『意味がわかった誕生日』 誕生日なんて来る度に『一体何が「おめでとう」なんだ?』って思っていた。 けれど、毎回聞く『おめでとう』の言葉、それにまるで枕詞のように意味なく言葉を返す『ありがとう』…。 誕生日に繰り返されるこんな言葉…、意味のないように思えてきたのは、親以外の大人たちに囲まれていた…あの頃――。 「―――…なんだ、これ」 やけに飾られた箱。 「何って?…ロクスへ、です。今日、お誕生日ですね」 エスナは少し浮いていた足を地上に下ろした。その風の動きでスカートと装飾がふわりとゆれる。プレゼントの箱のリボンと同じ鮮やかな色。そこに金色の刺繍。 「天界にもこんな風習があるんだな」 それからとって付けたように『ありがとう』と。 「天使はそうじゃないですけど…。前の地上で教わったんです、大切でしょう?」 「…年に一度、誰だってあるんだぞ」 ――別に大したことじゃないじゃないか。 「ええ…それでも。です」 両手の指先を合わせて、微笑む。 そう言えば、あと少しで天使の勇者になって一年目だった。 この長い長いと思っていた一年、過ぎてみると、いろいろありすぎて、短かった。 かと言って、去年の……エスナに会う前の誕生日は、遠くて覚えていない。多分、何もなく過ぎていったから。 「私、この日って―――……」 「んっ?」 「…なんでもありません。じゃあ、ロクス。私はこれで」 「(それだけなのか)」 エスナはいつものようにまた笑うと空に戻っていった。ちゃんと最後には『また来ますね』と付け加えて。 「なんだ…ったく」 言いかけられた言葉が気持ち悪い。ロクスは腹いせにリボンに手をかけようとしたが、やめて自分の荷物の中にそれを放りこんだ。 ――祝うどころか、無駄にどうでもよく過ぎていく日。 成人の年齢まできたのに、いまだに教会連中に利用されているような自分。 それは幼い頃から変わらない。毎回巡ってくる誕生日が鬱陶しくなる。 11月という季節だからか、その日は冷え込んだ。 寝るまで忘れていたのだが、ふとベッドについてから気がつく。ロクスはため息をつきながらそれをもう一度手に取った。 それから仕方ないなというように、その装飾だらけのリボンに手をかけた。 「あ………」 ――ぱちぱちと暖炉の火がはぜる。 明るいとは言えないけど、やわらかいランプと暖炉の明かりの中。 「んっ…あぁ…」 「? あ、起きちゃったんですね。…寒くないです?」 声で、気がつく。いつのまにか眠ってしまっていたことを。 「ああ」 ロクスは肩にかかっていたストール(エスナのらしい)を椅子にかけると立ちあがって窓辺に移動した。 あれから数年。あの箱の中身はこの季節になると必ず見かけるようになった。 「また、巡ってきましたね。この日が」 壁に寄りかかっている彼ににっこり笑って言う。 「よくもまあ、飽きずに覚えているな」 その言葉にエスナはくすくすと笑って膝の上の幼子の頭をなでる。子供は二人の顔を交互に見ながら真似して笑った。 「私はこの日は…その人のこれからを祈る日って思ってましたから」 ――誰に宛てる言葉か、過去に縛られて泣くなと。 「わざわざ言い換えなくてもいいよ、素直に祝いの言葉を言えばいいだろ」 「はい。…生まれてくれてありがとう…ロクス」 「ははっ…素直じゃないな」 ロクスはエスナの膝の子を抱きかかえて窓辺にもう一度戻った。でも瞳に映すのは外の景色。 「ねえ、あれなあに?」 その窓からつつ――っと通っていく白いもの。 「…ん?…雪虫か」 「ゆき……天使さまからの…おくりもの…?」 「っ!…はは。そうかもな」 「え、どこどこ?どこです?」 弾かれたように椅子から立ち上がり窓辺に張り付く。「君は子供より子供だな」と呆れたように言うロクスは、その白い綿が通って行った方向を指差した。勿論、もう飛んで行ってしまって見えないのだが。 「あー残念」 「全く…。……直ぐに、君の日も来るな…」 窓辺に背伸びする背丈の小さな肩と、元天使の肩を抱き、ふ、と笑う。 「…雪か。なら、これやるよ」 言いながらエスナに雪のように白く、そして優しい色合いの装飾を取り出し、括りつけた。 「!…ロクス…ありがとう」 普段、雪が降らない聖都でこの雪を告げる虫が飛ぶことはない。 昔…エスナがプレゼントにしたものは、初めて治癒魔法以外で成功した雪の結晶の魔法。必ず年に一度戻ってくる。
…と。願いとともに。 |
エスナの誕生日の話にしようとしていたら、ロクスのになってしまった。 すみません、自分の誕生日にこれ書いています(笑)。 「何を祝うのか」っていうのが歌詞であったんです。 何を祝うのだろう、じゃあ、エスナならなんて考えるかなって…こんな感じです。 そして子供は…ある方へのサービス(やめろって(笑))。 雪虫好きです〜。 BACK |