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刀剣乱舞 山姥切長義

突然寒くなってきた晩秋。

布持ってかぶりに来る主の続き。



―――――――――――――――――――――

 秋らしい高い空に、陽は照っているが風は肌寒い。屋外と屋内の温度差が激しい。
 すっかりぬるくなってしまった傍らの湯呑を手に取り、すすった。

「……」
「んー………!うっわ、肩痛い腰痛い」
 背もたれにぐーんと身体を預け伸びをする。伸びをして、反り返ったついでに近侍の山姥切長義が立ちあがるのが見えた。

「閉めるの?」
「ああ、木の葉が入って来るしな。風も冷たくなってきた。……それで主、仕事は終わったのかな?」
「終わった終わったぁー!シメにリターンキー、パーンって打ちたいくらい」
「はは、なんだそれは」
 障子を閉めても十分に光は入ってくる。どうやら外は相当天気がいいようだ。

「長義は終わった?」
「当然。滞りなく」
「そっか、おつかれー。燭台切がお菓子作ってくれてるって話だからもらってくるよ」
「ああ…それなら」
 立ち上がろうとする審神者に長義は言葉で止める。
「先程、あまりに主が集中してるから、って置いて行ったよ。本当に気が付かなかったんだな」
「え、あ、そうなんだ。あとでお礼言ってこよー」

 差し出された盆には焼き菓子が二人分。
 鉄瓶に入っていた湯はぬるくなってしまっていたが飲みやすいだろうという事でそのまま頂く事になった。



「あー……」
「なんだその緩んだ顔は。今日の菓子がそんなに気に入ったのかな」
「ふふーそれもあるけど、…いやー、いいなぁって」
「へえ」

 自分たちが無言になると周りの声がよく聞こえる。
 鍛錬中の掛け声に畑仕事の指示を出す声、遊んでいる声。
 いつもの本丸だ。


「あ、長義、明日畑だっけ」
「………。ああ」
「あは、手伝おうか?」
「…いいよ。君が来たらもっと時間がかかりそうだ。早く終わりにしたいんでね」
 息をついて手をひらひらと振る。
「それに君だって遊んでいる間はないだろう。事務仕事、明日の提出もあるよ」
「ふふ」
「なんだ」

 大判のひざ掛けを持ったまま立ち上がって、少し障子を開けて外を伺う。
 ――――本当に天気がいい。
 それからまた閉めて。審神者の一連の行動を横目で見ながら長義は残りの菓子を口に放る。


「―――しかし、好きだね」
 そのあと、畳に膝をついたかと思うとわかりやすい行動。
 ふわりと温かい。
「そんなに俺の背に甘えたい?」
「んー、風がやっぱり寒いし、こうしてれば長義もあったかいよね」
 どうも毎日いろいろ理由をつけてくっついてくる。
「まぁ、こうしたいんだけど…。長義が嫌じゃなきゃ…だけど」
「いいよ、こう毎日続けばね。君がこういう性格なのも理解している」

 長義は言いながら内番着のポケットから小さな本を取り出す。何をする訳でもなく、ここから長時間になるだろうと思ったからだ。
 黙って寄り添っているだけで何故心地がいいのだろうか。物として数百年人と居た筈なのに、分からないことがまだあった。
「(全く、面白いね。時間を無駄に過ごすのが楽しいとは)」

 ただの「刀剣男士」と「審神者」の関係ではなくなり、互いに「たった一人」と認識してから数ヶ月。
 どちらかと言えば「騒がしい人間」の部類に入るこの主。
 顕現されてからこちら、どうやら自分は騒がしい方が苦手らしい、と自己分析をしていたのに。この騒がしさも、そして今のような静けさもどちらも大事なものになっている。

 背中から伝わる体温。息遣いにくす、と笑い。
「ただ、俺以外にはするなよ。……流石の君も分っているとは思うが」
「しないよー」
「…どうだか?…君はやたらと男士に抱き着かれているだろう?」
「え、粟田口の子たちでしょ?」
「………」
 首を回し、わざと少し冷たい視線を作って。
「へえ?君の初期刀は粟田口か?」
「! …加州、は」
 長義の背、服を掴んでいた手は、その身体に回って。
「…あの子は甘えたい、だけだと思うんだけど…」
「へえ」

