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クリスマスです。…イブですが。
主いないのは主視点ってことで。
そして何となく書きながら考える適当小説シリーズ。
――――――――――――――――――――――
「まぁ、燭台切はそちら方面には造詣が深いかもねぇ」
朝から騒がしい厨の方向に目を渡しながらこの本丸の近侍・山姥切長義は息をついた。
完全和室の本丸だが、気分を盛り立てるためなのか、きれいなリボンに包まれた宿木の飾りが部屋にぶら下がっている。
「しかし、先月は主の誕生日会だとかで騒いでまたか。…全く年中賑やかな本丸だね」
なら、他の本丸はどうなのだろう。この本丸に来る前に何度か監査官として他の本丸に数週間程度派遣された事がある。それを思い出す…が。
「(まあ、覚えてないんだけどね。そこにいた人間や刀なんて…興味がなさ過ぎて)」
「―――君も燭台切に洋菓子を注文してきたのかな?」
朝からの事務仕事がようやく終了した審神者が火鉢の前に転がっている。それに言葉を投げかけて。
「うんん。私、そこまで甘いのにロマン感じるタイプじゃないよ」
顔を上げて、ついでに長義の脚の上に顎を乗せた。
「おい、あんなに甘ったるい香りさせてるぞ…」
「いやいや、別に苦手でもないって。クッキーとかよく一緒に食べてるでしょ。今日はね、お任せにしてきたんだ。絶対外さないからねうちの燭台切は!私があまり甘いのいっぱい食べないのも知ってるし」
「それに、皆で食べれば一瞬だよ」と笑う。
「へえ、…まあ、俺もここにきて数年だ。分かっているつもりだよ。確かに、彼らが作れる量なら皆、うまいと感じる程度に終わるだろうね」
「でしょ?燭台切は海外方面得意だし、楽しみだよね〜。でもでも、本場は結構……美味しくないんだけどね」
「………。ああ、そう…」
わかっている。「この主」をよく知っている初期顕現組の燭台切は「本場」を入れつつも主が好きな味付けにさせてくるのだ。
むしろそこが腕の見せ所だね、と考えているに違いない。
「それで?君はだらけ過ぎじゃないか?」
気が付いたら完全に膝枕状態になっている審神者の髪を指で梳いた。
「今から行っても菓子作りに邪魔だと追い出されるのは仕方ないにしても、そろそろ大掃除も控えているんだけど」
「うわ、長義、先生みたい」
「ま…元、とはいえ監査官だからな」
「じゃー監査官様に「劣」を付けられないように雪かきでもして来ようなぁ〜」
「……そちらの方が面倒ではないのかな?それに力自慢の奴らがもうしているよ」
つん、と、梳いていた髪が指に引っかかり、ほどく。それを繰り返しながら長義は呆れたように笑う。
「君が雪かきを始めたら近侍の俺まで付き合わされるだろう?……勘弁してくれ」
首を動かすと、コキと音がした。
実は朝からの事務作業はいつもより多く。二人とも疲れ切っていたのだ。
だから言葉では「だらけている」と表現したがそれ以上は長義は急かさなかった。
「ふふー…なら、もう少しこうしてようかなぁ」
頭に感じる長義の指先。いつもはつげ櫛で梳かれているが、この指で梳かれるのも好きだ。
「……勝手にどうぞ。心配せずとも「劣」はつけないよ」
「お、監査官様、優しいねえ〜」
「前言撤回。…あまり馬鹿を言っているとわからないかな」
冬の晴れた日は、とても明るい。
庭に、屋根に積もった雪が光に反射するから。
どさ、とたまに雪が落ちる音が聞こえる。
だが、明るい、と言ってもこの時期だ。すぐに暗くなるだろう。
「ねー、明日の…クリスマスは、みんなで過ごそうね」
「……」
「長義は、というかみんなは打たれてからずっと今の年まで存在してて、勿論私が生まれた時代も通ってきてるわけでしょ?」
「例外はあるが、少なくとも俺はそうだな」
「じゃー、その時代時代とか、場所でクリスマスってもんがどんなだかなんとなくても知ってるんだよね?」
「まぁ、…ね。大元を辿ればとても質素なものなのだろう。宗教的なね。…だがそれが世界に散らばり、日本に来て年数と共に変化し、ただの祭りになった、という…それこそ「なんとなく」だけどね」
膝に乗った審神者の頭が少し動いて、腕が長義の身体に回ってきた。
ぎゅ、と内番着を掴んで。
「この日はね、家族で過ごす日、っていうから。みんなで過ごしたいなって」
「ああ。わかっているよ。俺がこの本丸に来てからこちら、この日は誰も外に出していないのは知っている。買い出しでさえね」
