『闇に浮かぶ月』


 ――助けて。

 糸を切られて、動けなくなった操り人形のように………。


「……何を…しているッ!!」
 それだけしか言えなかった。
 どくんっ。
 …心臓が痛いくらいに高鳴る。冷や汗のようなものが伝う。
「見て分かるだろ?……ロクス、取引だ」
「取引だと!?…ふざけるな!その手を放せ…!!」
 直視できなかった。
 完全に気を失っている顔。ムリヤリ立たされて掴まれている翼、首筋にまわされた手。
 魔石を取りに行って、傷ついて。
「…………ッ」
「まぬけな天使様だな、本当に」

 一瞬、思う。『自分がもっと自由なら――』…ああやって天使を無理に引き止めることができるのだろうかと。

「(でも、そんなのは…ッ)」
「そうだな…。魔石を返す代わりにこのまぬけ天使様をお前の元に返さないってのはどうだ」
「…………」
 違う、試されてる。
 こいつが天使を――エスナを魔石と引き換えなんかにするものか。
「断る」
「くくっ、ロクス。お前は深読みしすぎなんだよ。……俺は周りがどうなってもいいって言っただろ。…だから魔石を集めようがそうじゃなかろうが俺には関係ない。………俺は俺が興味があることだけ出来ればいいんだ」
 宙に垂れ下がったままのエスナの手を持ってきて、手の甲に唇をつける。
「エスナに触るな!……返さないなら俺と戦え!!」
「何を賭けてだ?…魔石か?世界を平和にするための……。教皇様だからな、お前は」
「知ったことか!」
「…それともこの天使様か?お前は面白いよ、ホントに…」

「…なあ、天使様…………いや、エスナ…」


*


「うっ……ん…」
「気がついたな…よかった」
「ロク…ス?」
 何度か、息をついてそうに名前だけ呼ぶ。
 髪をなでられて。その手をどんなに待ち望んだか。
「…怖い…夢を見ました……暖かい手が届かない夢」
「……………」
 そうに言って法衣をつかんできた手は少し、震えている。これが世界の守護天使かと思うほど小さくて。
「(覚えてるのか?…)」
「…あ……いや…。……ご、めんなさいっ。…ええと。…に、任務お疲れ様でしたっ……今日はゆっくり――…」
 いきなり守護天使に戻って、笑顔で。
 自分でいられる時が少ない…エスナも。
「君も…」
 そうやって、髪を梳いていた手を自分の方に引き寄せて。
「少し休め。………怖かっただろ?」
「――〜ッ………………少しだけ…こうに……」
 素直に自分の胸に寄りかかってきたエスナをもう一度なでてやって。
「ああ……構わない」
 この翼が自分の元にいることを、どんなに待ち望んだか。
 天使の――エスナの意思で。




暁からもらったイラストがモトです。ぎゃあ(爆)。だいたいいつの話なんだか。
暁曰く「長編エスナは無鉄砲だ」そうで。その通り。

ヴァイパー×天使…なんとなく私が書くと(前もそうだったけど)「ロクスを困らせる手段」みたくなるし。
ん〜なんて言うか、人の心は難しい。
だが!しかし、学園モノではそうはいかなそうだ(何)。

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