勝手に自分のサイトに貼り付け・配布が増えています。絶対にやめてください!
転載許可は出しておりません。どんな使用方法でも画像の転載・使用を禁じます!




診断メーカーで「寒いとなんとなく言ったら主がブランケットを持ってくるまってきた」というのがあったので描いてみた。


そして書きながら話を考えていく。
―――――――――――――――――――――

 庭の金木犀の花がそろそろ終わりだ。
 近くを通るとふわりと香って来たあの甘い香りも今はすっかりと影を潜めた。

 そういえば、顕現された頃もこんな風景だったと思い出す。



 ――――この本丸に来る1年ほど前に政府によって、この俺、山姥切長義は顕現された。
 1年、と言っても時間を行き来しているので実質1年以上の経験はある。
 政府内の仕事や本丸の監査、また、戦闘部隊に所属していた時期もあったので、実戦経験も少なくない。
 まぁ、他の「山姥切長義の名を持つ刀剣男士」の事は興味がないので知らないけれども。

 そんな中、何度目かの本丸の監査で「山姥切長義の譲渡。所属となる」と言い渡された。
 当初は現場に落とされたと少なからず感じていた。
 だが、考え方を変えれば…、そういえば政府での生活は退屈なものだった。ならば現場の方が面白いだろう―――と。



「(やれやれ、まさか俺がこんな事になるとはね)」
 …まさか、だ。
 この本丸に譲渡され数年が経過した。
 この本丸の主は「主以上」の存在となっている。主の寿命が尽きる間際、俺の神域に連れていくと約束した。
「(まさか、この俺が、ねえ…。おかしな事だ。全く…)」


 審神者経験年数にしては所有の刀が少ないこちらの本丸は、本丸設立初期からいる薬研藤四郎曰く「コレクターじゃないからな。目が届く範囲、仲良くできる範囲で〜、ってことらしいぜ?」とのことだった。

 初めての政府刀との事もあってか、主はよく話しかけてきた。
 相談にも乗られたり、していた。 ―――と思う。



「……ふ…」
 長義は顎に手を当てて息をついた。





 ――――いつからか、苛立っていた。主に甘える男士たちに。それは初期刀の加州清光は特に顕著だった。
 その苛立ちは「主」と「刀剣男士」という間柄になった反動かと思っていた(いや、今となっては「思いたかった」だろうが)。それに主が「女性」であり、俺が「男」だからか、と。
 思い返せば確かに刀剣男士として政府に顕現された時も暫く自由に動く身体を持つという事に違和感があった。

 …だから「そういうものか」と。

 当然だが今までの主は俺が「刀」の状態でしか会ったことがない。付喪神として顕現され、ヒトの男の身体を手に入れて初めての主だ。
 だから主である審神者を遠巻きながら観察していた。俺が仕えるに値する人物かどうか、と。

 ―――ああ、きっとそれが間違いだったのかもしれない。

 俺のこの気持ちはどんどん嵩を増していった。
 明るく、よくふざけている姿は当初はこそは騒がしいと思っていたがそれが、段々と変わっていった理由は心と。「長義さん、強いのはわかってるけど心配くらいさせてよ」と笑った顔。
 審神者が女性だからかもしれない。だが、女性など政府でも見ていた。今まで監査で訪れた本丸や、演練先の相手の女審神者とも話したことがある。……が、その女性らには何も感じなかった。
 『ただのうるさい人の子』くらいにしか。このか弱い生き物を守るために顕現されたのだろう、位にしか―――。



「仮にも神の名を持つ俺たちが、人間に心配されてはねぇ。たまったもんじゃないかな」と、いつだか、呆れたように言った。いや、実際呆れていた。
 人の子に心配されるなど、と。
「うーん、でも心配くらいさせてよ。よく言うじゃん?神様は祈りや願いを聞くだけで、じゃあ神様の事を心配してくれる人っているのだろうか、って」
「(そんなことよく言うか…?)」
 人がこういうものなのか、この本丸の主がこうなのか。



 いや、主は、彼女は違う。
 ――――そうだ、俺より前にこの本丸にいた刀らとて主の真名を知らない。
 俺の方が上だ。きっと彼女にとって俺が一番だ。
 この腕に閉じ込めておきたい。いや、誰にも触れられぬよう、俺の神域に連れていきたい。
 今、彼女に必要なのは―――。



「(そう、真名を教えてくれと聞いたのもその辺りだったか)」
 あっさりと名前を言ってきた主に「政府から気をつけろと言われなかったか」と聞いたら「そうだっけ!?」の後「あー、でも…長義さんならいいかな」と言って来たのだ。


****


「!……は。 ――――駄目だな…何を今更昔の事を…」

 長義は文机に向かっていた手を止め、ん、と伸びをした。


 ふと、開けっ放しの障子から風が流れ込んできて、「風も冷たくなってきたな」とつぶやく。

「長義ーっ」
 廊下をパタパタと走る音。
「主…? 全く、噂をすれば、かな」
「ね、今、寒いって言った!??」
「言ってないよ。まぁもし言ったとしてもものすごい地獄耳ということになるが…?」
「まあまあ、言ったよね?ほら、風強くなってきたしさ? だからーふふ、いいの持ってきたー」
 その腕には薄手の明るい色の毛布。
 ばさりと肩にかけられ、それから自分も一緒にくるまってくる。大き目のその毛布は二人で使っても窮屈ではなかった。
「外居たらさ、寒くなっちゃって。慌てて出してきたんだー」
「…へえ」
「これであったかい?部屋でじっとしてても寒いよね。近侍の仕事やっててくれたんでしょ、おつかれさまー」
「……ああ、まあ大したことはしていないけどね」
「さっき手が空いてる子が炬燵出すって言ってたよ」
「………」
「長義?」
「いや……。まさかこんな事になるとはね、と思っていただけだよ」
「? え、炬燵が?」

 当然、今までの長義の頭の中が見えているはずもなく、審神者は疑問符をいっぱいに浮かべる。

「――」
 頬をくすぐる黒い髪に、その耳に唇を寄せ、真名を口にする。
 それは日本人には珍しくない、漢字二文字、ひらがなにして三文字の名前。
「ん! 長義…っ!」
「大丈夫、聞いているのは俺と君だけだ。そんなヘマはしないよ」
「…たまには、そりゃ、呼んで欲しいけど。審神者やってると名前忘れそうなくらい呼ばれないから。で、…何が「まさか」?」

「そうだな………」
 長義は言い掛けて、それよりも、と毛布と共に寄り添う身体を、肩を抱きしめる。
「っ! ちょぉ、 ぎ?」
「…こんな感じ、かな」
「えー、わけわかんないんだけど?」
「ああ、そうだな」
「でも…」
「?」

「なんか嬉しい」
 笑い、長義の首筋に甘えるように顔を押し付ける。
「……ああ」


「間違いなどではなかったな…」
「え?」
「……いや、何も」

 ――――君を視界にずっと捕らえて、こうなったのは。
「……俺の主」



 金木犀の花が終わる頃、
 また来年も寒いと言えばこうして――――。





WEB拍手 感想等ございましたらどうぞ!