消え行く運命でも


「バカな天使…」
 冷たく見下ろされる。体が動かない。
「…く」
「こんな子供を助けるために私の前に姿を現して…勝てるとでも思っているの…?それにね、私についていて下さるのは、あんたみたいな無能な天使じゃないのよ。ふふ…」
 その冷たい声を聞いているのは自分の耳か、…自分で聞いてるのか客観的に見ているのかもわからない。自分の体が他人のように動かない。
「(…私じゃ適わない…?)」
「死になさい…。あんたがいなくなれば勇者もただの人間…」
 魔女は片手に魔石を持って、その反対側の手を天使に向かって下ろした。天使は魅入られたようにそれを眺めているしかなかった。
 
 一瞬の間
「――――ッ!!」
 天使の体がぐらりとよろめく、それを見届けると魔女は転移の魔法で姿を消した。
「エスナ!!」
 ずっと向こうから聞こえてくるような声。でも、今度は冷たい声じゃない。
「あ…」
 抱えられたような感覚も自分の感覚かまだ取り戻せない。何度か名前を呼ばれるとようやく自分を取り戻した。
「ロクス…」
「大丈夫か?」
「平気です。…あ、イオンはっ!?」
 ロクスは静かに首を横に振った。
「母親のところに逝くと、…治癒も拒まれた…」
「……そう…ですか…」
 もう冷たくなっているイオンのところに行き、額に手を翳した。
「…ごめんね…。私は…」
「………」
「どうか、その魂が迷うことなく……」
「ちっ、帝国の奴…こんな子供を使って……これじゃあ…伝説どおりになってしまう」
「それを――止めるために…私は…」
 無意識に、先ほど魔法を打たれたあたりをさする。
「…奴は、何をしたんだ?」
「ちょっと魔法みたいなものをかけ…られ――……んっ……」
 視界が揺らぐ。目の前にいるはずのロクスでさえ、見えない。
「え…ど…して……?…いやっ…」
「…?エスナ…?エスナっ!!」
 ロクスは自分の腕の中で動かなくなったエスナを呆然と眺めていた。


「………」
 宿を取り、エスナを休ませる。先ほどからかけている治癒も効いているのかわからない。いつもならぶつぶつ文句のひとつでも言うのだが、事態が事態だ。
「表立った傷はないか……。あのとき…何があったんだ……確か」
 よく思い出す、でも。
「魔石が光って……でも、あの女がエスナに触れたのは…一瞬だったはず…。あの一瞬で…?」
「ロクス様あ〜!!」
 緊張感の破れるような声。
「はあ…。エスナがこんなんだ…。ちょっとは静かに入って来い」
「ごめんなさい、でも、フロリン。これが普通なんですう…」
「…そうだろうな…。で…?どうだったんだ?」
「はいです」

 フロリンダはちょっとかしこまったように話を切り出した。ロクスはフロリンダにあの魔法と魔石のことを聞きに天界へ行かせていたのだ。
「…天使様は……」


 ――フロリンダから聞いたことがぐるぐると頭に回る。もう、とっぷりと日が暮れているのに部屋に明かりもつけず、ぼーっとエスナを眺めていた。純白の翼のほのかな光りと窓からの月明かりが顔を照らしている。
 他に出来ることもなく、効く事もないであろう治癒を再びかける。
「こんなときでも役に立たないのか…この手の力は……」
「う…ん…」
「!…気がついたのか」
「……ロクス?……どうしたんですか…?真っ暗じゃないですか…」
「平気か…?体は」
「ええ…私は。ロクスは怪我、ありませんか?」
 妙に、落ち着いている。
「おい……」
「……ロクス…聞いてください」
 ロクスはエスナの言うことが分かったのか、間をおいて、目を伏せる。
「聞かない…」
「聞いてくれないと困ります」
「僕は信じない…」
「………フロリンダから聞いたんですね…」
 エスナはゆっくり体を起こすと、自分の羽を数枚、つかんで言った。
「多分…近いうちに私の代わりの天使が来ます…」
「…だから?」
「………ふふ、大丈夫。きっと私より全然有能の天使ですから」
「エスナ!!」
 おもわず声を荒げる。エスナはちょっと困ったような顔をした。
「不安…ですか?」
「そうじゃない…君は…(なんで他の心配しているんだ!)」 
「……このアルカヤを守れるのは勇者である貴方だけです…」
「…今は…そんなことはどうでもいいだろっ」
 目をそらしたまま。
「何を言ったらいいかわからないんです……―――…最後まで、ついていけなくて、ごめんなさい…」
 自分は気がつかない、無理をしている笑顔。
「どうして…エスナ……」
「ふふ…やっと、こっち向いてくれましたね」
「怖くないのか…?」
「わかりません……多分、怖くないっていったら嘘です。……でも、こんな私が少しでも役に立てて、できることがあって嬉しかった」

