『天使の宮殿』 「天使様っ、ガブリエル様がお呼びですよ〜?」 自室で報告書をまとめていたエスナ。その目の前にぽんっとシェリーが現れ、要件をいきなり告げる。 「あ、シェリー…。フロリンダは?」 「…天使様、フロリンダは今日は休みだ〜って自分で言ってたじゃないですかあ。いやですよ、もうボケですか?」 妖精が天使に向かって軽口を叩く――などと言う事はまずないのだが、彼らは別だった。 「! ああ、そうだったね。…あ、ガブリエル様が私を呼んでるんだっけ?」 「そーですっ!天使様?なにか悪いことしたんじゃありません〜?」 「あはは、してないよ。シェリーじゃないし」 「もう!天使様ったらあ。…とにかく早く行ってくださいねっ」 「エスナ、参りました…」 聖グラシア宮。ガブリエルがいつもいる場所だ。 「…? ガブリエル様…?いらっしゃらない…?ああ、場所までは聞かなかった…んだった…どうしよう」 「…エスナか?」 いつもならあまりここで聞くはずのない声を聞いて一瞬すくみ上がる。 「ミカエル様っ??あ…ガブリエル様はいらっしゃいませんが…」 「ああ、そうらしいな。……なんだかそうしてるとエスナはここの留守番役みたいだな」 「と、とんでもないですよっ。…私なんかがグラシア宮の留守番役なんて…私、ガブリエル様に呼ばれまして…」 慌てて言い訳をする。ここは半人前天使が堂々と来られるところではないから。 「小さいときはここがお前の根城だったけどな」 「………、すみません…」 どう答えたらいいのか分からないときに謝る言葉が出るのは癖だろうか。なんにせよ、このミカエルの言葉で少し、エスナの顔が曇った。 「おいおい」 「あ…すみません!…私、地上に戻らないといけない時間なんです」 「そうか、じゃあガブリエルには俺から伝えておくよ」 「はい、ありがとうございます。では失礼いたします…」 自分でも失礼な去り方だと思っていた。でも、あのままミカエルの傍にいると泣いてしまいそうだったから。 「(…こんなことで泣かないって決めたんだ…!)」 勇者への武器を一通り渡し終えると、森の中をさくさくと歩いていた。 森といっても雪深い地。エスナは木の枝を引っ張ったりして雪を落として遊んでいた。頭からかぶっているので、元々全体的に白いのにさらに真っ白である。 「…ホントにきれい…。天界には雪って降らないから…」 頭や肩に積もった雪は、時間が経てば解けながらぽたぽたと落ちる。それを両手ですくいながら、ぽつりと洩らした。 「…貴方も…私の傍にいてくれないの…?」 溶けて欲しくない――。 そんな妙なわがまま心が起こり、雪の中に倒れこんだ。 「今日の私…おかしいよ」 雪から見える純白の翼。 「…は?」 ロクスは我が目を疑った。 「………」 それが小さければ冬が好きな渡り鳥だと思うだろう。ムリな遠近感を信じてそれに近づいたが、近づくにつれてさらに信じたくない結果が見えてしまう。 「エスナッ…?」 雪から救い出すように抱きかかえた。 「…おいっ?エスナ!?」 「ほ………え?」 「お前、こんなところで何やってるんだ?」 無事だと分かると、まず文句が出る。 自分はこんな辺境の地に任務で来させられ、そしてその張本人がこんなところで遭難まがいなことをしてるのだ。 「ロクス…ああ、この辺の任務でしたよね。お疲れ様です」 「質問に答えろ」 「私ですか?…見ての通り…雪と…遊んでました」 「遭難してるみたいだぞ」 「大丈夫です、私は実体がありませんから寒くないです…」 そういう問題かよ。と頭を抱えるロクス。それから法衣をエスナの頭からかぶせた。 「!…いいですよ。寒くないですから。ロクスが風邪引いちゃいますよ」 「僕が寒い。