『終わりの日』



「やっぱりエスナだわ。律儀」
 アイリーンはいつものように舞い降りてきた白い羽に笑った。
「もう、知ってるんだからねっ」
「報告遅れてすみません。…他の勇者を探したりしていたら思ったより時間がかかってしまって…」
「へ?ああ…妖精も天界に帰しちゃってるってワケね。それでよく探せたわね…方向音痴のくせに」
「三年間の賜物です」
 笑いながら答える。こういうことを何度か繰り返している。

 空が青い。大地の緑がまぶしい。血に塗れていた大地は確実に息を吹き返している―…。

「私、やるよ…エスナ」
「ええ」
「姉さんの…事……。いろいろ…乗り越えなきゃならないことあるけど…きっと、大丈夫だと思うの。私は…ひとりじゃない、ってこと、わかったから」
「アイリーンは最初から一人なんかじゃなかった…。大丈夫です、未来なんてわからないけど、わからないから人は変えていけるんです…生きられるんです。……――そうに、教わりました」
 最後はにっこり笑って。二人の間を浮いているウェスタの頭をなでた。
「そうね、……エスナもいるし。今までこき使われてたんだもん、これからは私にも協力してもらうからね」
「ええっ。ずっと、見守っていますから」
「はあ?何気持ち悪いこと言ってるのよ。こーなったらエクレシアでもどこでも乗り込むからねっ」
「エクレ……シア?」

「――――〜ッとにっ!!早く僧侶様のとこに帰りなさいよっ!!」

 き―――ん…。
 あまりに大きな声だったので、ウェスタまでも目を見開いていた。
「…と」
「ねえ。誰に教わったのよ、アンタが帰るところは天界じゃないわ。多分」
「ロク…」
 名前を声にしようとすると明らかに鼓動(?)が変わった気がした。
「そーやってテレることもなかったもんね、昔は」
 それから翼をつかんでそれに顔をうずめた。
「―――こんなの、もう、いらないでしょ」
 聞こえないくらいの声で。



 ぱたん。
 分厚い本の、立派な表紙。そこには自分の字がびっしり並んでいた。報告書…である。
「……できない」
 戦いが終わって、勇者たちに報告に行った。…平和になったことを。もう戦いがないということを。…報告に行ったとき、彼らの生活は確かに動き始めていた。
「できなかったのっ…!」
 もう、これからの自分は彼らに普通に会うことの資格さえ…ない。

 そのなかに、報告に行けなかったただ一人の人物がいた。行ってしまったら戻れなくなりそうだったから。

 ――だから、記憶を消して。

 せめて最後にと夢の中で会ってきた。
「笑って…いたかったのに」
 無理にでも笑うことさえできなくなっていた。『お別れ』がこんなに辛いものだってはじめて知った。

 十字架を握って天を眺めた。




お友達に「天使って戦い終わったあと、他の勇者に報告してるのかな」
とメールをもらって思いついたもの。確かに他の勇者に報告でもなんでも会いに行かないとだめですよね。
「今までこき使われてただけ!?」って感じじゃないの。サギだ(爆)。

なんだか長編の最後の方につながる終わり方をしてしまった…。
しかしこれは誰の話なんだ…??

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