『Ring』 法衣の下で首に引っかかる感じがして、それを引っこ抜いた。銀色のチェーンにかかっているリング。 普段、服の外に出さないから、こうにやって見るのも久しぶりかもしれない。 自分の指には入らないくらいの細いもの。内側にはかすれて読めないような字で、持ち主の名前が彫ってある。 それにしても、こんな細っこいの、本当に入るのだろうか。 「ふう………」 一息ついて。 開け放たれた窓からの風でカーテンが揺れている。その下からいつものように明るい声が響いてくる。2階のここまでちゃんと聞こえてくるんだ、相当騒いでいるのだろう。 「中庭か」 ひょいと顔を出すと子供たちと遊んでいる元天使が見える。最近はまるで保育園のようになってしまっている。 まあ、それでもいい。だいたい教会ってのは教会にいる奴らのためにある訳じゃないのだし。 「よくもまあ、遊ぶネタが尽きないな…」 感心する。ホントに。 いつのまにか窓枠に頬杖をついて苦笑しながらそれを眺めている自分がいる。 「………僕は、欲張りかもな」 首にかかっているチェーンを指で引っ張りながら。 目に映る全てが大事なものに見える。平和な聖都も、子供たちの笑い声も…そして、あの元天使。 「……エスナ」 「ロクス兄ちゃんっ!!」 ひときわ元気な声で名前を呼ばれて、気がつく。 「あ、ロクスお仕事サボっちゃだめですよ」 「え〜サボってるの?」 「……君な…」 自分は遊んでおいてそれか。と思ったが。 「あの!降りてきませんか?外、気持ちいいですよ」 言ってる事が違うエスナに笑ってしまう。 「いいよ。僕は君の言うとおりに仕事やるから」 苦笑して窓に背を向けた。後から子供たちの残念そうな声が聞こえてくる。 「…………」 とりあえず気が付かれないように中庭に下りてきたのに、目ざとく見つけられてしまう。勢いよく走ってきたかと思うと手やら服やらを引っ張られて、庭の真ん中に連れてこられる。 「あ、みんなに誘拐されてきたんですね」 くすくすと笑いながら。 「そうらしいな」 まだくっついてる子供の頭をなでてやったりして。そういえばこのくらいだった。自分が教会に来たのは。 「じゃあ…ロクスが来たから――…」 と、次の遊びの提案をするエスナ。それを言い切ることはなかった。 「……あ」 花びらが髪にくっついている。それだけじゃない、まるで雪のようにたくさん降ってくる。 直ぐにわかった、子供たちの仕業だと。 「ねえ、エスナお姉ちゃん」 手をぱたぱたと振って、エスナにかがんでくれと頼む。素直にそうしてやると、首にかかっている紐を取って。 「?」 十字架を取ったその子はロクスとエスナの前に来るとしどろもどろに。 「ええと、……あのねッ…………ずっと…ずーっと…………いるんでしょう?」 と、二人の顔を交互に見つめながら言った。 「ああっ、そうじゃないよ」 「あれ〜?」 にわかに騒ぎ始めるギャラリー。エスナはその子の頭に手を置いて。 「うん、そうだね…ずっと」 「(……ふん、そういうことか)」 いたずらっぽく笑う子供たち、『ちゃんと計画したんだぞ』っていうように。 笑ってしまう。子供にこんなことやられてしまうとは。 「エスナ」 苦笑しながらエスナの左手をとって、チェーンにかかっていたリングを取り出した。 「期待には答えないとな」 「…え?何の……?―――…あ、ダメですロクス、私も成長しましたから」 「?」 「それ。私が小さいときにしていたリングです…はまりませんよ」 「…………」 話の腰を折りやがって。 でも、それならば、と。 「……っ!?――…ロクッ…」 突然のことで真っ赤になって額を押さえるエスナ。子供たちの歓声。 エスナは抗議しようとしたが、再び舞い降りてきた花吹雪を見上げたところでそれをやめたようだ。 「お姉ちゃんっ、天使様の祝福があるといいねっ!」 「そのリング、ガブリエル様からいただいたものなんです」 と、笑って。 「祝福が訪れますようにって………訪れましたね?」 髪に花びらをたくさんつけたまま。 |
ある方に、「エスナの十字架はよく出てくるけど、ロクスはリング持ってるの?」と聞かれ(長編参照(爆)) 「自分から取っていったんだから持ってるだろ」ということで、リングを出そうとしたらこうになりました。 子供がみんなマセててちょっと困りますね(爆笑)。でも見る人によってなんだかわかんないかもしれない。 素直に遊ばれている二人。 割とロクスも子供好きらしい…。教皇様はやはり子供好きでないと!!(笑) でも純白勇者でこういうのってロクスが一番似合うと思う。 祝福・子供・天使…なんとなく。聖職者だし、教会だし。彼の生い立ちも子供のときがさ〜。 挿絵 BACK |