小さい光



 ――ふわ…。ぱちんっ。

「んっ…なんだ」
 目の前で割れたそれに一瞬、不快な顔をして。それの正体を知って苦笑した。
 旅の途中で立ち寄った、小さい町。そこの広場のようなところ。大人たちは働きに出ているせいか、日中でも人の姿はまばらだった。
「…………」
 次々とふわふわ飛んでくる丸い光。陽はそれを七色に反射させる。向こうでは数人の子供たちがそれを見てきゃあきゃあと騒いでいる。
 何故か、暫くそれに見入ってしまった。


「めずらしいですね」
 空から降ってきた声に、今度はワザと不快な顔を作った。
「…ふん、君か。何がだ?」
「こんなところで足を止めているなんて」
「僕は、……人がいるところのほうが好きだからな。…こんなところじゃ遊べやしない」
 翼が風をはらんだおかげで丸い光はそこだけ不自然に天へと舞う。
 石畳に照らし出された小さい法陣。それがもっと小さくなり…石畳に足を下ろす。
「とっとと行き先を決めてくれ。夜までだらだらとかかるのはゴメンだぞ」
「はいっ」
 返事をしたものの、エスナはあたりを飛ぶ光が気になっていた。くすくすと笑いながらそれを目で追う。
「エスナ…」
「あ、はは…。ごめんなさい」

「――……君がそういう気なら!…僕は休ませてもらうからな」
「………(ここで…?)」
 言いながら水飲み場に移動して。止めど無く流れる水に口をつけた。それから動かないということを決め込むように石段にどっかりと腰をかける。
「ええ、今日は、少し休憩しましょうか」
 エスナはそう言ったロクスがなんだか嬉しくて。
 ロクスのまねをして水飲み場に近づいて水に手を突っ込んだ。飲むことはしなかったが、小さい鳥やらの彫刻の入ったパイプを手で押さえたりして――…。
 そうこうしていると小さい虹ができる。しかし端から見れば水を撒き散らしてるようだった。
「…おい、ここまで濡れるぞ。何をそんな暴れているんだ」
「ええと、…ロクス、あれはどうやって作るんですか?」
「? ……あれ…?ああ、シャボン玉のことか?」

 子供たちの方向から空気によって流れてくる丸い光。それはもう1つ2つしか飛んでいなかった。遊びを見つける名人たちはもう、違うことを始めていたから。
「…なんにせよ、水だけじゃ無理だな」
「水だけでは無理…?じゃあたくさんの偶然でできるんですかー。…ふふ、すてきですね」
「わからないな」

「町の、元気の魔法みたいです。…癒しの力みたい」

 『癒し』と聞いて目を上げた。その言葉にそんな意味があったなんて。……そういえば忘れていた。
 エスナはその水をなめる程度に飲むと、ロクスの隣に腰かけた。


「私は好きですよ。こういうところ。だって……休ませてくれました」
 外に出れば戦いばかり、それにいろんなことでイライラしてて…なんだかすさんでいたのに…こうに付き合ってくれるから、あなたは。
 それが何ともなくさせてくれる、こういう雰囲気が。
「……別に、関係ない」

 苦笑して、最後の光が弾けるのを見守った。




コップ洗っていたらシャボン玉が出来ました。
…そんなお話(謎)。
ローマはいろんなところに噴水や水飲み場があって好き。

挿絵

BACK