そんなカッコで雪に埋もれられたら」 「すみません」 なんだかいつもの元気がない。見ると、まだ雪の上で座ったまま。行く当てがない迷子の子供みたいな顔。 「はあっ…」 「ロクス?どうしました?」 「いい。僕はもう行くぞ」 こうすれば…。エスナは「私も行きます」と言う筈だ。こんな表情はもう見たくない。 「はい。…じゃあ法衣、お返しします」 予想外。 「おい……まだ、ここにいるつもりなのか?何もないのに」 「雪が…」 「エスナッ?今日おかしいぞ?」 呆れを通り越していた。雪で遊びたいなんて子供じゃないんだしと。エスナの視線にあわせてひざをつく。 「おかしく…なんてないですよ。だって…こうしてれば…ずっと傍にいられるから」 「(目が虚ろだ…)」 「…や、です…。ロクス、早く行ってくださいっ!…私を一人にしてくださいっ!!」 「エスナ……わかった、勝手にしろ!」 ロクスは法衣をそのままにエスナに背を向けて去っていった。 「…っていうわけなんですよ〜。分かりました?」 相当夜もふけ、明かりが漏れている部屋はそこだけだった。あのまま目的地に乗り込む気にもなれず、小さい村で宿を取ったのだ。 「ああ、大体な」 「でもロクス様が天使様のこと聞きたい〜なんて驚きですねっ!あ、私が喋ったこと!天使様にはナイショですよ!?」 「あいつはこっちのこと突っ込んで聞いてくるけどな。ま、いい、エスナ呼んできてくれ」 シェリーは申し訳なさそうにロクスに上目遣いする。 「天使様、今日、朝出て行ったまま戻ってないんですよ…。多分まだどこかに…って。ロクス様っ!?」 ロクスはシェリーの言葉を最後まで聞かなかった。宿をとび出し、あの森へ向かう。 夜の闇にぽつんと翼がほのかに光っている。妖精のように彼女の周りを散る、真っ白い雪。 「まだ、いたのか…よくも飽きずに…」 つぶやくと、ずかずかとエスナの方に歩いていって…。 ぱんッ…。 「………ロク――」 頬を叩かれてからロクスの存在をつかんだようで、ぼーっと頬をおさえる。 「バカだな。君は…雪なんかに語りかけてもなにも話してくれないぞ…」 「………」 ロクスは大事なものを抱えるようにエスナの背に手をまわす。 「僕は…君を一人にしない……だから君も…」 「っ…あ……あぁ…」 今まで夢でも見ていたような顔だったエスナはロクスのその言葉を聞いて、せきを切ったように泣き出した。 頭を優しくなでられると、昔の記憶が蘇る。大天使たちに囲まれて育ったあの記憶。…でも自分はどこか他人行儀だった。本当の子供のように甘えられなかった。 「雪が降ってる寒いときは…誰かが傍にいてくれて、暖炉の前で本を呼んでくれたり、お話をしてくれたりするんです…」 エスナが昔、本で読んだ話。 「だから、私、雪がうらやましかった…天界には…雪が降らないから…。………ロクス」 「ん?」 「うんん、なんでもない…。私…幸せです…」 |
うみちゃんが「過去話の続きモノある?エスナ版」と聞いてきたので速攻書いてみました(爆)。実はなかったのですよ続きは。 ロクスが優しいのか優しくないのかが不明です。まあこのへんがロクスでしょう(当社比)。 雪がやけに出てくるのは、私が好きだからです!(どーん)あと『寒い夜』のせいですね。 しかももっとラブラブでした…でも私には出来ませんでした、先生(誰?)。 何がいいたいんだ自分…。これが国文出身とは笑わせます。…論文なら多分OKです(逃げるなよ)。 そして…誰かナイスなタイトル考えてください(切実)。 雪の上はさくさく歩けません!!歩くのも大変なのに平気で歩くエスナが不思議です。まあ、天使だし?(じゃあロクスはなんだよ) BACK |