PRAT TIME

「……ったく! うるせえな、返すもんは返すって言ってんだろ? これ以上、がたがた抜かすな!」
「そう言って前も返さなかったじゃねぇか!!今日のところはひきさがれねぇ!」
「んな小さいことにこだわるな!・・・ん?エスナ?」
 急に宙を見上げて語りかけたロクスに借金の返済をせまりにきた人物はあっけにとられたようだった。
 そこにはなにもいない。
 なのに、さらに機嫌を悪くした顔でロクスはそこに向かって話しかける。
「お前までうるさいぞ!ちょっとまってろ!」
「お、おいロクス・・・?」
「だからうるさい!僕の借金がどうなろうとお前には関係ないだろう!ちょっと浮いてろ!」
「・・・」
「で、なんだった?」
 空中にどなっていたロクスがようやくふりむいたときには少し気味の悪い視線をむけられていた。
「?どうした?」
「い、いやなんでもねぇよ。お前も大変みたいだしもうちょっと待つぜ?あ、無理はしなくていい、またくるからよ」
 そう早口にまくしたてて、逃げるように帰っていってしまった。
 途中でふりかえって哀れみの視線までむけ、小さく手もふってくれる。
「?一体どうしたんだ?」
「きっとロクスがあんまりおどかすからびっくりしちゃったんですよ」
 ひょいと地上に足をつけてエスナが借金とりの逃げていったほうに視線をむける。
「そんなかわいい連中なら僕はこんなに苦労してないよ」
 だが、なにがなんだかわからなくても助かった。
 それにしても今日の押しはいつもに比べて強かった。そろそろちょっとでも返したほうがいいか、と一瞬思う。
「それにしても、まだ借金返してないんですか?」
「だからうるさいな・・・。僕だって好きで借金してるわけじゃない」
 まぁここまでくると、趣味のようなものになってしまったけれど。
「どうにかして返さないといけないですね。どうしましょうか?」
 だからどうしましょうか?で借金が返せればとっくに返しているというのに。
「で?なんのようだったんだ?」
「あ、はい・・・。ちょっと任務・・・を・・・」
 どんどん声が小さくなっていく。ロクスの視線が痛い。
「僕は借金を返すための労働時間がないのはお前のせいだと思うが?」
 そんなわけないけど。時間があればきっと借金は増えていくだけだろう。
「わ、私のせいですか?」
「違うのか?それあっちいけ、こっちいけと言われて僕に自由な時間があるとでも?」
「う〜、それは・・・そうだ!」
 なにかを思いついたようにエスナの顔が輝く。それと同時にロクスの顔がひきつった。
「働きましょう!ロクス!私も協力しますから!」
「・・・は?」
「働いてお金をかえすんですよ!」
「・・・任務は?」
「他の勇者に頼んできます!」
「お、おいエスナ?!」
 呼びとめる間もなく、天使は空に浮かんでしまった。
「ということは・・・」
 いつも適当に任務に行く勇者を決めていたのか。
 どうにも自分に回ってくる番が多いような気がするのだが。

「いらっしゃいませー!」
「・・・」
「コーヒーお願いしまーす!」
「・・・」
「ロクス?だめですよ?そんなにぶきっちょ面していたらお客さんがびっくりしてしまいます」
 人の姿になって、働く天使がそう声をかけてくる。
 この状況で笑えというのか?と聞けばそうだと答えるだろう。
「僕のこの顔はうまれつきだ」
「それはそうですけど・・・」
「お前に僕の顔をとやかく言われたくない」
「ロクスが言い出したんじゃないですか」
 短期のバイトでこの街にあるのは喫茶店のウェイトレス&ウェイターしかなかった。
 
 エスナいわく。
「誠意です!誠意!とにかく返す意思があることを見せなくちゃ!」
 だった。というわけで一日だけのバイト。二人合わしても借金の額に比べればスズメの涙ほどだが、一般的な額で言えば悪くはない。

