『風切り羽』


「(しまった……)」
 顔全体に『どうしよう』を浮かべて、今日は珍しく地上を歩いていた。
「(いつから…?こんなことになったのかしら)」
 関係ないのに、うらめしそうに勇者の背を見つめて。
「……はあ…」

「ふん…」
 ロクスは自分の手の中のものを見て、苦笑した。
「今日は浮かないのか?エスナ」
「………。! き、気分転換です」
「…それで違う勇者のとこにはいつ行くんだ?」
 普段こんなこと聞かないのに。
「〜ッ……それは、秘密です」
 変に平静を装って。
「へえ」
「…………!? わっ!」
 小さい声と、…ばたんっ。と倒れる音。
「…エスナ?」
 振り向いた先には派手にこけている天使の姿。
「ッた〜………ごめんなさい、転んじゃいました…慣れてなくって…」
「……………」
 こんな平面でどうして転べるのかが聞きたい。

「………。ロクスっ!!」
 照れ笑いをしていたエスナの顔がいきなり曇る。
「? なんだ、怪我でもしたのか?」
 少し、心配になったのだろうか、立ち止まって顔色を伺う。
「て……天使が…。飛べなかったら…いやですよね…?」
「は?」
「……ええと…」
 と、自分の翼をがさがさやって。
「羽が足りないんですっ…」
 いきなり結論から述べてくる。
「……………」
「あのっ。風切り羽が……羽は…回復魔法とかで治るものじゃないし…低空飛行もできないから、他の勇者のとこにもいけないし…」
 一度言い出すと止まらないらしい。今日、不安だったことを一気に吐き出す。
「エスナ――」
 まだ翼を不安そうに見つめているエスナの目線に手のものをぶら下げた。
 白い羽。少し長い…羽の切れ端…。
「あ…」

 エスナの顔が真っ青になったかと思うと、いきなり赤くなって。
「それっ!誰の羽ですかっ!??」
「(他に誰がいるんだ)エスナの」
「き…切ったんですか!?」
「ああ、今朝君が木の上でぼけっと寝てる間にな」
 あっさりと言われたのでそれが余計に怒りの対象になる。上目遣いで、睨んで。
「ロークース〜〜ッ!」
「ははっ。本当に飛べないんだな。天使ってのは霊体に近いんだろ?」
「…ア、アルカヤでは力がかなり制限されてるんですッ!も、もう知りませんっ!!」
 ロクスは楽しそうにそれを見ている。だいたい『もう知りませんっ』ときたら飛んで帰ってしまうのだろうが…。

「…………(あ、そうだ…)」
 案の定、飛べるわけではなくて。
「そのうち生えるだろ」
「…そのうちじゃ困ってしまいます…勇者のところにも行かないとなのに…」
「……………。エスナ…。あまり僕の前で『他の勇者』って言わないでくれないか」
「…?…ロクスと他の勇者を比べてなんてないですよ…私」
 前、『比べるな』と言われたことがある。
「ほら、また言ったな」
「…そんな顔して……怒りたいのは私ですっ」
「ははっ」
 羽に手を伸ばして、指で梳く。いきなりにやりと笑って、
「まあ、怒ってても何も変わらないぞ」
「………そうですけど」
 と、ゆっくり歩き出す。もう諦めて暫く同行することに決めたようだ。…多分、2日、3日。


 混乱していて忘れていたのだが。
 転移魔法と言う存在を完全に忘れていたエスナであった。思い出したのは、羽が生えてから数日後のことだった。




きいちゃんと小旅行のときに、車の中で思いついたもの。やったわよ〜きいちゃん!
鳥ってホントに風切り羽切るとだめらしいね?
天使の羽ってなくても飛べそうだけど(?)アルカヤだし?ってことで(謎)。
しかしロクス、よく考えると意地悪だ〜。まるでガキのいじめじゃん。これ。長編で暗いことばっかやってるので、明るいの楽しいです。

前、どっかの占いで「束縛に耐えよ」だったので。


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