4:刻の長さ



 ――――人である時間を生きてきたジョルジュが分かる筈もないのだった。
 今まで教えられて来たアカネイアの歴史が全くの嘘だったのだ、など、誰が信じるだろう。
 それはあまりに昔の出来事過ぎて、そして、自分が立っている場所が揺らぐから、否定的な考えで居た者など、恐らく存在しなかった。
 この大陸はアカネイア王国がある場所から始まっているのだ。

 聖・アカネイアは封印の盾と三種の神器を盗んだ盗賊が興した国だった。そんな事は誰が思うだろうか――――。





 数えるのも馬鹿らしくなるような遠い昔。

 魔道の力で作られた透き通った箱の中、竜の赤子をずっと眠らせていた。
「チキ…」

 そしてそれは、やはり変わらず箱の中に居た。
 ただ、赤子ではない。人として生きた10年間で成長した姿。
「…ねえ、また、いろんな所に行けるからね」
 衣擦れの音が部屋に響く。
 その箱の隣りに膝を付き、箱を撫でた。
「そしたら、どこ行きたい…?」
 この姿のチキは先の戦争でも目にした事があった。ただ、あの時は「会った事があった?」と懐かしさを感じたまま、そのままだったのだが。
「ごめん。今度は…盾を元に戻してこんな事にならないようにするから。チキの大好きなマルスのお兄ちゃんが…、きっと」

 こつん、と箱に額を当てる。顔を横にすると、目線より上辺りに白い小さな台が見える。
「……」
 先程、あのテラスに行く前――――つまりチェイニーから竜石を渡された後。チェイニーと共にこの部屋に一度足を踏み入れた。台座には魔道の杖と以前使っていた髪飾りなどの装飾品が保管されていた。
 今は空となったその台座をぼーっと眺める。
 杖を受け取った時、封印のような術が解け、竜族の力を取り戻した。だがその姿は人。竜石も使えないなんとも中途半端な竜だが。
「……明日、多分、言う事になる…。盾の正体とか…パルティアとかの事…。アカネイアの本当の事…」
 明日、この神殿の真上に再生の星が輝く刻限、その力を借りてオーブを復活させるとガトーから聞いた。
 恐らくその時にでも、伝えることになるだろう。「アカネイア王家の炎の紋章」ではなく「封印の盾」としてマルスに託すのだ。知らせなければいけない。
 手を開けば不思議な感触を持つ蒼く輝く石。それは先程受け取ったサジタリスだ。
「……」


 先程、嬉しくて胸が痛んだ。
 エスナ自身も戸惑っている部分があるのに、ジョルジュは竜族であることを受け入れてくれた。
 今度は、ぎゅっと締め付けられるような痛さに襲われる。
「……は…ッ!」

 アカネイアに誇りを持っている彼はどう思うだろうか。例え今のアカネイアが荒れていたとしても、昔の誇り高き祖国を取り戻すために戦っているのだ。
 もう、先程のように、そして今までのように話してくれる事はなくなるだろうか。どう聞いても、竜族が人を嫌いだったとわかる過去だ。
 ――――いや、きっと今までと変わらず接してくれるのだろう。自分は「トクベツ」じゃないのだから。
「そうだ、きっと、特別じゃないから…受け入れてくれたんだよ…」


 だから、


「いいんだ。みんなと同じ道は歩めない、って分かったんだから。でも、思い出して悪かったなんて思ってない。…良かった。ナーガ様とかチキの事も…兄様たちの事も思い出せて」

 涙を無理矢理拭い、チキの箱をその身体に触れるような手つきで優しく撫でる。
「……せめてチキが大きくなるまでは、もう、盾を壊させない」


「それと、これは…」
 先程、幾つかあった話題の中には、思い出したばかりの昔の話もあった。
 元々そういう性格なのだろう、ジョルジュはそれらに時折考える仕草を見せながら、興味深く聞き入ってくれた。

 その態度はとても嬉しく、そして痛みを覚える。
 自分の中で響く鼓動が、熱く。

「私が分かってればいい…」
 座り込んだまま、チキの箱に頬を載せる。
 長い髪は床に零れ、毛先で二つに結った髪の金色の筒がかつん、と鳴った。
 視線だけ毛先に移動させると足首が髪に隠れている。そこには神竜石が付いたチェーンが架かっていて。先程言われたことを思い出し肩を縮めた。

「それで…いいの」





元のファイルはもう少し明るかったのですが、やはり根底では妙に暗かったです。
同じような事言ってるの多いですね、ホント(汗)。

EDまでは本人は想いを明かしてないつもりなのですが。周りから見るとどうなのでしょう。
自分の事に鈍感だけど人の事には鋭いマルス様あたりは分かっているのかな。

チキがどんな風に寝ているのかが良く分からないのですが、
イメージ的には装飾のベッドにガラスケースみたいな…。そのガラスが魔道の力…的な(笑)。

そういえばゲームではチェイニーが「神竜族」と明かしたのがかなりアッサリしていたのですが、
それが彼なのでしょうね。

挿絵

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