『彼を見守ってきた者』


「旅に出ろ、頭を冷やせ」と聖都を送り出したのに、「世界平和」というお土産まで引っさげて戻ってきた。それから1年余り、今度は自分から旅をしたいと申し出があり、送り出した。
 そんなロクスが聖都に戻ってきて数週間経った。


「………」
 副教皇は大聖堂の中央、礼拝堂の十字架を見上げていた。

 幼なかったロクスを引き取ってからもう随分経つ。あの年で両親と離れ、寂しい思いをさせただろう。でも、今まで教皇になってきた者は(多分)こういう辛い時期もあったのだと、随分辛く当たってきた。…その結果、聖職者にあるまじき行動を取るようになったのだが…。
「…はあっ」

 ロクスが、好きで自分から神の道に入ったわけではない…。というのは分かってる。こう思うと、『癒しの手』を持って生まれた未来の教皇は不憫じゃないか…とまで思えてくる。



 礼拝堂を出て、廊下を歩いていた。窓から漏れる光の柱が、壁の彫刻を浮き彫りにしている。
「そういえば」
 最近、ロクスの悪いうわさを聞かなくなった。女遊びや酒場での騒動。…まあ、借金はたいして減ってはいないようだが。

「(誰かのお蔭か…?いや、人に必要以上干渉されるのはあいつも嫌いな筈だ)」

 ―――どんっ!
 背後から何かが勢いよくぶつかってきた。
「あ!ごめんなさい!!」
 子供。
 ミサももう終わったのに、まだ子供が残っていたとは。
「怪我をしますよ。気をつけなさい…」
「はいっ!!」
 子供は元気よく返事をすると、そのままものすごい勢いで廊下を駆けて行った。


「………」
 また「そういえば」だが…。大聖堂に来る子供の数が多くなっている。平和…だからだろうか?何にせよ喜ばしい事だ。



「歌声…?」
 廊下をそのまま歩いていると、何か聞こえてきた。
 …やわらかい歌声と、子供たちの楽しそうな歌声。…先ほど子供が走っていった方向からだ。
 歌を頼りにその部屋に行くと、見かけない娘と子供たち…。それと、頬杖をつきながらその様子を見ているロクス。
「あの娘は…」


「はあっ、…エスナ。ここを保育園にでもする気か?」
「そういうわけじゃありませんよ。―――あ、それもいいかな。…ふふ。ロクスもどうですか?楽しいですよ?」

 ロクスは目を細めて微笑み、
「いや、僕は見てるほうがいい…」


 ――ああ、そうか。
 副教皇は微笑みながらその部屋を後にした。


 1000年も昔、天使に導かれ世界を救った勇者の一人が初代教皇である。自分が本当の子供のように育ててきたロクスが天使に導かれたのなら――。
「これほど嬉しいことはないか…」




例によって例のごとくうみちゃんとのメールで出来上がったもの…。メールっていっても、『副教皇っていい人だよね』ってだけだが。
しかしタイトルセンスなさすぎです。苦労話なのか?これ。
しかも数週間も副教皇に会わなかったのも才能ですね。エスナさん、すごいです(爆)。

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