『夕焼け』 「夕焼けか・・・」 窓の外に目をやると、辺り一面が、真っ赤に染まっていた。 『見てください、ロクス!すごいですよ!』 声が聞こえてきそうで、思わず苦笑する。 (そんなにすごいものには見えないぞ) 心の中で、答えておいて、再び窓の外に視線を移した。 がんばれと、心のそこからは言うことはできなかった。 彼女が笑っていることを望んではいたけれど、遠い場所にいってしまうことはこれっぽっちものぞんでなんて、いなかったから。 だけど、自分に幸せにする自信はなかったし、なにかを捨ててなんて、ほしくなかった。 すべてを手放して、手にいれる幸せなんて、たかがしれている。 それに、自分のそばにいるということも、彼女にとってはたかがしれているのかもしれない。 天竜が去ったあの真っ青な空に、彼女も上っていった。 ゆっくり、ゆっくりと何度も振りかえりながら。 それに、なんでもないようなふりをして手を振ることしかできなかった。 「そばにいたかった」 夕焼けにならいえるのに、彼女には言えなかった。 「そばにいてほしかったんだ」 今さら、この言葉をつぶやいたところで、空気の足しにもなりはしない。 きれいだと一度言えば、きれいな夕焼けができるたびに、彼女は来た。 『見てください、ロクス!すごいですよ!』 きれいだと言ったのは、決して夕焼けにじゃない。 君の笑顔が好きだったから。 それに、夕焼けが映えてみえたから。 「エ・・・」 名前を呼ぶ権利は、もう自分にはない。 そう、言い聞かせでもしないと、どこかへ彼女を探しに行きたくなる。 もう、自分がきれいだと夕焼けを見て思っても、彼女はこない。 名前を呼んでも、意味がない。 「こんなにも、今日はきれいなのにな」 一人で見ても、たいして心には響いてこない。 うっとうしい雨も、暑い陽射しも、すべてが色を持っていたのに。あのときは。 「だから、教えにきたんですけど・・・ロクスも気がついてたんですね」 その声に、あわてて振りかえる。 当然のように、笑って窓の外を指さす。 「きれいですよね!見てください!」 「エスナ!!」 忘れたように、ずっとつぶやくことをしなかった名前は、魔法のように溶けていく。 あの空のように、赤くなった頬は、だけど自分には見えない。 抱きしめたら、すっぽりと自分の中におさまってしまったから。 幻でもいい、なんて思わない。 彼女以外の何も、彼女じゃないから。 「聞き忘れたことがあったから。でも、聞かないままで決めちゃいました」 「なんだ?」 「そばにいたいんです。いてもいいですか?」 行き場をなくした想いは、だけどやっぱりここにしかなくて。 「もう決めたんだろ?エスナ」 |
決めました(笑)。 ロクスの心情がすごくいいですよね〜♪ 全てを手放しても得られる幸せもあるのですよ!もう!!名前を呼ぶ権利もない…とか。ああ〜〜。 押しが強いエスナに乾杯。 BACK |