「加州、私より背が低いし」
「は?背丈で判断するな」
「あー、あのね、…最初、審神者になる、ってなった時のことなんだけど」
「……うん?」
「刀…刀剣男士の主になる、なんて想像もつかなくて。だって、刀なんて触ったこともなかったんだよ」
「……ああ」
 小さく相槌を打って。
「きっと考え方も人と違って、…男士たちは刀だし付喪神、だから…いろいろ感情も人と違うのかな、もしかしたら無いのかな?とかって思ってたんだよね」
「へえ、……まぁ、そういうものかもな…。だけど、ヒトの男の身体を与えられた存在。もし、そんな感情がない生き物なら、なにも俺たちに「姿形」や「個性」なぞ存在しない話にならないか?」
「あー、うん、今はそう思ってるよ。すごい個性の持ち主ばっかりだよね。もう驚いたわー」
「はは…」
「ああ、だからね、…その当時は…と、とりあえず、自分の刀を守ってあげられる主になろうって思ってたんだよ」
「(いや、今の話から何故そうなる…?)」
「そう……あの、お姉さん目線? というか」
 男士を前にして少し言いにくいのだろう、長義の身体に回された手が、指が、落ち着きのない子供のように動く。
 そう、今となっては審神者より体格的にも精神的に大人の刀もたくさんいる。寧ろ子供扱いをされているのは審神者の方だ。
「へ、へえ…」
「だから加州の事も弟みたいな感じに思ってた。あの子、甘えっ子だし」
「…なるほど…」
 弟にしては、と長義は思う。事あるごとに「なんで後から来た長義に主取られてんのー!!主の恋刀とか信じらんないんだけど!だから政府刀は嫌いなんだよ!」と突っかかられているからだ。
「(まぁ、…いいけどね)」
 身体の前で浮いた手を取り、解かせ、それから長義は身体を回して審神者と向き直った。

「まぁ、俺は他の男士の事を君がどう思っていようと、関係ないけどね」
 頬の横を流れる髪を指に取り、
「んっ…」
 そのまま後頭部に手を回すと胸に。
「…長 義…?」
「俺からしたら、君の方が大分甘えっ子だが」
「…………。ん…、だって…、長義だし」
 ゆっくりと頭を撫でる手に段々と長義の身体に重みがかかってくる。
「なんだ、それは」

 ―――そんなことは聞かずとも知っている。
 意地悪して「他の男士にはやるな」と口にしたが、審神者がこうして自ら腕を回してくるのは確かに長義だけなのだから。

「…私は自分の刀を守るし、長義の事も守りたいけど。…長義は私も守ってくれるもんね」
「おや、他の男士も君を守っていると思うが?なら俺と同じではないのかな」
「ほら、また意地悪言うー」
「どうにも、俺はこういう性格だからねえ」
「ふふ、知ってる。     ――――……好き」
「ああ、はいはい…」
 言葉の最後の方が服に顔を押し付けてほとんど言葉になっていなかったのだが。長義はその言葉の返事のように、肩を抱く腕に力を込めた。

「重くない?」
「…だから、重くないよ」
 いつも繰り返される意味のないこのやり取りにも、これが主なのだろうと笑ってしまう。
 「重くない」とわかっていても相手を気遣う。
「(無駄なことなど好きではなかったのに、それが好ましいと思うなんて俺も相当、かな)」
 気が付くと目を閉じている。呼吸を見るにまだ眠ってはいないようだが、時間の問題だろう。もしかしたら睡魔と戦っているのかもしれない。
「主、寝てもいいよ。…俺は構わない」
「でも」
「…いい、と言ったよ。それに、君に乗っかられている方が俺も温かいからね」
「(あ…長義の声…)」
 声を落とし、優しく囁くような言い方が好きだ。そうして、真名を呼んでくれる。
「……少し、したら起こして…」
「ああ」


 それきり声が聞こえなくなり、また少し、重みが増す。
「……さて…」
 肩に回す手に、緩やかな黒髪が触れ、それをくるりと指に巻き付けた。
「この様子じゃ…暫く暇になりそう、かな」
 先程取り出した小さな本を片手で器用にめくりながら、外から聞こえてくる声にまた耳を澄ませる。
「は、……騒がしいね、全く…」





だらだらしているだけ(笑)。

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