『未来へと』 「―――ッ…」 赤いものが飛び散って、全く力を無くした小さい身体がどさっと足元に転げてくる。がらがら言う音と、砂煙を巻きながら大きな車輪が前を過ぎ去っていく。 「……あ」 暫く、動けなかった。 命って…? ぺたんと座り込んでそれを抱く。 かすかな鼓動、 ぬるっとした血の感触。 「…お前っ…何のために…生まれてきたんだよ…?」 ――僕は許さないぞ! 「なあ、こんな痛い思いするためか!?…こんなっ、苦しい思いするためか…?」 叫んでいると、ぽたぽたと仔犬にしずくが零れる。 両親に頼み込んでもらった犬。うれしくて、誰かに見せたくって散歩していただけだったのに。 「僕の…せいか?」 ――ごめん、…なあ、また…元気に走ってくれよ…。 叫ぶのを止めて、優しくなでてやる。そうしたら、手から光が零れてきて…。 ――それが最初。 「と、父さん?母さん…」 両親の服の袖をきゅっとつかんで見上げる。その両親の顔が、気のせいかもう、知らない人のような顔に見える。 周りにはたくさんの大人がいて、難しい話をしている。 「…………」 不安そうに見上げる子供に、ムリに微笑んで視線を合わせた。 「ロクス…」 肩に置かれた手が多分、最後。 「元気でやりなさい」 「……いつ、迎えに来てくれるの?」 わかってるよ。来やしないことくらい。
――かすかに感じていた光が遮られて、目をゆっくり開けた。 自分を見つめる顔。その後ろには初夏の新緑が木漏れ日を受けてきらきら輝いていた。 「寝ちゃってたんですね。……夢でも見ましたか?」 少し、首をかしげる。その動作で小さく揺れる翼。 「君は何のために生まれ……」 はたと気がつく、何であんな夢を引きずってるんだ。こんなこと聞いても意味ない。 「?………――私は…。こうやって空を見上げるため…かな」 「は?」 「…春の暖かさ、冬の寒さ、とか…たくさんです」 「――なんだ、そんなことか」 がくり、と。…はあっと息をつく。 「む、失礼ですね。大事なことです!」 少し、むくれたように。 その動作にやわらかい翼がかすかに揺れた。 「君は暖かさも、寒さも感じられないだろ」 「そうなんです。だからなんです」 ――……そういうものか? 「『これから』ですよね。きっと未来はいくらだって変えられます」 「………」 ロクスは草の上に寝転がったまま少し移動してエスナの膝の本をどけて、頭を乗せた。 「はわッ!?…ロクスっ」 驚いて身を引くエスナを見上げて。 「おい、動くな。落ちる…」 「む〜……」 「………」 「これじゃあ本が見られませんっ」 「あとで見ればいいだろ、どうせ読んでも出来ないんだから」 そう、勇者からもらった攻撃魔法の魔道書。 「………任務――」 動けないから、言葉で精一杯の抵抗をしてみる。 「わかってる。ちょっとしたらな…」 とか言いながら目をまた閉じた。エスナは、その髪を気が付かれない程度になでて。 「………これから、ですね」 |
膝枕第2弾(違)。 なんだかDドライブ(に小説保存してる)見てたら見慣れないタイトルがあったから開いたらこの話だった(笑)。 一瞬、何の話かと思ったよ。 結構前に書いたやつかも…。どうも短編書くと話の運びが同じだ…。くどいぜ。 ま、いいか、自己満足(爆)。 BACK |