 『言えることは全部吐き出しておこう』というくらいの勢い。

「やめろ、…それじゃあまるで遺…」
 それを最後まで言わせないように、人差し指を立て、笑顔を向ける。
「…貴方は『誰かのため』っていうの、好きじゃないって…。じゃあ、まず自分の為に戦ってください…初めはそれでもいいと思うから…」
「今は君の教訓は聞きたくない…っ!何も今じゃなくてもいいだろう!?あとで好きなだけ言ってくれ」
「…今じゃないとダメ」
「ふん、バカバカしい!僕は…もう聞かないからな!」
「わがまま、言わないで。ロクス…」
「わがまま言ってるのは君だ」
「………消えることより…私は貴方に…」
 いままで我慢していたのに、しずくが頬を伝ってく。
「…エスナ」
 エスナは言いかけたことを止め、小さく首を横に振る。
「でも…やっぱりいいです。………ありがと…ロクス…」
「やめ…ッ!」
 真っ暗だった部屋は昼間のように明るくなる。光に飲み込まれたエスナはそのまま、ロクスの前から姿を消した。
 一瞬遅れて、はらり…と落ちてきた白い羽。ロクスはそれを握り締めて唇をかんだ。
「エスナッ…!」


 いまさらのように、フロリンダの言ったことがまた、頭にこだました。
「あの魔法のせいで魔石に支配されてしまいましたあ…。……天使様は、堕天使になるより、命を絶つことを選びます…。天使の…死は消滅を意味しています。…もう、会えなくなりますう…ロクス様、天使様のお側にいてあげてくださいっ…」
 自分を責めても責めきれない。


 ――あれから、数年。
 アルカヤの混乱は勇者によって終止符が打たれ、その最大の功労者だったロクスは教皇には即位せず、各地を旅していた。
 ある北の町に宿を取った寒い夜。
「…雪か」
 気がつくと、町を散歩していた。小さい町だからすぐに一周できてしまう。最後に、ついたのは広場の噴水。

 先客――。
 この寒いのに噴水に手を入れて、水をかき回している、金髪の娘。
 ロクスには気がついていないのか、思い思いに遊んでいる。
 それから娘は手を水から出すと、雪を受け止めるように手を空に差し出した。小さな笑い声がロクスの方まで聞こえる。

「あ…」

 どくん、と心臓が痛いくらいに高鳴る。
 もう、誰かに対して呼ぶはずもないと思っていた名が頭をよぎる。呼びたいのに声に出来ない。もし、違っていたら…と考えると、怖くて。

「…………エス…ナ?」
 何度か深呼吸して、今度はちゃんと声に出して、それがホントであることを祈ったような声で。


 娘はロクスの方にゆっくりと振り向くと、微笑んだ。
「………」
 差し出された手をロクスは強引に引っ張り、抱きしめる。


「…ホントに…君だな…?」
「やっと…。逢えた…私の――……」




展開早っ!!しかもこないだのとED違うよ〜!

代わりの天使って誰がきたのかしら。1000年前の件でラファエル様?(違)
しかもこのイベントのセレニスとの会話ってレイラのだし…。
ストーリーをステキに無視してますね。消滅したら復活できないのでは(汗)。
「ロクス、天使が危ないのに何やってんねん」と思いますが、きっと一瞬の出来事だったのです(爆)。
しかし何でいつもこーゆー中途半端な終わり方するのかしら。

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