 それから目の前の頬を、耳から髪を撫で上げ。

「あ」
「あ?  ……は?」
「俺の手は今ふさがっているからね」
「食べさせろ、と?」
 その言葉に口角が上げる長義に、「もう」と審神者は息をつく。
「はーい、じゃああーん」


「甘い物、なんて……こうするための口実だよ、多分ね」


「ッ!???」
 指に神経が集中する。
 水分を帯びた生温かい感覚と、柔らかいものに包まれる。舌は指を絡め、それから遅れて微かに当たる固いものは――――
「はァっ!??? ちょ、長義っ…!??」
「―――なるほど、確かにこれはいいな」

 今度は指先が冬の空気に触れてひやりとする。
 それは今まで濡れていたからで。

「もう、ゆ、指ごとっ!?」
「おや、君が俺の口に突っ込んできたんだろう?俺はそれを頂いたまでだ」
「!??」
 耳まで真っ赤に染める審神者にくっく、と面白そうに笑いながら長義は箱にもう1つ残っている菓子をつまみ上げ、口に放った。

「では―――」


「ん………ッ」
 今度は、唇に当たる柔らかさと。割って入ってきたのは少し苦めのチョコレート。
 それからそれを押し込めるようにぬるりとした感触。

「―――――ッ!?  っ、く  ふ !  ン!」

 逃さないように後頭部をしっかりと押さえられ、
 体温がおかしいくらいに上がって、身体の力が抜けた頃、口の中のチョコレートも溶けて流れていった。

「は…… ……ちょ、 ぉ……ぎぃ…」
 どうにも動けない。肩口に額を押し付けまだ口の中に残る甘さと……
「…はい、ごちそうさま。良かったよ」
「……ぅ」



「も、少し……ここ、いていい…?」
「ああ、……それがいいね。どうぞ」

 不安を消してやるのにこんな事しかできないのか、と、長義は思う。
 ――――が、全く失敗したわけでもない。先程とは違う表情。きっと頭の中は俺の事だけだろうと思えば……悪い気はしない。
 互いを想うのは決して甘い出来事ばかりではない、と、それは重々理解している。だけども。
「ちょう、ぎ」
「なんだ?」
「………なんか、あのね。  うん、 ……ありがと…」
「…ああ」





「んー……」
「おや、まだ顔が赤いな」
「…じゃ、もうちょい……ここ、居る…」

 こんな顔で外に出られるものか、と。
 互いにそう思ったとかなんとか。



流石考えながら書く小説、着地どころが見当たらない(笑)。

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