『神様の祝日』


「ロクスー、次の任務のお願いにきま・・・」
そこまで言ったものの、ひらひらと目の前で手を振られてエスナは言葉を中断させるしかなかった。
「ロクス?」
「悪いが、僕は休みだ」
「・・・はい」
優雅に断られて、一瞬、ああ、休みか、とか思ってしまったし。
「って、そうじゃないです!お願いします!」
「何度言ってもだめだぞ。僕は休みだ」
「・・・一体、なんの休みだって言うんですか?」
「天使様はゴールデンウィークもないのか?」
「ゴールデンウィーク?」
黄金の一週間?知らない単語を言われて、エスナはそのままかえした。
「僕は祝日はきっちり休む主義だからな。とくに連休は。残業はしないぞ」
「残業って・・・。ロクスがちゃんと遊ばないで任務にむかってくれてたら、もうとっくに解決してる事件なんです!」
「だから、残業はしないと言っただろ?他にいけ・・・いや、まてよ」
目に涙をためて自分に任務を頼んでいる天使を見て、ロクスはにっと笑った。
いやな予感がして、エスナは一歩後ずさったけれど、がっちりと手を握られていた。
「エスナも休日くらいしっかり休んだほうがいいぞ」
「わ、私に堕落しろと・・・?」
「君は、僕が堕落していると言いたいわけか?」
笑顔がひきつってるし。
「ち、違います!ロクスは文句ばっかりで、口より手を動かしてほしいなぁとか、他の勇者は文句を言わないでくれるのになぁとか、お酒とギャンブルは頼まなくてもするのになんで任務は文句いうのかなぁ、なんて思ってなんかいません!」
「ほぉー、なるほど」
よけいに笑顔をひきつらせて、ロクスがぽんぽんとエスナの頭をたたいた。
「そこまで言われて黙っていられるほど、僕はお人よしじゃないぞ」
「だから思っていませんってばー」
ひきづられるようにして、ロクスに手をひかれながら、エスナは必死にうったえた。

「ここは・・・?」
「君の好きな雪がたくさんあるだろ?休み中は仕事を禁止するからな。しっかり遊べ」
「遊べって、ロクス・・・私は他にも」
「仕事の話はするな」
ばふ、と言葉の途中で雪の塊をぶつけられる。まっしろになってエスナは笑った。
「やりすぎて壊れたか?」
ロクスのつぶやきは雪の中に消えた。エスナが手にした雪をぶつけてきたから。
「・・・エスナ」
「ロクスが先にやったんですよ!」
言葉の最中にも雪は飛んできたが、そうそうあたるものでもない。どこにめがけて投げているのか、というほど的はずれなものだった。
最初のは、奇跡だったのかもしれない。
散々二人でまっしろになりながら、暗くなるまで雪とお互いとじゃれていた。

「僕はこんな幼稚な遊びをしたいんじゃないぞ」
「ロクスがはじめたんじゃないですか」
疲れてお互いの背にもたれながら座り込み、息をついた。はいた息は白くなるほどあたりは寒いが、背中のぬくもりがあたたかい。
「ゴールデンウィークって楽しいですね!」
「ふん」
「ありがとう、ロクス・・・」
「休みに遊んだだけだ。君に礼を言われることじゃないぞ」
「でも、遊んでくれました・・・」
こうやって誰かと遊びたかったのかもしれない。
それを願ったのは幼いころの自分なのか、それとも今もなのか。
ふと、手にもぬくもりを感じる。ロクスが手を握ってきたことに驚いて、エスナは後ろのロクスを見た。知らぬ顔で、目をつぶっているロクスに、エスナは笑って、もたれた。
つないだ手から、優しい力が流れ込む。
ロクスが癒しの力を使わなくても、いつだってロクスは癒してくれている。
知ってたのかな?この人は。
ずいぶんいそがしい日々が続いて、なんだかわけがわからなくなってきてたこと。
考える時間もないのに、時間はどんどん進んでいって、立ち止まれなくて。
ため息をつく暇さえ与えられず、動く意味もわからずただ、動く。
そんな自分に息をつかせようと、してくれたんですか?
「ロクス・・・」
「なんだ?」
聞いたって、どうせこの人はとぼけるんだから。
だから、言葉の代わりに、エスナは握る手に力をこめて、反対の手で、雪を空に舞い上がらせた。
きらきらと、二人の上に降り注ぐ雪は、きっと空から降ってきたものよりも白くて、きれいだから。




さやさん、私の雪好きをわかっていらっしゃる。はあ…早く冬にならんかな(おい)。
私が前にやったミニキャラ企画の絵がちょっと入ってるんですよ。

エスナの独り言がステキです。
面倒見がいいロクスがなんだかんだいってらしいです(笑)。
旗日は休む。残業はしない………。彼はきっと『家庭に仕事は持ち込まない主義』ですね。


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