『12年前の任務』



 ―――ぐいっ。

「う、きゃんッ!…や、やめてください〜」
「へえ、おれ、こんなん背負ってるヤツ、初めて見たぜ」
「やですってば。痛いですう―――…そうじゃないんですッ、私はあなたにい〜…」
「は?なんだよ」
 ルディエールはぐいぐい引っ張っていたやわらかいそれをようやく放した。エスナはもう引っ張られないように急いで数歩下がる。
「……お願いがあってきたんですっ。ええと。…私は天使のエスナって言います」
「だっせ〜。天使なんているわけないだろ」

 ――間。

「……でもお…そうなんですッ」
 ――こんなわけで話しが本題に入るにはかなり時間が掛かったが…。

「いいぜ、お前おもしろいからな、やってやるよ」
「ホントです!?…ありがとう!ルディ」

◆◇◆◇◆◇◆◇

「お疲れ様です。天使様」
「天使様〜?浮かない顔ですねえ?」
 気の上で足をぶらぶらさせている、小さい翼。妖精二人が声をかけると浮かない顔のまま…見上げる。
「ローザ…シェリー……。ロクスもルディもひどいですっ。カエル乗っけたり、羽引っ張ったり…」
「ああ〜痛かったですね〜。大丈夫ですか〜?」
「人間には…そうですね、天使様は珍しいですから」
 なだめる妖精二人。顔を見合わせて、それから。
「でもすごいですよ、天使様。あの長いセリフをよく覚えましたっ。偉いですよ」
「(偉いって…)」
「!?ホント?」
 シェリーに褒められてぱっと顔を明るくする。
「だってラファエル様にも褒めてもらえるんですっ。頑張りました」
「ふふ、じゃあ……天使様。次は女の子のところです。…名前は――…」

◆◇◆◇◆◇◆◇

「―――ダーナ・ウン・ジャック…っと。………ええ―――いっ!!」

 がつんっ!―――がらがらがっしゃあああん。

「ひゃっ…!??うわっ!………ったあ〜…」
「あ〜。ごめんごめん。失敗だわ…ちょっと〜平気?生きてる!?」
 エスナはくらくらする頭を押さえて立ちあがった。何かが降ってきて本に激突され…。
 アイリーンはそんなこともお構いなしに遥か彼方から声をかけてきた。
「う〜ん。これはっ……ふんふん、なるほど。座標まちがえたわねっ。…あんな遠くに現れるなんて」
「う、痛い…(ビンです…)」
 エスナの頭に落っこちてきたのはビンだった。
「それ?ポーションよ。…使えば?………ってか、アンタ。頭おかしいわけ?そんなんつけてさ」
 もちろん『そんなん』とは翼のこと。
「私は…天使のエスナというものです…」
「はあ?天使ィ〜?」
「私、アイリーンにお願いがあって……うわわっ!!」
「おもしろいわアンタ。…私の実験台になってよ」
 翼を物珍しそうに観察始めるアイリーン。エスナは暫く話しを本題にもっていけなかった。
「きゃ――。違いますう〜!!」


 ――その頃ロクスは――…。
「おい、お前」
「はいですう。ああ、ロクスさま?ちゃ〜んとお勉強やらないとだめですう」
「うるさいな!お前には関係ないだろ。…いいから、廊下に司教がいないか見てこいよ。んで、エスナ呼んで来い、遊びに行くぞ」
 外出するところだった。

 ――まだ、アルカヤは平和である。




12年くらい前に任務が始まっていたら――です。
羽引っ張られても痛くないだろうけど…。

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