そう、本日、いつもより本丸が静かなのは買い出しに出ているからだった。作業をしている厨と庭の雪かき部隊の声しか聞こえないのだ。
いつもは事務作業を手伝ってくれる薬研や山姥切国広、長谷部らも本丸を抜けているからこそ、審神者と近侍に全ての事務作業が回ってきていて―――今の時間まで非常に忙しかったのだった。
長義は己の身体にしっかりと回っている腕に手を置き、指を解かせ、そこに自分の指を滑り込ませた。
「ん…?」
「少し冷えているな…」
「大丈夫だよ」
「……身体は温かいみたいだけどねぇ?そんなに俺の脚が居心地いいのかな?」
「っ……」
少し意地悪気な声が降ってきて、審神者は目を上げる。
青い目と当たって、―――だがその視線は声音の意地悪とは違う、この審神者だけに向けられる優しい青。
「……長 義」
そして、射貫くような目。
「どうした?」
「………。や…なんでも」
もしかしたら長義自身も気が付いてないのかもしれない。独占欲と、優しさを湛える自分の目の色に。
そしてその瞳は人とは違う。人のそれより深く、底なしの泉のように。
「(実はこの目が好きなんだよね…)」
かあっと顔が赤くなって、ぎゅ、と長義の服――腹辺りに顔を押し付ける。
「…おい、何をしているんだ。フードの次は俺の腹が気に入ったのか?…全く、一人で盛り上がるのは勝手だけどねぇ」
先程まで明るいと思っていた庭は橙色の光を纏ったかと思うと、すぐに群青色に染まってきた。
火鉢の火が照明の代わりになる程には。
「ね、―――長義」
「何かな」
「か……、家族、だからさ、ずっと傍にいてね。―――私、みんなの事も家族みたいに大事だけど…」
「……」
腕に力が入る。それと同時に身体に一際温かい感覚がする。それは熱い息だ。
「…っ」
「長 義 …はさ。……それとはまた、違う、から…」
「勿論。何を今更、かな」
「え」
「何が、「え?」なんだ? 君が俺の事を好きなのも十分承知している」
「……ぅ」
「…―――ああ、意を決して言ったのに、とでも?」
「ああ」とわざとらしく声を上げるのはこの山姥切長義の喋り方だ。
分かっている。分かっているのだけども。
「――〜〜〜ッ!!」
「…ああ、…主」
また、長義の服に顔を押し付けて離れなくなってしまった審神者の髪に、頭に触れ。
「はは、顔を上げたくないのなら、そのままでいい」
優しい声。
「……」
「この山姥切長義。俺は貴女だけの刀だ。―――だが、それ以上の存在であることは既に誓っている。俺は貴女の一番近しい家族だよ」
頬に指がつつ、と滑るから、あまりに声が真剣に家族と言うから、誘われるように顔を上げる。
青い目に誘われるように上半身を起こし、ほぼ同じ目線で。
「……愛を語るなど、刀が…いや、俺にはないと思っていたけれどねぇ。 まぁ…いい。これも俺という刀の正史なのだろう」
「正史…か。元監査官が言うと、すごい重い感じ。長義がそう思ってくれて、嬉しい」
「重いも何も、それが真実なら揺らぎはしない。……ああ、ならば、その正史はこの俺が守るよ。…貴女は俺のものだ、と」
「――。………」
ゆらゆらと光が揺れるから、ゆっくりと近づいてきた顔に気が付かなかった。
気が付けばもう銀色の髪が黒髪に溶けるほど近く。
「そういえば……宿木の飾りの下で……と何かあったな」
口にした真名が、唇に触れる。
息が絡み、触れるだけを繰り返して。
「― …――。…っ」
耳を澄ませなければ聞こえないほどの、真名。
緩んだ唇に舌を割り入れ、歯列をなぞる。
「―――ん…ッ ちょ……う ―――ぎっ」
「! …――――ちっ」
長義が舌打ちをしたそれと同時。
廊下に明かりがついて騒がしくなった。買い出し部隊が戻ってきたのだろう。
「はぁ……ッ 空気を読めないのかな、全く」
「………」
「俺はこのまま結界を張って君といてもいいけれど、そう言う訳でもいかないからねぇ…」
前髪をかき上げて盛大にため息をつく。冗談で言っているのはわかるけれども。
「あ、はは…」
「主」
いつの間にか審神者の腰に回っていた腕は、もう一度ぐっと力が入り。
「ん?」
「…少なくともクリスマス期間中とやらは―――俺から離れるなよ。俺と君は離れることのできない家族、みたいだからねぇ?」
「ッ… は? み、みんなの前でも?」
「はは。…さぁ、どうかな?」
内番着のポケットから指輪が通されたチェーンをちらつかせ、そう言う。
「さ、楽しみだねえ、クリスマスとやらが」
「―――俺の主?」
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