『夜の散歩』



 やめておけばよかったのかもしれない。
 こんなに暗いのに…。こんなに寒いのに。
「……………どうしましょう…か」
 最後のほうはため息交じりだった。寒さを感じない身体なのに今は何故か寒さが分かる気がする。
 暗いのだって慣れてないわけじゃない。……と言うより、町の明かりでかえって明るい。
「きゃっ!?……と、とっ」
「ったく、気を付けろっ!」
「すみませっ……」
 突き飛ばされてふらふらと建物の壁に寄りかかる。
 こうなってしまったことの発端はついさっき。酒場に行ったらしい勇者を追いかけてきていたのだ。
「もう…戻ろ…」
 はあっと息をついて来た道を引き返――したつもりだった。


「………??や、やだ…ここ、どこ…」
 さっきより真っ暗だ。どうにか広場……?と言うことは分かる。
「……あーあ……迷ったみたいです…」
 肩を落として、丁度いい高さの段に腰掛ける。このまま天界に戻ればいいのだが、何故かそうにする気にならなかった。
「バカみたいですね。……私」
 そうに呟いて、目を閉じた。


 夜を告げる鐘の音が町に響いた。
 光の環。
「?…なんだ」
 突如、自分の前に現れたそれに手をのばした。…この先は公園だった筈…。それについていくように足を進める。
「……………」
 いくつかの光の環のようなものは、霧煙のように舞い上がる水の中(広場の真ん中にある)から現れているようだった。
「!………ふん。こんなところにいたのか…」
 文句のように呟いて。さっきまで…見つからなかった。妖精を呼んでまで探させたのに。『天使様、地上にいるとなかなか見つからないんですう』とか何とか言って。
「…水にも濡れないのか、天使様は」
 近寄って行ってそれだけ声をかける。風にあおられている霧はもろに自分にかかってくる。
「ッ?……ロクス!………あ。どう…して」
 うつむいていたからか、ロクスが現れたことも、自分に降りかかっているその水の存在にも気がつかなかったようだ。
「うわあ…きれい」
「ちっ…お気楽だな」
 エスナが今まで座っていたのは噴水の縁。時間で水が吹き出る仕掛けになっているのでこの広場に来たときは真っ暗なだけだった。
 夜の空に浮かぶ白い滝。それにつられるように淡い光をもつ翼。
「そうだっ…!…この中に入ってもいいですか?」
「……入ってなんになる」
 ため息交じりに質問をぶつける。
「ええっ。ちょっと待っててください」
 一歩足を踏み出す。水の勢いで服の軽い部分がふわりと舞う。
 水面ギリギリを渡って。くるりと一回廻る。
「っ!?……」
 水面に魔法陣のようなものが浮きあがって、噴水全体を照らした。高く打ち上げられた飛沫は光をうけてきらきらと舞い降りる。
「ほらっ、きれいでしょう?ロクス…。水ってすごいですねっ!こんなにきれいになれるんです」
「…そうだな」
 ――きれい、かもしれない――
「(僕がきれいだって言いたいのは…こんなのじゃない…多分)」
「アルカヤの、星空みたいですね…」

――ねえ。この滝なら、消せそうですね。私のわがままが――

「なんだって?」
「いいえ。…………でも、ムリみたいですから」
 エスナはそうに言って微笑むと手のひらにまだ残っている魔法の光をぽーんと上に投げて水の中から戻ってきた。
「……もう少し、ここで…見ていませんか?」
「断る」
「…〜そうですか」
 くるりと背を向けた勇者に息をつく。『やっぱりだめだった』と言う様に。
「……ここまで来るのに…どれだけ、探したと思っているんだ……」
 それなのに当の本人は苦労も知らずに…。
 ――それに。
「(そんな自信はない…)」
 こんなところで二人っきりでいて…。
「?なんです…?」
「うるさい。なんでもないっ!!…行くぞエスナっ」
「……はいっ」

「う。ちょっと、待ってください、酒場…ですか?」
「そのために来たんじゃなかったのか?」
「えっ!?……ええ…そうです…ね」

 私のわがままは、少しでも近くにいたいと思っていること…。
「でも、いいんですっ」
「?…変なヤツ」




友達と夜、噴水のある公園に行きました。
何故か「噴水だぜ〜」とか言って…付き合ってくれた彼女に感謝。って友達も結構楽しんでたかも。
時間で噴水の形が変わったり、ネオンの色がついたりして…風にあおられて水が飛んできて、なんだか嬉しかったです。
アルカヤの噴水はきっと色はつかないだろうけど、噴水はあるもんね。きっときれいなんだろうなあ。
ヴァティカンの噴水もきれいだったし。

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