『魔法の力』 確かに、別れが近づいてきている。よく、『出会いと別れを繰り返して――』なんて言うけれど…。 「ちっ…」 よくわからない。一つのことを考えるのは好きじゃないのに…。考えたところでおもしろくない。…だいたい、最悪のシナリオになるから。 「ロクス様っ!」 「…あ?……珍しいな、お前が来るなんて」 夜の宿屋。やっと静かになった時間。 宙からぽんっと現れたのは、妖精。ネコ耳のシェリーだった。…確かに珍しいかもしれない。ロクスは面倒くさげに首だけ傾けて妖精に目をやる。 「何でそんなこと言うんですかあ〜。まあ確かに、今日は天使様のお使いじゃないんですけど」 「エスナの使いじゃない〜?…勝手に来てるのか、ご苦労なことだな」 その体制のままぎろっとシェリーを睨みつけて、直ぐに視線を落とした。 「ロ〜クス様〜??(うわ、いつもに増して機嫌悪ッ…)」 「うるさいな!別にいなくてもいいんだぞ!」 「(天使様、よくいつも間がもつわね〜…)」 シェリーは『やれやれ』と肩をすくめ、息を吐いた…無論、ロクスには気が付かれないようにだが。 それから、つつ――っとロクスの視界に入るように飛んで。 「……天使様の〜…ことです。聞きたくないんですか?」 「エスナの〜?……ふん、どうでもいい」 「じゃ、他の勇者様に教えちゃいますかあ♪」 「…………………」 最近増えた『アルカヤ外』の生き物――。つまり魔物の退治の任務。 「少し、下がっていてくださいね」 エスナはいつものように笑いかけると、ついっとロクスの前に出て魔法陣を敷いた。 アルカヤ以外の生物だということなのか、その任務が終わった後は天界の力とやらでその場を浄化…しなければならないらしく……。これがその魔法と言うわけだ。 ――そう、もう、何度か見てきた魔法。 「………――っ」 杖を小さく振ると足元から魔法陣が浮かび上がる。 石畳は光に照らし出されて、少し溝が大きく見える。 ――くそっ、なんだってこんなときに…。 先程…シェリーから聞いた言葉。その意味…。何で天使が…エスナがこの魔法を使わなきゃならない……? ――それは、勇者にできないから…?―― 「バカにするな!…僕にだって…!!」 「!??」 いきなりの声に集中力がそがれ、魔法陣が消える。驚いた顔で振り向くエスナ。 「ロク…ス?」 「…ッ。………いい!うるさい!…続けろ!!」 「もう…なんですか…」 大地をあるべき姿に戻す――…と言ったら聞こえがいいだろうか。そういう天界の魔法、エスナがもう一度よくわからない言葉で詠唱を始める。 その度に距離を感じる。 光に照らされる姿が嫌だった。普通にしていても違うその空気が嫌だった。 『あのですね、ロクス様』 ――少し、暗い顔で言うシェリー。 バカみたいだな。君も。 「?…き、きゃあ…ああっ!?」 ――ばちっ! …という、魔法がはじける音。 「あ…ああ………――ロ、ロクス!?危ないですよ…ケガしちゃいます!」 「うるさい!」 翼を引っ張られるといった感じで、無理やり法陣の外に引きずり出され、…その代わりにロクスの杖が突き刺さり…魔法を止めている。 「何するんですか………どうして…」 情けない声でそう言う声を無視して、ロクスは自分が覚えている治癒の力の技を代わりにその場に使った。 「これでもいいだろ!!行くぞ!」 「………はっ?……いや……あの、…ちょっと待ってくださいってばっ!」 『天使様と、人の命って違うんです』 『そりゃ…そうだろうな』 『あんな大きい魔法ばかり使っていたら…天使様…』 言葉を濁すシェリー。ロクスは苛ついたように眉をつりあげて続きを促した。 「もう、あんなの使うな」 「…?…えっ、でも…」 「うるさい!……もう帰れ!!」 怒鳴ってしまった後、その理由をもう一度呼び出す。…それから、複雑な顔のエスナに振り向き、『悪かった』と小さく言った。 「……?それ、誰から…?」 「は?…お前の妖精からだ!」 ロクスの話を聞いて…。きょとんとした顔の後、微笑むエスナ。 「………そんなことないです。ロクス。…私は、大丈夫ですから、心配しないでください」 「(騙されたのかっ!??)………あいつ許さんッ!!」 「ロクス…」 「あーあー!あいつの言うことを真に受けた僕がバカだったなっ!!」 「………ロクス!」 「ああ!?」 「でも……ありがとう。嬉しいです……本当に」 その一言をとても大事なもののように言う。 「っ!………勘違い…するなよ」 「あ、天使様ったらバラしちゃったんですね」 シェリーはまた息をついた。 『天使様って「任務だけ」に生きてるんですよ。あんな魔法たくさん使ったら、きっと…任務が終わったら………消…』 「でも、ま、いいか♪」 |
「もし、妖精がもっといたずら好きだったら」(笑) レインさんの小説のシェリーがこんな感じなんで使わせていただきました。 ロクスはロクスで気分悪いですよね。天使がそんな風に魔法使っていたとしたら…。 挿絵 BACK |