「いらっしゃいませ!」
「・・・もうお前が忙しいといっても僕は信用しないぞ?」
「え?なんでですか?ロクス?」
「こんなバイトしてる暇がよくあるなと言ってるんだよ、僕は」
「暇じゃないです!でもロクスのための時間だったら私・・・は・・・」
 そこまで言ってしまったと顔に書いてあった。
 そんなエスナを見ていると、どうにも心がなごんでしまうらしい。
 いつのまにかぶきっちょ面は笑顔に変わってしまっていた。
「ふん・・・仕方ない、今日一日くらいお前につきあってやるよ」
「ありがとうございます!・・・って違いますよ!私がロクスにつきあってるんです!」
 そう言ったエスナの頭を、ロクスは笑ってかき乱した。

「なんだ?ロクスか?昨日の今日でどうした?」
 いつもの借金取りが酒場にいると聞いて、ロクスはエスナとともに来ていた。
 
 エスナいわく。
「今日働いた分だけでも返しましょう!持ってたらロクス使ってしまいますから!」
 …だった。なかなか確かな目を持っている。

「いや、金を返そうと思ってな。まだまだだこれだけしかないが」
 そんなロクスの顔をまじまじと借金取りは眺めた。
 そんなことをロクスが言うなんて。
 やっぱり昨日彼が見ていた幻覚になにかあるのだろうか、と頭をよぎる。
「す、すまねぇな・・・。でもどうしたんだよ?この金、結構あるじゃねぇか?」
「ふん、ちょっとな」
 そう言って斜め上を見上げて笑う。そこになにかが見えているように。
 思わず借金取りは身震いをしてしまった。
 自分が借金を返せ返せとせまるからおかしくなってしまったのだろうか?よく考えれば、普通の人なら絶えれないほと何度も言ったような気がする。
 ロクスも普通の神経を持っていたということか。
「確かにこれは受け取ったぜ」
そう言ってもらった金をロクスにつきかえした。
「?なんだ?」
「この金は俺のものになったが今日はお前におごってやるよ。これで飲んでいやなことなんて忘れちまえ。なぁに、借金は、まってやる。だから早まるんじゃねぇぞ?若いんだからな」
「?どういうことだ?」
「いいから、いいから」
 そう言ってさっさとまた飲み始めてしまう。
 
 酒場からでていきロクスはまだ首をひねっていた。
「何言ってたんだ?あいつ・・・」
「きっとロクスの誠意が伝わったんですよ!」
 満面の笑顔で斜め上に浮かんでいるエスナが声をかける。
「”僕”の誠意ね・・・」
 エスナの誠意の間違いじゃないのか。
「よかったですね!ロクス」
「そうだな・・・。ま、今日はおごってやるよエスナ。一緒に飯でも食いに行こう」
「わ〜!いいんですか?」
「あぁ、お前が働いてもらって金だ。僕はかまわない」
 ひさしぶりに楽しかったし。
 と、心の中でつぶやく。
 任務以外で彼女といれるのは、はっきりいって気分がよかった。
 天使でも勇者でもないのだから。
「何食べましょうか?」
 今にも走り出しそうなエスナの頭をぽんとたたいてロクスは言った。
「酒が飲めるところならどこでもいいぞ」
「む〜、またお酒ですか?」
 こうやって一日天使を(任務ではなく)独占できるならば、借金も悪くない。
 そんなことを考えながらロクスは天使と肩をならべて歩いていった。





ちょっと〜〜っ!きゃあ。かなり幸せモードかりなです。さやさんからいただいてしまいました…さやさんのお話ってかわいくって優しくって大好きなんですよ!
ロクスの「ちょっと浮いてろ!」に爆笑してしまいました。テンポがいい〜。
しかもすごい喫茶店(仮)です。未来の教皇と現職(?)天使がバイトしてます。

流石エスナさん、ロクスを振り回してます(爆)。とかいいつつ最後はロクスのペースです。はわ〜こういうのって好き〜!
しかし不器用エスナがバイトでとちらなかったのが不思議です。


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